寂しい宇宙人
ボウガ
第1話
地球の衛星に宇宙人が住み着いた。オカルト界隈では騒ぎになったが、その他一般市民において騒ぎになることはなかった。普段通りのロマン見たさの空想と扱われたのだ。しかし、しばらくして宇宙人は独立してそこで文明の発展をつづけた。
その文明が発展しても地球人は見つけることができなかった。その間にも加速度的に宇宙人は文明を発展させる。そのモチベーションの根底には、ある地球人の存在がかかわっていた。
「私の発明がきちんと世の中に伝わっていれば、あの科学者に横取りされてさえいなければ……」
不満をたらす、世に未練のある科学者。彼が死にそうになったとき、宇宙人は彼を誘拐して、冷凍睡眠させた。そして彼の頭脳を用いて、いずれ遠い未来地球人を追い越した発明をする事を試みたのだった。
「ああ、すばらしい、皆ありがとう、ありがとう」
古典的なたこ足宇宙人たちが、彼に拍手をする。
〈おめでとう〉
〈おめでとう〉
にこやかに拍手をするが、その声も音も、彼にだけ聞こえるものだった。宇宙人は特殊な生態をしており、特殊なコロニーで生活をしていて、科学者だけが、科学者専用のコロニーをもっていたからだ。ここはすでに楽園である。なぜなら彼らはテレパシーが使えて文明を発展させずとも、大きな紛争もないからである。
それでも彼は今は恨みを忘れて、彼らの、そして彼の悲願を達成することに決めた。心に決めてスイッチをおした。
〈新型AI起動、新型AI起動、新型AI起動〉
その音声とともに、彼は満足感に襲われた、復讐心はとけた。なぜなら、この映像は将来地球に送られることが決まっていたからだ。
「ああ、みていてくれ諸君、ようやく私の発明が地球を追い越すのだ……すでにこれは証拠をとってあるのだ」
そして、AIは起動された。科学者の頭脳をもとにした、彼の意思の複製品である。だがひとつ欠点があった。それは“反省”することがなかったことだ。反省しない彼の頭脳は、復讐心を留めておくことはできなかった。
宇宙人は、彼を神の用に信仰し、慕っていた。科学の発展も近年の彼の力あってのこと、宇宙人がここへ移り住んだのは自然的な出来事、隕石の衝突であり、彼をつきに移住させたのも、彼を凍らせたのも、月の力を利用したものだったからだ。
彼は、恐るべき変化を目撃した、二つの神が生じたことにより、宇宙人の社会は分断され、瞬く間に戦争が起こった。皮肉にも、地球文明より早く文明が発達した故に、その衰退も崩壊も早かった。彼が寿命を終えるまで、その戦争は続いた。
―同時期、地球では同型AIが起動実験の最中に緊急停止された。それは、別のコンピューターの計算により同じ危険性が予想され、研究に歯止めがかかったからであった。
寂しい宇宙人 ボウガ @yumieimaru
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