第4話

流弥…俺の弟であり、家族の次男。


産まれた時から体が弱く、小学5年生になる頃には今のような寝たきりの生活をすることになった。


今は病院へと行こうにも流弥の入院費を払う金もないし、流弥の生命保険なんかの手続きも知らないので仕方なく家で看病している。


「ほら、朝ご飯だぞ。食べられるか?」


「ありがとう…でも、兄さんには悪いけど自分じゃ食べられないかも」


「そうか、なら食べさせるよ。流弥は謝らなくていい…流弥が謝るくらいなら、お兄ちゃんはありがとうが欲しいな?」


流弥へ微笑み掛けながら野菜炒めを弟の口元へ差し出すと、流弥は苦笑いしながら口を開く。


「…そうだね、ありがとう。兄さん…それじゃいただきます」


その後、流弥は途中途中で「美味しい、美味しい」と繰り返しながら朝飯を完食した。


「さて…次だな」


流弥に朝飯を食べさせ終わり、流弥を寝かしつけると、俺はキッチンへと戻って2つのお盆を持つ。

正直な話、ここからが問題でもある。


お盆を持ったまま廊下を歩き、突き当たりを右に曲がった先の扉をノックする。


丹陽にや恋乃華このか。朝ご飯出来たぞ…か?」


…返事がない、ただの屍のようだ。


と、いきたいところだが…少し前にも話したように妹は学校でいじめを受けていたので、返事がないことを無視することはできない。


「…入るぞ?」


部屋へ入ると、そこには着替えた服や食べ終えた菓子袋などが散らかっていながら照明を付けずにテレビゲームをしている二人の少女がいた。


丁度ゲームが終わったのか、二人は同時に振り返り、こちらを光りのない目で見つめてきた。


少女達はそれぞれ左右でサイドテールに髪を纏めており、同じような顔をしていた。


…そう、うちの妹は双子だ。


閉じこもる前の二人は家族贔屓なしでもとても綺麗であり、周りからはよく「人形みたいで可愛い」、「学校のアイドル姉妹」と呼ばれていた。


しかし、いつの日か彼女達に嫉妬した誰かがありもしない噂ばかりを流し、物を隠すなどのいじめを一部の奴らから受けるようになった。


当然、兄として相談を受けた時はすぐさま学校にも連絡をし、犯人をすぐに見つけたが、噂は尾ひれをつけて拡大。


気づけば二人は「お金を払えばヤッてくれる」だよ、「学校の休日には知らないオッサンとホテルに入ってる」だのの噂が流れ、今度はクラスや学校全体からいじめを受けるようになった。


これには学校側も気づいたが、如何せん数が多く、そして学生全員の家族を毎日呼び出しするとなると大変なことになるからか先生達からも無視され、挙句の果てには一部先生までいじめに加担、あるいは噂を信じて二人に詰め寄るようになった。


流石にその先生は俺や母のお陰で今頃ブタ箱に入っているが…それでも学校全体からいじめられているので帰ったら真っ先に俺や母の所へ駆け寄り、泣いていた。


そんな毎日を繰り返して俺が高校生になり、母が過労死し、彼女達の心の拠り所が一つなくなった頃にいじめはさらにエスカレート。


その所為で彼女達は人間不信と重度の精神疾患を患ってしまった。


「お兄…ちゃん?」


「え?兄貴?なんで?」


「お前ら…また徹夜でゲームしたな。今は朝の 六時だぞ。」


少し呆れるように呟き、部屋の明かりを付ける。

二人は「眩しっ」と呟き瞼を強く閉じるが、俺からは明るくなったことにより部屋の全貌が確認できた。


「また汚部屋に戻ってるじゃねぇか…掃除するこっちの身にもなれよ」


「いいじゃん兄貴。可愛い可愛い美少女の部屋を掃除できるんだよ?むしろ兄貴からしたらご褒美でしょ」


「ん、下着とかも…ある。匂い…嗅がないで…ね?」


「誰がそんな変態みたいなことするか、俺は健全な男子高校生だ」


普通に会話しているが、精神科の先生の話では心の拠り所となっていた俺や母、それと家族として過ごしていた流弥には心を許しているから普通に会話ができるとのこと。


逆に、俺や流弥以外ではまともに会話ができず、下手をすればいじめの光景がフラッシュバックして過呼吸になる恐れがあると言われた。


「はぁ…掃除は今度にするとして、少しはお前達でも片付けておけよ」


「え〜?めんどくさ〜い!兄貴が片付けてよ!」


「お兄ちゃんが片付けてくれたら…恋乃華のこと、好きにしても…いいよ?」


こてんと首を傾げながら上目遣いをする恋乃華…しかし、俺からすればその魂胆が丸わかりしているので適当に流す。


「はいはい、掃除したくないのはわかったから。せめて食べ終えた菓子袋とか飲み終えたペットボトルだけでも片付けてくれ、じゃなきゃ今まで苦労して叩き出した『Gが現れてない日連続8ヶ月』の記録が途絶えるから」


「まだそんな記録やってたんだ…」


丹陽が呆れるような目を向けるが、そんな目を無視して彼女達の近くにあったテーブルにお盆を置く。


「取り敢えず朝飯。これ食べ終えたら一回寝とけ…

片付けはそれからでいい」


「わぉ、兄貴にしてはなかなか美味しそうじゃん」


「ん…絶対美味しい」


「はいはい、お世辞はいいから。…俺はそろそろ用事があるから出掛けるな、きちんと皿洗いしとけよ」


「「は〜い」」


二人の返事を聞いて、俺は部屋を後にした。


―――――――――――――――――――――――

は、話が長くなってしまった…!

1、2、3話合わせた文字数とほぼ一緒ってなんですが…?


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