BadEnd/Propose 4

「私は、キミを殺す」


 絞り出した声はかすれていて、なんだかもう、私の動揺が極限まで高まってるのが丸わかりでいっそ恥ずかしく思う程だった。


ここに来る道中、色んな場所を巡って彼女を探した。その最後に、ガラググの村を見た。


 滅びていた。


 目を疑った。家屋が一つ残らずなぎ倒され、ヒトの死体はそのまま放置されていた。魔物に襲われた形跡はなく、魔法の一撃によって全て吹き飛んだのだと理解するのにそう時間も要さなかった。そしてそれを誰がやったのかも、すぐに分かった。

 なんでって疑問はあったけれど、でも、私を殺す理由が、私を傷付けない為なんて嘘みたいな事を言ってのけた彼女なら、きっとそうするだろうって痛いくらいに解るんだ。


 フィア・エドル。どうして彼女がここを選んだのかは分からない。だけど、うん。相応しい。終わりはここだった。だから今回もここで終わろう。


「────────────」


 けれど、どうしてだろう。私の体は動かない。どうしてか指一本動かせない。彼女の魔法が既に発動していて罠に掛かった? そんな訳が無い。魔力反応は無ければ、彼女もぴくりとも動いていない。互いに見合って、思う所があって、だけど、殺さないとって思ってる。


 …………あぁ、現実を受け入れられていないんだ。そりゃ、そうだけどさ。だって、今から私は、仲間を殺すんだ。


「……ねえ、私は、もっとキミと居たかったよ」

「ボクもだよ、魔法使いちゃん。君と居られたらきっと今以上に幸せなんだろうね。だけど」

「うん。だけど──」


 もうやり直しは利かないんだ。


 何度も何度も言い聞かせる。キミを殺さないといけない。殺して世界を救う。ぶっちゃけもう世界なんてどうでも良いんだけど、もうキミが誰も傷付けないようにするには、どうやっても世界を救うしかないらしい。馬鹿げてるよな。こんなの。


 キミの記憶を全部見た。皮肉にも、キミは私達と旅をしなければ魔王になんてなる事は無かっただろう。その証拠に、私と合流してから、ウォッチドッグやセレクティブ、何よりカプリケットが現れたんだ。だから、キミは私達と進むべきじゃなかった。今更だけど後悔してる。


 王を死なせてしまった事よりも、どうしてかその後悔の方が大きい。


「…………終わりにしよう。全部。終わりにしよう……」


 あぁ、そうだ。終わりにしよう。もうこれ以上、何も考えない。何も────────


「ボク達は、お互い間違え続けた。だから結末は、これで良い」

「……………………そうだね。あまりに多くの事を間違えたと思う。もっとキミを理解していれば、こうはならなかったのかも」


 杖を握る手に力が籠る。それはあっちも同じで、互いに向けた杖が、ぴたりと止まる。


「あぁ、そうだ。あの村、良く分からないのが居た村、あれって──」

「放置してたら君が悲しむでしょ? だから、きちんと終わらせたよ」

「だよね、起きた時驚いたよ。そこに何も無かったから」


 文字通り何も無かった。村があったという痕跡事消えていたのは流石に驚きを隠せなかった。あれは多分、領域外のモノだ。呪いと言ったけれど、恐らく根本的に存在規模が違う。世界の隙間から覗き込む、。それを撃退としたとあれば、本来なら、私はキミには敵わないだろう。


 空気は冷えている。風はあるけど、緩やかで、少しだけ寒い。終わりにしようなんて言いながら結局まだ動けずに居る。終わらせなきゃ。だけど、どうしても私の体は動かない。


 嫌だ。嫌だよ。殺したくなんて無い。だって、仲間で友達で、ずっと一緒に旅をしてきたんだ。だけど、赦すには、余りに沢山の罪を背負いすぎた。小さな背に乗せるには辛いだろう。


 壊れていた。最初からずっと。あんな事があって、あれだけ笑えていたのがその証拠。立ち直ったって、そう言えるかもしれないけど、違う。違うんだ。あんな短期間で立ち直れるはずが無い。あれだけの事をされて、それで、僧侶だなんて名乗ったのもその証。聖女と呼ばれ崇められ、歪んだ彼女が選んだ選択は、どうしてそこまで残酷なのか。


 考える度に反吐が出る。魔王征伐の旅も、地獄だったんだよ、僧侶ちゃん。


 楽しい訳が無かったんだ。苦しくて、辛くて、それでも進まないといけなかった。決断の旅だったんだ。


「最後に、私の記憶はどうだった?」

「憎たらしい程、綺麗だったよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る