BadEnd/Propose 3

 終わりが近づいてるって、そんな予感がした。どれだけ経ったっけ。もう分からないや。数える事なんてしないから、まあ、多分何か月か経ったんじゃない? 多分だけど。


「…………………………」


 起きて、寝て、彼女を想って。それだけの日々。なんて幸せなんだろう。このまま思い出と一緒に死ねば、きっと誰よりも幸せに逝ける。死んだって良い。殺したのはボクだ。生きる意味を殺したのはボクだ。だから、別に死んだって良い。怒るかな? 怒るよね。分かるよ。でも仕方ないじゃん?


「ここに居たんだ」

「…………………………………………………………」


 幻覚だ。あぁ、もう。馬鹿みたいだ。未練たらたらじゃないか。ボクが殺したっていうのに、どうしてこうまで纏わりつく。


「……………………………………」


 知っている。何もかも知っている。だからこそ、私は彼女をこう呼ばないといけない。


「魔法使いちゃん。君は死んだんだよ。だから、ボクの前に出てくる事はおかしいんだ」

「死んでないよ。キミは私を殺せてない」

「ははは、凄いな。そんな訳無いじゃん。だ……って──────────」


 待て。どうして今まで気付かなかった? 舞い上がってた? 普通そんなの誰だって気付くでしょ。


 ボクと繋げた魔力回路は、どうして今も機能している? どうしてボクはまだ攻撃魔法が使える? どうして、ボクは未だに彼女の記憶を夢に見る?


 どうして気付かなかった?


「………………………………………………」


 泣きそうになった。好きなヒトが自分に向けている殺意に。あぁ幸せだ。その殺意さえもボクにくれるというのなら、なんて幸せなんだろう。


「僧侶ちゃん。キミを殺しに来た」

「うん。だよね。良かった」


 まあ、だよね。うん。そうじゃないとおかしいもん。ボクは魔法使いちゃんにとって最大の悪だ。


「おかしいと思ってた。どうして今なのか。どうして今更過去に生きたヒトがわざわざ顕界して、魔王なんぞを斃しに来たのか。そんなのうん千年前に済ませていたっておかしくない話だったんだ。そうでしょ?」

「さあ?」

「……私は、現代で唯一異端魔法を識る。だから、それを待っていたというのも考えた。けど、それだったら別に王で良かった。どうして私なのか。選ばれた理由はそれじゃなかったんだ」


 彼女程特別な魔法使いは居ない。その義眼には、偽造魔眼を、知識には三千年前に滅びた異端魔法が備わり、尚且つ聖方魔法も扱う化け物級の魔法使い。だから、選ばれた。けれど、彼女は違うと言う。


「全ては、キミが招いた結果なんでしょ。魔王として顕現する為の前振り」

「……そうなのかな。わかんない。けど、それ関係ある?」

「無い。ぶっちゃけどうでも良い事だよ。私は選ばれなくてもキミと会うだろうし、それで以てここに立ってたと思う」


 はっきりと言うもんだ。ボクには出来ない事だ。羨ましい。はっきり言えるヒトだったら、きっと彼女を殺そうなんて思わないだろうし。


「教えてよ魔法使いちゃん。君はどうして生きてるの? ボクがきっちり魂を砕いたはずだけど」

「そうだね。その話をまずはしようか」


 疑問がある。彼女が生きるのはまず根本的におかしいんだ。だって魂が無い。ボクが壊したのだからあるはずが無い。ヒトは魂が無ければ生きて居られない。記憶も、意思も無いただの肉塊になるだけ。


「……………………っ」

「キミは、私を生かそうとして何をした?」

「……魔力回路をボクのと接続して、魔力供給を続けてたよ。魂はボクの杖に封じて、記憶は……予想外だったけど…………あっ」


 そう、どうして彼女が思い出せる? ボクが彼女の記憶を文字通り持っているのに、どうして。


「ガラググの村で行ったオーバーロードは、疑似魂を作って魔力を生成するモノじゃなくて、周囲にあった魔力を自分の魔力とするモノだった。これは、カルイザムで気付いた……というか読んだ事なんだけどさ。エーテルと魔素、そして魔力は同じ質量、同じ性質を持つんだ。なのに、エーテルはヒトには扱えないし、魔力は魂成り得ない。不思議だよね」

