運命みたいじゃね?
そんな頑張り屋のあたしの前にクソガキが現れたのは、夜の仕事を始めてから2ヶ月ほど経った頃だった。
「アキって本名?」
スタッフから90分指名だと告げられ、準備を始めたあたしの部屋に予約時間ちょうどにやってきたそいつは「こんばんは」と営業スマイルを作ったあたしの言葉を無視してズカズカと奥の部屋へと進み、ソファに座るとあたしの方を見ながら言葉を吐いた。
「違います」と答えると「へー」と興味なさそうな返事をし部屋を見渡し
「ご予約の確認よろしいでしょうか?お名前が――…」
「あーいい。いい。時間になったら出るからお姉さんも好きに過ごしてて。」
こんな店に指名までしてやってきたそいつは本当に時間になったら出るつもりなのか、シャワーに向かう素振りも――あたしに触れるような素振りも見せず、持っていたスマホを見始めた。
本当になにもするつもりのない男は誰かに連絡を返しているのか、スマホで文字をうったり。かかってきた電話に出たり。こっちを見ないし何も言ってこない。
――少し年下…くらいだと思う。
明るく染められた髪に整った鼻筋。少し垂れ目の大きな目。
二重幅なんて女のあたしより広い。背も、180はあると思う。
世間一般的にはモテるんだろう容姿を持ち合わせてるであろう、目の前のこの男。
この男が次に口を開いたのは、入室して40分ほど経った頃だった。
「俺、ナツって言うんだ」
スマホを触るのをやめた男――ナツは、急な自己紹介と共に幼い笑顔を少しあたしに向けた。
”知り合いの誕生日祝いで付き合いで来ただけだから”と急に説明を始め、え!?今!?40分くらいスマホ触ってて今言ってくんの?って話をあたしに続ける。
「本当になにもしなくて良いから」
「俺の名前と一緒だからお姉さん指名した。」
「ナツとアキ」
「運命みたいじゃね?」
「ちなみにお姉さん俺のタイプ」
歳のせいなのか、随分子供染みたことを言うナツは、結局本当になにもしないでお金だけを払って時間には帰って行った。
この仕事を始めて2ヶ月。
一度もお客さんと肌が触れ合わなかったことに少し困惑しながらも、二度と会うことはないだろうとちょっと不思議な時間を過ごした90分を思い返していた。
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