水神様の祠について③

 あのほこらのことかい…。あそこはね、良いって言う人もいるけど、私は絶対に近づかないし、ろくでもない場所だよ。


 あれはもう5年前のことだったかね。うちの娘が度々発熱したり出血したり、ストレス障害を起こしてしまってね。何をしても良くならなかった。私はわらにもすがる思いで、何かにすがりたい気持ちになってたんだ。


 そしたら近所の人が『水神様の祠にお参りしたらいい』って言うもんだから、わらを掴む気持ちで娘を連れて行ったんだよ。その日は天気が良くてね、森の中は静かで涼しくて、確かにちょっと特別な雰囲気があってね。


 娘も、普段はずっと寝てばかりだったけど、その日は少し元気そうでさ。私はそれが少しでも良いきざしだと思いたかったんだ。祠の前に立って、お供え物を置いて、手を合わせて、「どうか娘が良くなりますように」って一心に祈ったよ。娘も一緒に手を合わせてた。


 でもね、その時、祠の近くにある川から、妙な音が聞こえてきたの。ポツポツって水滴が何度も落ちる音みたいな、だけど不気味な音なのよ。それを聞いた瞬間、娘が急に顔色を変えて帰りたいって言い出してね。


 あんなに穏やかだった娘が急におびえたような顔をするもんだから、私も何か変だなって思ったけど、まあ少し怖がっただけだろうって軽く考えちゃったんだ。


 それが間違いだったんだよ。家に帰ってきてから、娘の具合はどんどん悪くなる一方でね。あの祠に行く前よりもひどい有様だった。それでも何とか元気になって欲しくて私が必死で看病してたけど、結局あれからたった一ヶ月で娘は亡くなったんだよ。


 祠に行ったことが直接の原因かどうかなんて分からない。けど、あそこに行った後から何かがおかしくなったのは事実だ。今でもポツポツという音が耳に残ってる。あれは普通の場所じゃないよ。良いことがあるなんてとんでもない。


 あの祠を褒める人もいるけど、私に言わせれば気味が悪いだけさ。そういう人たちだって、本当は何か悪いことが起きても言わないだけなんじゃないかねえ。私はもう二度と近づきたくないし、あんたも辞めておきな。ロクなことにならないよ、あんな場所。

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