「……君は、無意識に魔力をエーテルに変換したって? 馬鹿げてるよ、それ」

「うん。普通じゃあり得ない。魔力をエーテルに変換した所でそれが魂になるはずが無い。けど、キミは私と魔力回路で繋がってる。そして、キミは私の魂を封じた杖を、私の傷を癒す為に持たせた。その結果、非常にバカげた話だけど、私が変換したエーテルが、杖の中の魂を真似たんだ」

「どういう事? どうしてそうなるの? エーテルはヒトには扱えない。だから魔力に変えて運用するんだ。言ってる事がおかしいよ」

「突如として生み出されたエーテルは自分の役目を見失った。本来エーテルは星の魂であるはずだけど、それよりも近くに、私の魂があった。だから真似たんだ。奇跡に近いし、こじつけかもしれないけど、私の仮説はそういう事になる」

「立証は?」

「もう一度記憶喪失になれば」

「笑えない冗談だね。君らしいや」


 どうやら本物らしい。生きているのなら、もう一度殺せばいい。あぁ、けど、まあ、ボクはもう負けたんだろうな。


「キミも見たんでしょ? 私の記憶」

「…………うん。全部知ってるよ」

「魔力回路を通じて、魂に繋がってしまったって感じか、キミの魂を視るっていう能力所以かな? まあどっちでも良いけど、私も見たんだ。キミの記憶」

「────────────どうだった? 素敵だった?」

「地獄だった」


 ん、まあそっか。うん。いや、なんか自分の記憶を地獄だって言われるのなんか、こう、悲しいな? まあもう覚えてない事も多いけどさ。


「……だから、キミが私に対してしようとしてくれているのは、分かるよ。キミなら、そう思うんだろうなって、分かるよ。今の私は、分かっちゃうんだ。でもさ、ダメなんだよ。それじゃ。分かるでしょ?」

「うん。そうだね。しちゃダメな事だ。だけどそれしかないんだから仕方ないんだ。分かるでしょ?」


 優しい君がもう傷付かなくていい様に。


「ガラググの村は、キミがしたの?」

「あぁ……うん。だって君が、魔物によって滅ぼされるのは嫌だって言うからさ」

「そ……っか。だからキミが滅ぼしたんだね」

「でも、言う通り魔物によって滅ぼされる事は無いよ」

「……そうだね。そうなんだ。そうなんだけどさ……ッ」


 ボクは君の為ならなんでも出来る。ボクにとっての星だ。ボクの為にある星だ。だからその導きがある限り、ボクはなんだって出来る。君を標にしてどこへだって何度だってっ!


「ごめん、僧侶ちゃん。やっぱり、殺さないと」

「だよね。うん。分かってるよ大丈夫。仕方ないよ」


 一度殺した相手だ。だから、今更何も躊躇う事は無い。無いのに、どうしてか手が動かない。今のボクは、彼女の魔力回路を少し受け継いだ事で、治癒魔法以外だって使えるんだ。だから、きっと戦えるはずなんだ。


 けど、二人とも微動だにしない。ボクも彼女も、杖を握って、それで終わり。何も出来ずに、ただ見合って、確認しあって、あぁ、でも殺さないと。だって、そうじゃないと君が傷ついてしまう。


「…………………………………………」


 互いに、思いの内を知ってる。だから殺すんだ。どこまで行ってもボク達は解りあえない。こういう時どう言えば良いか。えぇと、なんだっけ。愛してる?


「キミが、これ以上誰かを傷付けない為に」

「君が、これ以上誰かに傷付けられない為に」


 この先もきっとシアワセだ。どうしてかそう思うんだ。

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