第6話
どうしてこうなったの…?!
サトミはベッドで眠るふりをしていた。
ブロンドヘアの男を、その布団の中に潜り込ませて。
時は遡り、日中のカフェにて。
「へぇ、じゃあシオンさんは公爵家の養子なのね。」
「そうなの。だからお兄ちゃんには苗字だってあるのよ。」
やはり、この世界では貴族のみが苗字を持っているようだ。
あとで私の事情を知る唯一の人物であるエミリアに、この世界の階級についても教えてもらわなければ。
(そして確認したところ、予想通りこの世界は貴族のみが姓を名乗り、中世ヨーロッパの貴族社会と同じく貴族は、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の爵位で構成されていたのだった。)
「あぁ、正式な名はシオン・フィリップスだ。シオンと呼んでくれ。」
「お兄ちゃんはフィリップス伯爵家の後継者なの。何年かして第一王子様の継承式が終われば大出世の予定だから、今のうちに取引先として目をつけておいた方が良いわよ。」
エミリアは親指と人差し指で円を作り、お金のジェスチャーをしてアレンの方にウインクした。シオンはやめなさい、と妹の手の甲を軽く叩いた。
そのじゃれつきを横目に、(このお金のジェスチャー、この世界にもあるんだ)などとサトミは考えていた。
「第一王子様の継承後…ということは王立騎士団に入団なさるんですか?」
アレンが興味ありげに身を乗り出した。
列車の中でエミリアからこの世界の基本的なことを教わったが、その際に王立騎士団についても説明を受けた。
この世界は基本的に平和だ。そのため、街の治安維持のための警護隊と、王族警護のための王立騎士団のみで警護関係は成り立っている。
庶民派の警護隊に対し、王立騎士団は貴族子息のみで構成されており、王都学園の騎士科で特に優秀な成績をおさめた者のみが配属される、所謂エリートコースなのだ。
「まだ目指している段階で、そこの妹が勝手に期待してるだけだよ。」
やれやれ、とシオンは肩をすくめた。
「また謙遜してぇ。知ってるんだからね〜?入学以来騎士科でトップの成績をおさめ続けてるって。」
やめろって、と目を細めて妹の方を見た。
サトミとアレンは、えぇっ!と驚きの声を抑えられなかった。王都学園って国中の若者が通ってるのよね?その騎士科でトップということは、国内で一番強いのは彼と言っても過言ではない。
シオン様、すごい人なんだ…………
「ちなみにお兄ちゃんは恋人募集中よん。我が兄ながら、なかなかハンサムだし、筋肉だってすごいのよ♡」
確かに私を軽々と片手で支えていた腕は、がっしりしていたな。
先程のワンシーンを回想しながら、うんうん、と頷いた。
そんなサトミを見てシオンは赤面した。
「何バカなこと言ってるんだ!お嬢さんも、納得しないでくださいっっ!」
「やだ〜お兄ちゃん照れちゃって可愛い。ねっ、サトミ!」
うんうん、とわざとらしく頷いて見せた。
「あと、お嬢さんって何?サトミがさっき名乗ったじゃないの!」
ぷぅっと頬を膨らませながら言った。
いやぁ……とシオンが気恥ずかしそうに後頭部をガシガシと掻いた。
「お兄ちゃん、昔から女の子の名前を呼ぶのが苦手なのよ。学園生活も最終学年なのに、まさかまだ克服してなかったとはねぇ〜」
余計なお世話だっ、とシオン。
そんな兄妹の様子が微笑ましくて、サトミは思わず顔が綻んだ。その自然な笑顔に、シオンとアレンはぽーーーっと見惚れていた。
あらら、サトミは無自覚みたいだけど。さて、私はどちらを応援すれば良いのかしら………。
頬をピンクに染めている2人を交互に見ながら、エミリアは考えるポーズをとった。
それから3人は、シオンに案内されて入学手続きと学生寮への入寮手続きを済ませた。
列車でほとんど眠れなかったこともあり、早く休むために各々自室に帰った。
3階、廊下の突き当たり右側の部屋………ここね。
サトミはドアノブを回し、木製の扉を押した。
「きゃーーーーーーーっっっ!」
「げっ」
部屋の中には何故か先客がいた。学園の生徒であろう緑の制服を着た女生徒と、その女生徒を壁に追い詰めている半裸の男が壁際に立っていた。
「あなた何をしてるの?!その手を離しなさい!」
サトミが叫んだ。すると階下から階段を駆け上がってくる靴音が聞こえてきた。
良いところだったのにっ、と言い捨て、女生徒は部屋から走り去った。当てつけるような勢いで扉を閉めて行った。
もしかして私、余計なことしちゃった…?いやいや、ここは私の部屋な訳で…
そう考えていると、足音がどんどん近づいてきた。
男は、ちっ!と舌打ちするや否や、サトミの左腕を引き、一緒にベッドに滑り込ませた。えっ!と声に出す間もなく一緒に布団を被らされた。
バンッと音を立てて扉が開いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます