バレんなよ


「アキちゃん、20分後にパネル指名120分です。詳細送りますね。」


「分かりました。」


 ”先輩”に付けられた源氏名に違和感を拭えきれないながらも、優しい声色のスタッフさんとの通話を切り、お客様を迎える準備を始める。

 あの日、”先輩”に紹介してもらった仕事は、夜のお仕事だった。


 って言ってもソープや風俗とは違う”メンズエステ”と呼ばれる職種。初めて職種を聞かされた時にどうして風俗やソープじゃないのかと聞いたあたしに、”先輩”は「引きやすい」と答えてくれた。


 わけのわからなかった言葉の意味も、1ヶ月働けば理解することができた。メンズエステは風俗と違い表向きは”ナニ”を目的としたお店じゃなかった。お店によって違いもあるんだろうけど、あたしが入店したお店では女の子が服を脱ぐ必要がなかった。

 その代わり、表向きサービス以上のことを求める客からは”お店には内緒だから口止め料払ってね”と口止め料をもらうシステムだった。「バレんなよ」”先輩”はそうも言ってたけど、風俗やソープのバック料金より高いらしくこの仕事を紹介してくれた。


 だけど、いくらお給料が良くても仕事終わりの4時間と土日しか入れないあたしに100万円は大きな額だった。


 それに。

 こんな仕事をしていると言っても、あたしはやりたくないことはしない。だから、”先輩”に”裏引き”とやらをあたしはやらなかった。


 サービス内で一生懸命頑張って指名をもらえるように、少しでも稼げるように毎日毎日頑張った。おっさんの臭い息も、触ってくる気持ち悪い手も、わざと当てられる”モノ”にも耐えた。

 100万円が返せたら、また日常が戻ると信じていたから。









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