風邪が運んだ幸福と
秋のやすこ
風邪引いちゃった
「お邪魔します。じゃあ、冷蔵庫にあるものでご飯作っちゃうね」
夏も終わり、秋風が吹き、半袖でいると肌寒いくらいの気温が続く十月。
夏の思い出が忘れきれずに、季節が変わって早々風邪を引いてしまった。
そんな私に食事を作ってくれる人がいることが、不幸中の幸いというべきか。
電話を入れて十分ほど、いつも見る顔が家に上がってきた。
しかしそのいつも見る顔が、なんだかぼやけてしまって、よく見えない。
いつも見てるんだから今日くらいいいだろうと、頭の中にふとよぎるが、こんな日だからこそ、いつも見ているあなたの顔が見たいと思ってしまう。
「一人の割に買い置きあるんだ」
冷蔵庫を開けるとすっからかんと思っていたのか、意外な声色で言った。
一人でも自炊くらいはできる、できるというよりははできるようになった。
一人暮らしを始めるときに誰かに言われた言葉が二年経っても残っているものだから、それを解消するために始めたが、始めたら始めたで楽しかったことを覚えている。
「大丈夫、普通にご飯くらい作れるから安心してよ」
あなたには自堕落なところがあることを、私はあなたよりも知っている。
それを心配に思い尋ねたが、私の心配を消し去るような言葉を言ってくれた。
心配性すぎると、あなたによく言われるが、たしかにそうかもしれないなと、今まで考えきれずにいたことを少し考える。
こんな状態だからこそ考えられることもある。
それに、あなたが今中学生以来のエプロンを身に纏って不格好ながらも愛のある料理をしてくれている。
それがあるだけで風邪というのも、悪くない。
それどころか感謝すらできる。
不幸中の幸いと言ったが、これはきっと幸運なんだろう。
この熱は風邪のせいか、あなたのせいか。
風邪が運んだ幸福と 秋のやすこ @yasuko88
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