第18話 ラプナール城の血浴(2)
「皆殺しだ! 覚悟いたせ!」
渡り廊下に四方を囲まれた王宮の中庭で、噴水を浴びて行水をしていた伝書竜のアドゥルーが驚いて逃げ出す。突如としてラプナール城内に出現したヤモリの魔人ゲッコーゼノクは指先から放った光線で庭園の木や花を焼き払い、駆けつけた衛兵たちを次々と薙ぎ倒して暴れていた。
「構え! 放て!」
鉄砲を携えてきた三人の兵士が同時に発砲し、ゲッコーゼノクを攻撃する。だが硬い獣人型の鎧に身を覆われたゲッコーゼノクは三発の銃弾の直撃にも少し痛がる素振りを見せただけで、大した傷は負っていなかった。
「生意気な。くたばれ!」
火縄銃は弾込めの作業が煩雑で、一度撃ってしまうと二発目を撃てるようになるまでに時間がかかるという弱点がある。急いで弾を装填しようとする三人の兵士たちに襲いかかったゲッコーゼノクは一人を殴り倒し、残る二人の首を左右の手で掴んで怪力で大きく投げ飛ばした。
「何てことを……!」
王宮の長い渡り廊下を走ってきたラットリーが、炎上する庭園と倒れた衛兵たちの姿を見て息を呑む。慌てた様子で空中を旋回していたアドゥルーは、いつも可愛がってくれるラットリーの姿を見ると飛んできてその背後に隠れながら精一杯の威嚇の唸り声を上げた。
「来たな。マノウォーン家のゼノクよ。我と勝負せよ!」
「私のことを詳しくご存じのようね。……アドゥルー、ちょっと離れてなさい」
自分の顔と、ゼノクになれるのを知っている人物となると宮廷内でそれなりの地位にいる人間だろうか。相手の発言を訝しみつつ、すがりついてくるアドゥルーを空に放して退避させたラットリーは精神を集中させ、高めた魔力を全身から炎のように立ち昇らせた。
「――
夜の闇に美しく輝く黄色い光が凝固して昆虫型の鎧となり、ラットリーは蝶の化身パピリオゼノクに変身した。魔力の粒子で生成された大きな羽を広げ、地面を蹴って飛び立った彼女は高速で滑空しながらゲッコーゼノクに突進する。
「神聖な王宮を荒らすなんて許せないわ。目的は陛下のお命? それとも私かしら」
「我に与えられた任務は、貴様との一騎打ちを楽しむことだ。たっぷりとな」
「意味の分からないことを!」
自分か、もしくは父のジラユートに恨みでもあって標的にしているのか。戦いながら心当たりを探したパピリオゼノクだったが、王家の外戚として高位高官を独占しナピシムの王朝を牛耳っているとまで言われるマノウォーン一族を妬む者は多過ぎて、これだけでは相手の人物像を絞りようがない。
「その綺麗な羽をズタズタに切り刻んでやる!」
格闘では不利と見たゲッコーゼノクは自分の左の手首を覆っている装甲を光に変えて大きく引き伸ばし、刀として実体化させ取り外した。鎧の一部を変形させて生成した魔刀・
「出来るものならどうぞ。剣術なら陛下の御前試合では一度も負けたことがないわ」
パピリオゼノクも同じように左腕の装甲を無数の粒子に分解して膨張させ、レモン色の光沢を帯びた長剣の形にして引き千切る。魔剣プラトゥムを正眼に構えたパピリオゼノクはその刃に眩しい閃光を迸らせながら、突っ込んできたゲッコーゼノクと激しい打ち合いを展開した。
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