第4話 町医者
ディータはほどなくしてアルノーを見つけエリサの薬と、アイナから聞いた新たな錬金術師の事を伝えた。
「その人に会えば、何とかなるのかな?」
「いや、わからないけれど、作った本人なら行動範囲や予測ができるかもしれない、と言ってた」
「で、兄さんはそこに行こうとしているんだね」
「ああ、だが、その前に医者に寄ってから行きたい」
「…だね」
兄の言葉にアルノーが真剣な顔で頷く。
何の権限があって、人を混迷させておく薬などを処方したというのか……。
なぜ、あんな薬を処方したのか…
それほど、あの二人は、この島では邪魔であるのか…?
「…ここだ」
ディータが、エリサの枕元にあった薬の袋を見ながら一つの医者を示した。
対応に出てきた医者は、ディータが手にしている薬袋を見て、なぜか、ほっと安堵したような息をついた。
最初は、確かにエリサは軽い風邪か何かだったそうだ…
それは一番最初の診察の時にわかっている。薬もそのように処方した。
しかし、その日の夜のうちに、軍部の人間がやってきた。
エリサが寝込んだと知っていて、薬の処方を変えろ、と言ってきたのだという。
こんな小さな町の医者一つくらい潰すのはわけがない、と脅され、医者はしぶしぶ従ったと言う。
命を取るような薬ではない。
ただ、眠り続けるだけだ…
栄養面の方が気になるが、薬の中にビタミン剤などを混ぜてやれば、少しは何とかなるだろう…
「心が痛まなかったわけではない…アイナは…まあ、あれな錬金術師だが、無欲でお人好しだからなあ…
高価で手の出ない薬品なんかを、他のものから練成したりしてくれて…」
医者は、深くため息をついた。
「軍…」
アルノーがつぶやくと、医者は、ああ、と頷いた。
「司令部だ。内乱の時に、アイナが一時所属していたところだ……」
医者は、ディータとアルノーを見て、弱弱しく笑った。
「君たちが来てくれて本当に良かった。苦しかったんだ……これで、エリサも目を覚ます……」
軍部に言われるまま薬の処方をし、自分で止めることができなかった気の弱い医者は、誰かがどういうつもりだ、と糾弾しに来るのを待っていた。
人任せと言ってしまえばそれまでだが、仮にも医者だろう、という気持ちでディータはその場をあとにした。
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