第5話
シューーーーーーーッという排気音と、車内のザワつく声で目を覚ました。
あれから2人は自席に戻り、流石に朝方近くなっていたため、漸く眠りにつくことができた。
「ふぁ………………う〜ん……」
大きな欠伸をしていると、ポンと肩に手が置かれた。
「その様子だと、少しは眠れたみたいね」
おはよう、と声を掛けてきた朝から元気な声の主はエミリアだった。
「おはよう、あ…アレンもおはよう」
車両の後ろからノソノソと近付いてきたアレンにも声を掛けた。
朝、弱いのかしら......。
瞼が半分しか開いてないアレンを見て、サトミはくすくすと笑った。
「あら、アレンもおはよう!そういえば…」
挨拶するや否や、エミリアは悪戯っぽい表情でサトミとアレンの顔を交互に見た。
「あなたたち、昨日の夜中に2人で居たでしょ?車両に2人で戻ってくるところ、見ちゃったんだから〜。いつの間にそんなに仲良くなったのよ?」
このこの〜、と肘で小突くようなしぐさをしながら言った。
「いやっ、違っ、あれは」
「あぁ、昨晩はなかなか眠れなくて」
慌てるアレンの言葉を遮るように、サトミが冷静に答えた。
「展望デッキに行ったら、偶然向こうで会ったから、少し話して一緒に戻って来ただけよ」
なぁんだ、と少しつまらなさそうにエミリアが口を尖らせた。
アレンは何事でもなかったかのように事実を列挙するサトミに対して、そこはかとなく寂しいような気持ちを抱いた。いや、事実として何もなかったじゃないか、と心の中で自分の両頬をパチンと叩いて気分を入れ替えた。
「それはそうと、王都学園駅に到着したみたいだね」
アレンが車窓から外に目をやりながら言った。駅のホームは沢山の学生で溢れかえっていた。
3人は列車を後にし、駅から出た。
「わぁ〜!」
目の前に広がる光景に、サトミとアレンは思わず歓声を上げた。
奥に聳え立つお城のように大きな建物。その門の前まで、駅から一直線に煉瓦造りの建物が並んでいた。建物の軒先には赤や緑、青など、色とりどりの布が日差しのように掛けられていた。
「ここは市場かしら?とっても賑わってるのね!」
「あぁ、実家の仕事でいろんな市場を回ったことがあるけど、こんなに賑わってる市場はなかなか見ないよ」
サトミとアレンは目を輝かせて、お上りさんオーラ丸出しで口々に感想を言っている。
「って、エミリアは随分と落ち着いてるのね?」
「えぇ、だってここには…」
「危ない!」
謎の声が聞こえた後、ドン!と音がしてサトミがよろけた。駅から出て来た人波に飲まれた誰かが、後ろからぶつかったらしい。
転びそうになったサトミを片腕で後ろから支えたのは、背の高い男だった。
「怪我はないか?!」
がっしりとした体つきと凛々しい顔立ちからは想像できないほど優しげな声で、男は訊ねた。
「はい、大丈夫です。助けていただきありがとうございます」
腕に支えられたまま、男の方に振り向くようにして答えると、思っていたよりすぐ近くに顔があり驚いた。
男もサトミと同じように驚いたらしく、失礼!と言うと、パッと身体から腕を離した。その凛々しい男は赤面しながら明後日の方向を向いた。
あら、ハンサムな男性だけどあまり女性慣れしていないのかしら?などと考えていると、少し遠くからサトミを呼ぶ声が聞こえた。
「ちょっと〜!サトミ大丈夫?」
「怪我はないか?」
人波に流されていたエミリアとアレンがサトミのもとに駆け付けた。
「えぇ、私は大丈夫よ。2人も大丈夫だった?」
「あぁ、僕たちは一緒に流されて行ったから…。それで、こちらの方は?」
聡美の横に立っている男の方を見ながらアレンが訊ねると、
「お兄ちゃん?!」
エミリアがアレンの後ろから出て来て、目を丸くしながら言った。
「エミリア!」
「お兄さん?!」
エミリア、兄だという男、サトミとアレンの驚きの声が広場に響いた。
4人は混雑した駅から離れ、カフェに場所を移した。
サトミと駅前で出会った男は、なんとエミリアの兄だった。
「失礼、名乗り遅れたが、そこにいるエミリアの兄で、シオンという。」
シオンはピンと背筋を伸ばして座り、落ち着きながらもハキハキと話す。こういう男性を硬派と呼ぶのだろう、と思いながらサトミは紅茶を啜った。
「まさか、お兄ちゃんが転びそうになったサトミを助けるなんてね!すごい偶然だわ」
もう一杯目を飲み干したのか、ティーポットからカップにコーヒーを注ぎながらエミリアが続けた。
「お兄ちゃんが女の子と話してるのって滅多に見ないし……こういうのってなんだか、運命の出会いみたいね!」
ゴフッ、とシオンが喉を詰まらせた。
「お前はまたすぐそういうことを!お嬢さんも困るだろう?」
いえいえ、とクスッと笑いながらサトミが答えた。
「お嬢さんなんて堅苦しいわね、サトミで良いわよね?こっちはアレン。」
エミリアがシオンに言った。
サトミもアレンも、是非そう呼んでください、と続いた。
「ではサトミ、アレン、この空想好きのどうしようもない妹をよろしく頼む」
困ったような表情で言ったが、この兄がエミリアを大切にしているのはよく伝わって来た。
サトミとシオンが話すのを、アレンは無意識にジッと見ていた。その少し曇った表情に気が付いたエミリアは、はは〜ん、と何かを考えている様子だ。
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