灰色と黒色

妖精は来る時とは打って変わって黙りこくったままだった。窓の外も見ないで、終始俯いて、ごめんねと繰り返す。

あれからほんの数分のこと、何も悪いことなんてしていないはずだ。

ハイバネ、という言葉を聞いてからの彼は、とても不安そうだった。

言葉からすると羽の色のことだろう。

灰色というには透き通っていて、強いていうならそれは透明な黒。身近なものでたとえるならば、薄い色のサングラスや紫外線カットフィルムのそれが近いだろう。

あれらを灰色ということはないように、濁りのない彼の羽をじっくりと見れば、誰も灰色とはいわないだろう。


帰宅してもしょんぼりしたままの彼をテーブルに乗せると、着地のために広げた羽をすぐに閉じてしまった。いつもならば身振り手振りに加えて羽まで動かして話をするのに、まるで羽なんか本当はありませんと言いそうなくらいに見せないようにしている。

「遠目だから見えなかったんだよ。君の羽は灰色じゃない。」

「本当かい?この羽は、灰色ではない?」

小さくきつく畳んでしまった羽は、そうして重ねているといよいよ透過率が下がる。背中がよく見えないほどに濃い色は、透明度の高い黒に近い。色のバランスとしてわずかに青みが強く見えるのは、髪の色を反射しているせいだろう。

「灰色だとよくないの?」

「あまりよくない喜びを集めると、灰色の羽が生えるから。」

よくない喜びの中身を言わなかったけれど、誰かを貶めて喜ぶ人間はたくさんいるだろう。きっとそれのことだろうと思った。

「灰色は濁った色でしょう。君のはそれじゃなくて、薄い黒の羽だよ。」

「黒?」

片方だけ少し開いて、手で掴んで前に引き寄せる。広げるとピンと張るので硬質に見えるが、そうやっても割れることはないようだ。それでも痛くないかなと思うけれど、案外しなやかで丈夫なのかもしれない。

「濁りけのない全部の色を混ぜたら黒になるよ。赤や青や黄色を重ねると、全部の色を吸い込む黒になる。」

今度セロファンを買って見せてあげる、そういうと、彼は右手の小指を差し出した。

「約束してくれるかい?」

繋げられない小さな指に、自分の小指の先をほんの少しだけ触れさせた。


今夜は話をしたいんだ、そう言ってベッドのそばに来るので、潰さないようにティッシュの空き箱を用意して、その中に新しい彼のベッドになるスポンジを詰めた。


「これは内緒なんだけど、——」

そう言って彼は、妖精の羽の話をしてくれた。

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