第3話

門番のおじさんと別れた後、カスラと真弓はおじさんが教えてくれた町の中心部に向かっていた。

町の中心に行くほど屋台やレストラン雑貨屋さんが増えていった。

「カスラ見て!あそこにいる人が持っている杖?の先にある丸い光っている宝石かな?…めっちゃきれい!」

「そうだな」

「わぁ!あそこのお店、動物がたくさん!ねぇ、ちょっと見ていかない?」

「…」

「あぁ!あっちには―」

「うるせぇ!もう少し落ち着け!お前は幼児か!」

初めての街にテンションが上がって、いろんな場所へ走って行く真弓にカスラは頭を抱えた。

(大丈夫かこいつ…)

いろんなところに寄り道しながらやっとのことで、町の中心部につくことができた。

「凄ーい!やっぱり異世界なんだなぁ!」

観光客のように街並みを楽しんでいる真弓をほっといて、カスラは町の掲示板に目を向けた。

『東城門付近に三体のスノーベアの目撃情報あり。去年より一か月早い目撃。』

『新作パン発売!今回は冬をテーマに!』

『ビッグニュース!?王都で勇者光臨か?!降臨した聖女は二人?!』

カスラはビッグニュースの見出しの新聞を買い、読み始める。

(そういえば、二百年に一度各国で勇者を召喚していたな…今年がその二百年目なのか…)

「うーん…」

「どうしたの?」

カスラが考えていると真弓がヒョコッと顔を見せた。

「…なぁ、変なことを聞くがお前…異世界人か?」

(まぁ、違うだろうな…)

カスラは真弓をチラッと見た。

「…(目を伏せる)」

「……ッ!まっ、マジか…」

カスラは口元を抑え叫びだしたいのを我慢した。

「やっぱり?そういうのってわかっちゃうの?」

不安そうな表情で真弓はカスラを見た。

「いや…まぁ、何というか。感、かな?」

カスラは考えを巡らせる。

(異世界人って大体、王城や教会が囲っているもんだよな…?でも、こいつは何故か空から落ちてたし…)

冷や汗がだらだらと溢れ出し、いやな想像しか膨らんでこない。

「―ラ、―スラ!ねぇ、カスラってば!」

「ハッ!」

いつの間にか一人で考えすぎてて、周りの声が聞こえなくなってきていたようだった。

「カスラ…ごめんね。こんな大事なこと言ってなくて…やっぱり私、捨てられる?」

今にも泣きそうな表情で服の裾をつかんでくる真弓をみて、昔の自分と重なって見えた。

「ッ!捨てないから安心しろ!ただ…まぁ、動揺しただけだ!」

カスラがそう言って真弓の肩に手を置くと真弓はホッとしたような嬉しいような笑顔を見せた。

「よかっ…」


真弓は眩暈がして倒れた。

「ま、真弓?!」

カスラは急いで真弓を抱えた。顔色か悪い真弓を見てカスラに緊張が走った。

(頭が熱い、なのに、体は冷たい…)

カスラは真弓を抱えた。

「か、すら…」

「寝てろ!」

真弓は目を閉じた。それを確認しながら近くの宿に駆け込む。

(どうして急に、真弓の体調が悪くなったんだ?)

グルグルといろんなことがカスラの頭の中で回り、カスラ頭がショートする寸前だった。

「いらっしゃ―」

「すまないが部屋は余ってないか?」

宿の受付にそう聞くと、受付嬢はただ事ではないと気づいたのか、すぐに部屋に案内してくれた。

カスラはベッドに真弓を寝かせ暖かくなるように暖炉に火を入れ、布団をかぶせる。

この間、約三十秒の早業である。

「お、お水!」

さっき部屋を案内してくれた受付嬢が桶に入った水と綺麗な手ぬぐいをカスラに手渡す。

「い、いいのか?」

カスラは驚きつつも、手ぬぐいと桶を受け取った。水で濡らして真弓の額に手ぬぐいをおくと、真弓は気持ちよさそうにフッとほほ笑んだ。

「…ふぅ。助かった、さっきの桶と水代は――」

カスラがお金を払おうと財布に手を伸ばすと、受付嬢は首を振ってそれを制止した。

「今のは私からのサービスですのでお代は結構です…その子も早く医者に見せるか教会に連れていくのを勧めますよ」

「そ、そうだな」

親切すぎる受付嬢に、戸惑いを隠せないカスラに、受付嬢はハッと我に返った。

「す、すみません!私ったら…同じように私にも妹がいるので重ねて考えてしまいました…」

申し訳なさそうに目を伏せる受付嬢に、カスラはフッと笑った。

「そうだったのか。さっきの助言は助かる。良ければ、おすすめの医者を教えてほしい」

受付嬢は恥ずかしそうにしながら医者を教えてくれた。

「…ありがとう」

カスラはお礼を言った後、真弓を背中に抱える。

「ちょっと行ってくる!」

カスラは宿を出て大通りに向かって走る。

(クソッ!ここが街じゃなけりゃ翼を広げられるのに!)

「カスラ?」

いつの間にか目が覚めていた真弓が名前を呼び、チラッと顔色を見る。

「…まだ寝てろもう少しで医者に会える」

熱が高いせいか目が虚で息が速かった。

(どうにかなれよ!)

カスラは真弓を抱えて医者の元へ急ぐのだった。

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