休日のお買い物④

食料品も買い終わり、帰りのバスを待っていると、やけに視線を感じた。

見られているのは顔、というよりも頭の上だろうか。荷物が重くなったから肩は邪魔だと言ったら、頭の上に乗っかってきたのだ。これまで誰も見ても聞いても来なかったから、見えないのだと思っていた。

居心地が悪くなったのか、妖精が滑り降りるようにトートバッグの中に入る。

四人ほどいる二十歳ほどの女性たちの集団からヒソヒソ声が聞こえるけれど、内容はよくわからない。もう妖精が乗っていないはずの頭の上をじっと見てくる様子から、彼女らの全員が見えているわけではないらしい。

ハイバネ、という単語が何度も聞こえた。


「どうしたの?」

こっそり覗き見ると、不安そうに見上げてくる。さっきまでは楽しそうにおしゃべりしていたのに、いったい何があったのか。間違いなく無遠慮な自然に辟易としたのだろうけれど、彼はあまり気にしない性質だと思っていた。

「あんなに見られるのは気分がいいものじゃあないよ。それに——」

トートバッグの端を掴んで、目を細めて彼女らの方を覗き見る。

「妖精がいる。」

思ってもいない言葉に思わずそちらと彼とを二度見した。

「見えないけど。」

あまり見ているととばっちりを喰らいそうだ。ほどほどにしておいて、何事もない風を装った。

「誰にでも全部の妖精が見えるわけじゃあないからね。でも、あっちの妖精は、僕よりも強い。」

とても悔しそうに吐き捨てる。

彼も男の子なのだろう、単純にその時は、そう考えてしまった。

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