OverRode 4
ぽつりと浮かんだ星だった。選ばれなかったから、こうして生きている。何も代償を抱えずに、誰にも愛されないまま生きている。良いでしょ、それで。良いんだ。一番最初に望んだ事じゃないか。
幸せになりたい。幸せにならないといけない。だってそうじゃないと腐って潰れてなくなってしまうから。
まさしく星だった。流星が如く現れた君が居た。暗闇に閉ざされた視界は君によって照らされた。未来を知った。過去を受け入れる事を知った。自分がどれだけバカでも、分かるくらいに君は示してくれた。
なのに、どうしてこんなことをしているんだ。わかってんだろッ! こんなんじゃ何も変わらない。何の意味も無いッ!
誰だって幸せになりたいと願ってる。それは、勇者だって戦士だって、魔王だってそうだった。幸せになりたい、幸せにしてやりたいから戦った。その結果が、これ?
「…………何の為に辛い思いをしたんだよ」
星だったんだ。服は可憐だったけど、何も飾らない君は、自分にとって一番星だった。良くも悪くも全部照らしてくれたのは彼女だった。
「………………………………………………」
きっと、全部無駄だったんだ。旅をして、仲間を失いながら、それでも進んで。それで、最後は魔王を倒した。じゃないと世界が滅んでいたかもしれない。
「なのに……ッ! どうして、あの子が責められないといけないのッ!?」
ふざけるな。ふざけるな……ッ! そんなんだから……そんなんだから過去に恨まれるんだ。救ったじゃないか。それで、それだけで良いじゃないか。なんなんだよ。勇者の死は、戦士の死は、一体なんだったんだよ。
ヒトが築いた文明史上、最も凶悪な人為的魔力災害。…………何を言ってるんだと耳を疑った。どれだけ頑張ったと思ってる。どんな思いであそこまで辿り着いたと思ってる……ッ! それを、たった一言で全て否定されたんだ。
どうして、祖国にさえ否定されなければいけないんだ。あの日、滅びた日。それでも前に進んだんだ。苦しくても悲しくても託されたんだから仕方ないと。例え自分の命が途絶えても構わないって。だから……。
一番ムカつくのは、それでも尚、あの子なら受け入れるであろう事だ。それが、何より赦せない。
星は綺麗なままじゃないといけない。星は綺麗で、誰にも届かない所に無いといけない。美しく夜空を彩る一番星なら猶更だ。
「うる、さい」
響く音にいい加減嫌気が差す。何も出来ない癖に、声だけは立派なんだから。何も分かっていない癖に。結局恩返しを謳っておきながら、ウェンに対して何も出来てないじゃないか……。
頭の中でガンガン響く。聞きたくも無い音が強制的に響いて脳が揺れる。死者の声なぞ聞きたくて聞いてる訳じゃない。強制的に聞こえるから仕方なく聞いてやってるだけだ。それを恩だと感じるのなら消えてくれ。ボクには必要無い。
「だから、どこかへ行ってよ。セニオリス。君には、君の居場所があるでしょ」
鍛冶師に愛された四人の子供達──家族の元へと還ればいい。きっと他の三人も喜ぶよ。君の言いたい事は分かるけど、でもボクには、やるべき事が、まだ残ってる。
「魔王を倒した今だからこそ出来る」
君が幸せになれない世界なんて──────。星は美しくなくては。傷がつく前に空に還さないといけない。
君は怒るだろうか。笑うだろうか。悲しむだろうか。あぁ、見たい。この眼に焼き付けたい。全部、全部ボクのモノになれば、誰にも傷付けられない。そうだ、手に入れよう。君が、幸せになれないのなら、どうやっても傷付いてしまうのなら、その前に──
苦しむ姿でさえ、ボクは愛している。悲しむ姿も喜ぶ姿も、何もかも、君を愛している。星を、愛している。まさしく光だったんだ。ボクを照らす一筋の光。恩返しだなんて仰々しい事じゃない。きっとボクは君に恨まれるだろう。だからこそ、やらなければ。
「ごめんね、────ちゃん」
ボクは君の名前さえ知らない。名前を棄てた君だから、ボクも終ぞ名前を明かす事をしなかったし、聞かない事をルールとしていた。だから知らない。それでも、
「愛してる」
歪んでる事くらい自覚してる。だけど、どうしようも無いじゃないか。あの子はボクの星だ。あれは地獄だったんだと教えてくれた君は、間違いなく星なんだ。君に自覚は無くても、そうなんだ。
「仕方ないんだ」
終わりにしよう。どうしてか続いてしまった延長戦に、終止符を打とう。物語は終わらせるモノだとキャロルは言って、それにアリスが従ったのだから、ボク達もそうしよう。
「誰かの為に祈った事なんて無いけれど、君の為なら、君だけの為ならきっとボクは誰よりも祈れる」
□■として君と居た。その最後の大仕事だ。相手は世界? 上等だ。あの子が背負ってきた物に比べれば軽い。
責められるべきはボクだ。────再び暗い深海に閉ざされたとしても、ボクは……。
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