第13話 翌日、やくざ者が亭主の博奕のカタに女房を連れに来た

 明くる日、朝飯の後、お倫は昼前まで費やして昼の分も夜の飯も整え終えた。無論、要り用の金はお倫が全て賄った。

食台に伏せた茶碗に金三枚を忍ばせたお倫が旅支度を整えていると、矢庭に表戸がガラッと開いて、如何にもやくざ風の厳つい貌の男が四人、家の中へずかずかと押し入って来た。

「あっ、居た、居た。おたかと言うのは手前ぇか?亭主の借金のかただ、一緒に来て貰おうか!」

いきなり土足で上がり込もうとした。

「ちょいとお待ちよ、何をするのさ。この人は今、身体の具合が悪いんですよ!」

お倫が男たちの前に立ち塞がった。

「なんだ、手前ぇは?関わりの無ぇ奴は引っ込んでろ!」

そう言ってお倫の肩を払い除けようとした。が、その一瞬、男の右腕は後ろ手に捩じ上げられ、男は、痛ててってっと顔を顰めて爪先立った。

他の三人がサッと身構えたが、お倫が一喝した。

「ジタバタおしでないよ!この人の腕が折れても良いのかえ?」

腕を捩じ上げられた男の目配せで男たちは動かなくなった。

お倫はそのままの姿勢で壁に立て掛けてあった三味線を左手に掴みながら男に訊ねた。

「で、ご亭主の拵えた借金は幾らになっているんだえ?」

「三十両だよ」

「へえ、そりゃ又、随分と借りたもんだねえ」

言いながらお倫は男の下顎を三味線の竿の頭でゴツンと突き上げた。

あう~、わう~、わうっ・・・顎を打たれた男は言葉にならない大声を上げて其処らを飛び跳ねた。

「兄貴~!」

三人の男たちが喚く男に寄り集まった。

お倫は徐に上がり框に腰かけて手甲脚絆を着け、女草履の紐をきりりと結んだ。

「さあ、留吉さんの居る所へ案内して貰いましょうか」

すっくと立ち上がって男たちを促した。

 男たちを先に屋外へ出したお倫は振り向いた笑顔で妻女と娘に言った。

「一時ほど静かに此処で待って居て下さい。留吉さんを連れ戻して来ますからね」

外へ出たお倫を男たちが匕首を抜いて待って居た。

「こんな処で暴れたら長屋の衆にご迷惑ですよ。さっさと表通りに出なさいよ!」

表通りに出ると同時に三人が突っ掛って来た。が、お倫が躱しながら身を沈めた瞬間、男たちは太腿や下腹を撥で裂き割られて土面に蹲った。

「さあ、お兄貴さん、あんたは歩けるでしょうから案内を頼みますよ」

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