羽のスケッチ②
人間はおもしろいことを心配する。
引っ張ってと言ったのは僕なんだから、そんなに痛いか何回も聞かなくていいのに、離した後も痛くないか聞いてきた。
「絵を描くのではなかったのかい?」
彼女は、忘れてた、と手を打つ。
自分の目的の方が、やりたいことの方が、大事なはずなのに。
妖精のことをいちいち心配しては脇道に逸れるのだから、こっちがよく見ておいてやらなければならない。彼女は本当に迂闊なのだ。
「見るのが楽しみだなあ。」
「待って、見せるなんて言ってない!」
「僕の羽なんだから、見ていいに決まってるじゃないか。」
下手でも落書きでも、なんなら長丸四個にちょんちょんでも笑ったりしないのに、彼女は恥ずかしそうにする。
「僕は絵を描けないんだから、笑う資格なんかないだろう。何の心配をしているんだい。」
しばらく沈黙が続き、カリカリという音と紙を破くバリバリという音が繰り返される。
ため息がその後に続いて、いいよ、と言われた。
「こんなにきれいなものを、その通りに描けないのが悔しいからだよ。」
スッと差し出されたのは、彼女のスケッチだった。鉛筆だけで描かれた繊細な線がかたどるのは、背後にあるせいで自分でもじっくりとは見たことのない羽の姿。
うっとりと見ていると、彼女は青い色鉛筆で長い線を数本足した。
「これが君だよ。今の私に描ける精一杯。」
そう言って渡してくれたカードに書かれた日付で、今日があれから一ヶ月ということを知った。
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