人間の策略と罰

「なんか、よろよろしてない?」

声をかけられたのは、たんまりとご飯というやつを頂いた後のことだった。

食べすぎて飛べない妖精なんて、恥ずかしいったらない。無理して落ちて怪我したら、もっと恥ずかしいことになるのだと、見下ろしてくる彼女の目が言っていた。


これはみんな、あの人間の策略のせいだ。

卵は君も好きだよね、と彼女が買ってきてくれたのは、親子丼というやつだった。

電子レンジというやつのあたための魔法で甘くて香ばしい香りが漂った時から、あの器から離れられなくなった。

甘くってふわふわの卵と、その下のちょっとしょっぱくてツユの染みているコメ。それを自分用の小皿に盛ってもらった。自分用のスプーンで食べるのも嬉しい。

その時の感動を一言であらわすなら、そう——もう、たまらない。

ひと口食べた時から、これは運命だと思った。

米は一粒ずつしか口に入れられないけれど、それが本当にまどろっこしい。彼女が食べ終わる前でなければ、この美味しい出会いの追加分をもらえないのだ。

そして、調子に乗って追加で二杯、合計三杯お腹に詰めた後に振り下ろされたのが、あの冒頭の非常な言葉の刃だった。


「もう少し休んでいたら?」

目がまわるくらいにおなかいっぱいだ。けれども、情けないところも見せたくない。ちょっとクラクラするけれども、まとめて持たなければきっと飛べる。

「本当に、問題ないとも。」

それが嘘だと思ったのか、後ろから羽を触られた。大きさがあまりに違うから、正面にいても簡単に後ろから手を回されてしまう。

本当は不安にならないでもないけれども、一緒に暮らすならば、慣れることも我慢も必要だ。

「な、なんだい?」

何かされたような気もするが、彼女はすぐに離してくれた。

「今日はもう羽は使っちゃだめだよ。」

「え、ちょっと、動かないんだけれども、どうなってるんだい?」

羽を動かそうとしても、痛くはないけれども開かない。

びっくりよりもこわかった。

焦って掴んでみるけれど、びくともしない。

「ごめん、そんなに嫌だった?」

「羽、羽は。」

自分の声とも思えないほどに掠れていることに驚いたけれど、それは彼女も同じだったようだ。

「ちょっとテープまで留めただけだから!すぐ外すね!」

そう言ってまた手を後ろに回してくる。さすがに二度目は本当に恐ろしくて、羽と体がビクッと跳ねた。

「ほら、大丈夫でしょ。」

恐る恐る右を持ち上げ、左を持ち上げ、前後に振る。少しの時間でも拘束されたせいか、なんだかぎこちないようにも思った。

「ごめん、もうしないから。」

フラフラ飛んで落ちて怪我するくらいなら、使えないようにテープで留めておけばいいと思ったのだと言う。

蝶のように鱗粉もないから、テープで留めても粘着が弱ければ問題ないだろうと考えたらしい。

「同意どころか説明もなしに、いきなりそんなことはしないでおくれよ。本当に嫌だったってわからないのかい?」

抗議の声に、さすがにしゅんとして、ごめんなさいとまた謝っている人間は、きっと羽を飾りかなんかだと思っているに違いない。

まだ納得できなくて、最後に罰を言いつけた。

「だから、しばらく同じ目にあってもらうよ!」


そして、三十分ばかり人間は、壁を向いて両手を縛られて反省することになった。

羽は体のおまけではなくて、だいたい手足と同じだから、これで対等だろう。

目の前でテープをぐるぐるされても、さっきの怖さなんか共有できるものではないのだけれど、妖精の羽を留めるくらいのテープを、妖精が貼っているのだ。逃げようと思えば簡単だろうに、真面目に刑罰を受けてくれたので、その心意気に免じて、今日のところは許してやった。

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