日の出新聞記者 井上昌彦②

 我妻さん!久しぶりだねえ!いや、元気そうでよかった。前の取材で色々話したとき以来だから、もう何年ぶりだろうな?会うの。いやあ、こうして直接話せるのはありがたいよ。最近忙しいんだろ?観光記事よく読んでるよ。やっぱり我妻さんの文章はうまいねえ。


 さて、早速だけど本題に入るよ。実はさ、我妻さんが今追ってるキャンプ場の親子の霊の話、どうも俺がずっと気にしてる案件と関連してる気がしてね。それでどうしても直接会って話したかったんだよ。


 覚えてるか?2010年の橋本光湖はしもとみつこちゃんの神隠し事件。担当して記事を書いたやつなんだが、あれから14年も経つけど、俺の中では未解決なんだよ。いや、もちろん警察は捜索を打ち切ったし、表向きには迷宮入りで終わったけどさ。


 光湖ちゃんが最後に目撃されたのはキャンプ場近くの川辺だったよな。その上、キャンプ場敷地内の森林付近には例の小さい神社――


 そこには、水神様のほこらがある。あの祠、地元の資料を調べたら、1967年に建てられたものらしいんだ。水害をしずめるために地域の人々が建てたっていう話なんだけど、どうもそれだけじゃない気がしてる。俺が聞いた話だと、建てられた後から何か不可思議なことが起きてたらしいんだ。詳しいことは分からないんだが。


 あと、佐藤夕貴さんの事件もあったな。我妻さん、これを見てくれ。まあ事件というか自殺なんだが、2018年に●●●キャンプ場で首吊りした方でね。この記事は私が書いたものでは無いんだが、これを見た時やっぱり何か引っかかるものがあってね。結局、警察の発表は自殺で片付けられて、そこまで大きく取り上げられなかった。だけどねえ、そこに遺された手帳のメッセージと『ぬいぐるみあげる』なんて書き置き、どうにもに落ちなかった。普通の自殺の手記しゅきとは少し違うような気がしてね。


 あぁ、あと行方不明になる前に寝不足だとか、突然アルバイトを辞めたいと言い出したとか、そういう細かい状況が記事に残っているでしょ?あれ、ただのストレスとかそういう話だけじゃない気がするんですよ。


 何か、もっと精神的に追い詰めるような外的な要因があったんじゃないかって、どうしても考えちゃうんだ。で、もっと気になるのは、やっぱりあのキャンプ場。同じ場所で、偶然って言うには、ちょっと重なりすぎだと思うんだ。



 夕貴さんも、あの失踪事件のことを知っていて、何かに巻き込まれたんじゃないかとか…いや、これは憶測おくそくだけどね。でも、あの森に近づかない方がいいなんて地元の人が言うくらいだから、昔から何かあるのかもしれない。


 でね、極めつけが、あのスタッフだ。佐藤さんの遺体を見つけたっていうスタッフの対応。名前がね、えーっとね。これこれっていうスタッフ。曖昧あいまいに『過去にもいくつか出来事が報告されている』って言いながら、詳細は絶対話さない。こういう時って、何か隠してる可能性が高い。森で何かが起きてるのを知ってるけど、黙ってるのかもしれない。


 あ、我妻さんも齋藤が怪しいと?はあー、幽霊が目撃された時にも話が噛み合わず…何かありそうだね。


 さらにね、最近オカルト掲示板っていうものを怖いもの好きの息子が見ていたみたいでね、『みっこちゃんのおうた』って歌が話題になってるって教えてくれたんだ。


 歌詞の中に『さがしてまようみっこちゃん』とか『みっこはひとりでまっている』とか出てくるだろ?あれ、まるで光湖ちゃんの事件を歌ってるみたいじゃないか?


 そして、ここからがちょっと奇妙な話なんだけど、この歌、2010年頃に地域の子どもたちの間で流行り始めたらしいんだが、また最近になって、噂になってるんだよ。これが偶然だと思うかい?


 でさ、俺が気になってるのは、この歌と祠、そして光湖ちゃんの事件、夕貴さんの自殺、それに我妻さんが追ってる親子の霊の話が、全部どこかで繋がってるんじゃないかってことなんだ。


 特に祠について調べてると、どうも昔から『水神様』にまつわる伝説がこの土地にはあるみたいでね。水の怒りを鎮めるためとか、水害から守るためとか、そういう話があちこちで聞こえてくるんだけど、何か裏がありそうなんだ。


 とにかく、祠や●●●キャンプ場についてもっと調べたいと思ってる。我妻さんの取材の成果もぜひ聞かせてくれよ。こういうのは記者同士で情報交換すると、新しい発見が出てくることもあるからな。いやあ、しかし、やっぱりこうして直接会って話せるのはいいねえ。何かあったら、いつでも声かけてくれよ!

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