可能性の魔法③

「君は私に、可能性の魔法をかけてくれたんだよ。」

たいそうなことを言ったけれど、その中身なんて考えていなかった。

「それは、どういうものなんだい?」

聞かれると困るのに、彼は興味を持って身を乗り出した。

形のないもの、見えないもの、そんなものならなんだって良かった。

金運とか恋愛運でもいいのだけれど、どう考えてもそんなのに恵まれるようなことは、この先もないだろう。だから選んだだけの言葉なのだ。

「もうダメだって思っていた時に、もうちょっとだけ頑張れるかもって思ったのは、君の可能性の魔法のおかげだと思うんだよね。

昨日は仕事で失敗しちゃったし、今日は失敗を押し付けられちゃったんだ。普段だったらもうだめだと思って何日かは引きずっちゃうんだ。でも、今回はほら、ちゃんと家に帰ってきて、ごはんも作って食べられたでしょう。

次はうまくやれるかもっていう可能性を信じられたからじゃないかな?」

「それが、可能性の魔法っていうやつかい?」

きっと妖精との約束を守らなければならないという気持ちが、妖精と約束をしたのだから頑張らなくちゃと思っただけだろう。でも、わざわざそんなことを言う必要はない。妖精のおかげなんだからこれも魔法の一部ということでいい。そういうことにしておく。

「私はそう思っているよ。君がくれたの。」

明日目が覚めた時に彼がいてくれるなら、その日はそうでない日より、少しいい日になる予感がする。それだけで十分な魔法だったから。

「よく、わからないけれど、君が受け取れるものを渡せたのなら良かった。

――ああ、それなら。それならここに来た意味は、あったんだね。」

妖精はようやくふわりとほほ笑んだ。



――


それからたくさん、どうでもいいようなおしゃべりをした。

隣家がこっそり飼っている野良猫のこと。

最近見つけた美味しいコンビニスイーツのこと。

会社に向かう途中で見かけた散歩中の犬の笑える眉毛のこと。


妖精もたくさん話してくれた。

日向ぼっこで羽を温めるととても気持ちいいこと。

ここに来る前にいくつかの家でこっそり居候していたこと。

このアパートの別室にいる妖精とは気が合わないこと。


「ねえ、明日も内緒話をしよう。」

妖精は、実にいいことを思いついたと言わんばかりの満面の笑みで声を上げた。

「誰にも内緒でさ。

それはきっと、とても楽しいと思うんだ。」

別の妖精と気が合わないというのだって、きっとあの羽の色や魔法のせいなのだろう。

乾いた涙で汚れた顔にも構わずに。

それはまるで、自分を見ているようで。

だから自分も彼と同じ温度になるように返した。

「そうだね、たくさん内緒話をしよう。」


支え合いなんてきれいなものじゃなくてもかまわない。

傷の舐めあいだろうと、共依存だろうと、あるいはもっとよくない関係であろうとも、今はただ、肯定してくれる近くにいてほしかった。

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