第15話

 小学校のクラスメイトは、

「あんたのお父さん、ごうかんさつじん・・・・・・・・、なんだって。うちのお母さんが言ってた。あんたの家には危ないから近寄っちゃだめだって」

 と、この頃から早熟な差別意識を曲がった優越感にげ替えた彼女はそう言った。

 その時6つだった彼女はごうかんさつじん・・・・・・・・をどう理解していたのだろう。

 千鶴とて父の罪を正しくは理解していなかったし、今でも男性の偏執へんしつを恐怖以外で受け止めることはできない。できるはずがない。因果なのだろうか彼女にはゆがんだ男性経験しかなかったからである。


 母は千鶴が17の時に亡くなった。自殺だった。千鶴を伴っての無理心中ならばよかったものの、母は身勝手に死に急いだ。焼酎をあおり泥酔状態のまま風呂場でリストカットして浴槽よくそうを血に染めた。

 彼女も飛び地から脱せない狭隘きょうあい穢土えどでのあわれな結末だった。自分の亡骸なきがらの後始末も等閑なおざりにし、さらに厄介なことに母は少なくもない借財を残したまま死んだ。

 母のというと彼女が可哀想であろうか。それは父の放埓ほうらつな暮らしの債務の残余だったからである。


 その返済が千鶴の身に降りた。傾くタバコ屋を継承する彼女に返済する金などあろうはずがない。法の暗がりにひそむ債権者なら、こういった場合に売れるものを探すのに造作ぞうさはない。17の娘のからだを抵当に入れた。生熟なまなれな少女の心と体に埋め込まれた言うに言われぬ大人の男性からのおそれは拒絶を彼女の選択肢から奪い、代わって自衛の堅い|拒絶|を形成した。

 未成年者の売春は非合法であるため、成人と偽って無店舗型の風俗店に送り込まれた。ネット上には彼女の写真は掲載されずツイッターで特定客だけに掘り出し物とささやき提供された。

 外斜視がいしゃしである彼女は見栄えを少しでも良くするためカラコンを装着させられ、その上から色メガネでおおった。

 そうすれば千鶴は十分に人気嬢にランキングされる容姿に誤魔化ごまかせた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る