第27話

急げっ

急げっっ

急げっっっ‼



成実様をお待たせするなんて‼



しかも理由がトイレ・・・。

違うんですがっっ‼



ちょっとだけ猿飛を恨みながら、全速力で公園の入り口に向かう。




あっ!

居ましたっ‼



公園の入り口、石の壁にもたれ掛かりアクビをしてる。




ああ。

本当に成実様だ。



前々世でもこんな光景があった。



忍は音を立てない。



だから気付かれることなく、人の背後を取ることなど雑作もない。



でも・・・。




成実様はいつも私が声を掛ける前に振り返っては、あたしを見つけて下さった。



そして




『桜』




名前を呼んで下さるのだ。



少年のように屈託のない笑顔で。




それを見たくて・・・名を呼んでほしくて。



無闇やたらに成実様の背後に忍び寄ってたっけ。





見た目はあの時のまま、でも性格も癖も、きっと昔とは違うだろう。




でも"魂"は一緒。




走ってた足がゆっくりになって、とうとう止まってしまう。




もうそこに成実様が居るのに・・・。



やっと逢えたのに・・・。













成実様。




私を見て下さい。



振り返って・・・名を・・・名を呼んでーー。




ーー・・・。




バカだな。

私は。



何を欲張ってるのでしょう。



出逢えた。



それだけで凄い奇跡なのに。




ヨシッ‼




気合いを入れて一歩踏み出した、その時ーー。




不意に、何気なしに成実様が振り返った。




「・・・・・・っっっ」




目が合う。



心臓がまた大きく脈打つ。




名を呼ばれることはない。



成実様は私の名を知らないから。



でも切れ長の瞳が少し・・・ほんの少しだけど柔らかく細まったのが見えた。




それだけで泣きそうになる。



成実様の目に私が映る、それだけで。




「・・・・・・」



「??もう良いのか?」





動かない私に、首を傾げた成実様がそう声を掛けて下さった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る