未熟な僕のまま

@busaikukyuri

第1話 言えない

 ずっと言えないままだった

そのまま大人になるんだろうなとか、大人になったら変わってるかとか勝手に未来の自分決めてみたり。

僕の人生、一生このまま苦笑いだなって。

でも、一生このまま生きていこうって決めてカッコつけてる。

そんな自分がどうしようもなく嫌いだった。


 こんな僕にも夢があった。

昔からピアノを習ってて、他にやることもなく続けていた。

特別ピアノが好きなわけではなかったが、音楽は好きだった。

無限大な表現力がある音楽の世界に僕はのめり込んでいった。

特に歌が好きだった。

ピアノが影響で音楽をみつけたが、歌に出会ってからはそっちに一方通行になった。

学校から帰ってカラオケに行って、帰ってからもずっと歌ってる。

そんな生活を送った。

歌は自分自身に勇気を与えてくれる。

単純で、頭の悪い僕には簡単に響いた。でも、すごいと思った。

誰しもが刺さる歌詞、頭から離れなくなるメロディー、それらを背負ってこれでもかとぶつかってくる歌声。感動した。

気づけば僕は歌手になりたい。

そう思っていた。

聞いている立場だけではなく、あっち側も景色を知りたい。

ああ、そっち側はどれだけ楽しいんだろう。綺麗なんだろう。

憧れはどんどん強くなった。

ステージに立ちたい!!

そして、多くの人に僕の歌を届けて、泣いてほしい。

そう思った。

でも、その夢をどう追いかけるか、考えていなかった。


中2の冬、学校で面談があった。

先生と2人。

人と話すのが苦手だった僕は、緊張しながら先生の話を聞いた。

「進路についてはどう考えてるの?やりたいこととかあるの?」

僕は迷った。

自分の夢を話すかどうか。

話したらどうなる。

結局僕は話すと、先生は顔をしかめた。

「それは、趣味じゃダメなの?」

やっぱりこうなる。

僕を失望した。

応援するんじゃねーのかよ、先生ってなんだ。

子供の夢を応援する職業じゃねーのか?

反抗期真っ只中の僕には、先生の言葉が重かった。

ずしんとのしかかる、圧。

今その夢を諦めろと言われているようだった。

頼んでもないのに君のために言っているんだよっていい人ぶって、もう全部がむかついた。

そこで面談は終わった。


一回、誰にも言わずにオーディションを受けたことがあった。

有名な事務所のオーディションを見つけて、応募した。

一次動画審査、自分なんかが受かるわけもないって、軽い気持ちで送った。

受かってしまった。

次の審査に進むためにはまた応募する必要があった。

流石に言わないとだよね。

言えなかった。

親に実はオーディション受けて歌手デビューしたいんだよねなんて、絶対言えなかった。

親が反対するのなんてわかってた。

あっちの世界なんてそんな甘いもんなんかじゃないし、売れるのだって大変だ。

給料なんて安定するわけもないし、食べていけるかもわからない。

全部、分かってる。

僕は何も言えずに諦めた。


 いつだろう。この夢を話したことがあった。

母さんはやっぱり反対した。

それだと心配だとか、あなたのためとか、そればっかりで

僕の気持ちは聞いてくれない。

この夢は抱いちゃいけない夢なんだ。

そう思った。


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