二次創作の吐き溜め

ほし めぐま

共感覚おばけ その1

そこは紛い物のエデンの園


心ない人達が忘れた楽園擬き


秩序・序列・概念がふんわりと残されただけの


生き物達と異形が住むもうひとつの地球。


いや、正しくは地球自ら回らない地球。


世界の形は丸く地続きであるべきなのに何故か四角い範囲を抜け出したら丸いのにこの楽園にに戻れなくなる世界。


そんな紛い物の世界。


人々がとうにわすれた


人の頭を漂うちっぽけな楽園。


ええ、

そんな世界に2人だけ異形が住んでいるのでした。


白い異形と黒い異形。


この2体はこの狭くも広い世界のそれぞれ西側と東に住んで居たので、彼らは自分以外の異形の存在など知らずに何も変わるこのない日々を過ごしていました。


通りすがりの神様が気まぐれで、

エデンの園の世界中心に公園を作るまでは


娯楽の概念しか無いエデンの園に動物達曰く


「エデンの園に更なる憩いの場を設けてくださった。」と言うのです。



ここは概念でしかない楽園。


そう、この場こそが限りなく彼らにとって


夢の様な生活を送る紛い物の現実なのですから。


ただの場所。されど場所。


その公園で2人の異形が会うことになるのでした。


まだエデンの園には恋の概念がないと言うのに…


エデンの園に残された2人の異形には

それぞれ力がありました。


人間の出来損ない

それこそ異形であり、

人間にあるべきものとあるべきでないものを

異形は持っていました。


西の白い異形は

誰からも愛されその愛を受け取ることで

全ての生き物の姿に変身できますが

心を持っていません。


東の黒い異形は

豊かな心を持ち全て生き物に共感し、

体に取り込むことで一体化できますが

これら全ては彼の持つ角の力であり、

心以外は彼のものではありません。


そして、彼らは自分の力以外の自分を知りませんでした。



─ある日。


金星がまだ強く輝く夜明けに公園に誰よりも先に着いたのは白い異形でした。


それに心が無いからなのか


それとも寧ろ孤独を求めて居るからなのか

白い異形は意味も考えずに公園のベンチに腰を下ろしました。


そうそう、何せ通りすがりとはいえども

れっきとした神が作った公園です。

白い異形は公園の空気の心地良さについ、ぼんやりと遠い昔のを思い出していました。


エデンの園に人間達がまだ居た時は白い異形もまた1人の女の子でした。


概念で出来たエデンの園では

愛の概念はあっても恋の概念はありません。

ここでの愛とは”自他ともに愛はあるもの”であり、愛が特別なものでもなんでもないものでした。


女の子が恋を知ったのは呆気ない事に隣人の男の子が葡萄のひと房を分けてくれた事がきっかけでした。女の子もまた自分が心に持った感情を理解する事が出来ませんでした。それでも、女の子は彼の事が好きでした。


女の子の心は温かい気持ちであふれ、自分は葡萄の子に優しくしてあげるものだと疑いませんでした。


そんな平和な日々は唐突に終わり、

エデンの園の長アダムとイブが林檎を食べた日、

人間達もまた林檎を食べて楽園を出なければ行けなくなりました。


ですが、女の子の集落の林檎の樹はたった1本しかなく、集落の人間は仕方なく林檎を回して1口ずつ食べました。


最後に女の子の番でしたが…

男の子が残る全部を食べてしまいました。


それを見た女の子はエデンの園に置いていかれる事が頭に過ぎり真っ青になりました。


「いつもくれるんだから、別にいいじゃん。」


女の子が男の子を好きになったあの時、

男の子は満腹になっていらなくなった葡萄を

”もう、いらないから”あげたそうです。


人間達は女の子を残して集落を後にしました。

女の子の心は概念さえも無くなりました。

あの日から葡萄が嫌いになりました。

生き物達だけが話し相手なので、肉も食べなくなりました。


寂しさからなのか

生き物から愛して貰えた時から、

その生き物に変身する力がありました。


気がつけば女の子は異形でした。

気付いただけでそれは何も感じませんでした。


「私には価値が無かったのでしょうね…。」


白い異形を癒すのは朝日だけでした。


一方、黒い異形は白い異形が朝焼けに照らされるのを見て恋を知りました。

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