第3話

「じゃあ最初から、NPCと触れ合えるゲームを作るつもりだったって、そう言えば良かったじゃないですか……」

 体感型ゲームや没入型ゲームは、既に身体的な障がいを乗り越えて、娯楽を提供することに成功している。では人間と絵が共に楽しめるゲームとは何だろうか。真場の答えはこうである。

「人間と、今まではNPCを勤めていたAIとで、双方向インタラクティブに触れ合えるゲーム」だと。そしてそれこそが、先ほど塩湖が体験したホラーゲームなのだった。

「あれはね、脱出する側と閉じ込めておく側の、二つの役割が用意されているんだけど──」

「要はかくれんぼですよね」

 真場の説明を遮って、塩湖は言葉を話した。

「怒ってる?」

 いえ、と否定して、塩湖は顔を背けた。

「わかりやすい人ねえ」

 苦笑したのか、真場から鼻息を漏らすのが聞こえ、

「じゃあ、続けるけど──AIはこの二つの役割を演じるにあたって、何が最善な行動かを模索する。その過程で、相手役プレイヤーの思考を理解トレースしようとするわけよ。この時、AIは誰よりも塩湖君になろうとしている」

「だから、おっかない僕自身が現れたんですね?」

「いやあまさか、あんなに良い反応をするとは想定外……」

 塩湖は歯軋りをして、「プログラム通りだったってわけですね?」

「ぺろっ」

 と言って真場は舌を出す。

「あ、違う。『てへっ』か」

「どちらでも良いですよそんなこと。それより、大体のことは分かりました。それで真場さんがどうして僕の論文に目をつけたのかも」

「おっ分かっちゃう? 流石だね」

 塩湖は心を涅槃にして、「少し飛躍しているので、違っていたら教えてください」

 そう前置きすると、

「人間とAIが共に楽しめるゲームにするには──つまり双方向的な体験を実現するには、AI……違いますか?」

 真場は澄まし顔を浮かべながら、

「どうしてそう思ったの?」

「先ほどのホラーゲームを指して、かくれんぼと表現するのではなく、見つける側と閉じ込めておく側、二つの視点から役割を説明したのが、何となく引っ掛かったんです。かくれんぼと言えば隠れることだけを想定してしまいがちですけど、プレイヤー視点──つまりこの場合、人間側だけではなくて、AIからの視点も含めて言及している。そう考えた時、もしも人間にもAIにも担える役割で構成されたゲームならば、どちらも楽しめるのではないか……そう思ったんです」

「ふうん」

 と真場は腕を組み、

「でもかくれんぼって、英語では『ハイドアンドシーク』……隠れることだけじゃなくて見つけることにも言及していることになるわ。だからかくれんぼがそのまま隠れることだけ、人間側だけ言及している……というのは暴論ね。というかバイアスだわ。そうよ! バイアスだわ!」

「情緒どうなってるんですか?」

「まあそれはさておき、おおよそ塩湖君が考えた通りよ」

 真場は急に落ち着きを取り戻した。

「人間にもAIにも担える役割を用意する。それが、種族を超えて楽しめるゲームの条件。では、具体的にどのようなゲームが考えられる? 面白くて楽しくて、その上万人受けするもの。それを貴方に──そしてゼミ生皆にも、手伝って貰いたいの」

 真場がおもむろに背後を振り向いたかと思えば、薄く開いた扉の隙間から、学生たちが傾れ込んだ。立ち聞きしていたのだろう。真場の奇矯な振る舞いは、部屋の外に居る皆にも聞かせたかった……から、だろうか? 本当に?

 塩湖は分からなくなった。

「具体的に考える段階に入りました。うひょひょ。楽しいのはここからよ。さあ、精一杯頑張りましょう!」

「お、おおー」

「お……おー」

「おおー?」

 よくわからないまま勢いに飲まれ、まばらだがやる気が集まったことで、ゼミ生たちは団結した。

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