第13話 美少女vs美少女


 廉也はたしかに秋帆にヘアピンをわたしたことがある。


 10歳の廉也は秋帆の誕生日プレゼントとして渡したのだ。

 あのときの秋帆はとても喜んでいた。ずっと仲良しのままだとあのときは思っていた。


 けれど、今は違う。

 それでも、秋帆がそのヘアピンを持ってくれているのは意外で、廉也にとっては嬉しいことだった。


「気に入ってくれているんだ?」


「うん……」


 廉也も秋帆も二人とも照れて沈黙する。真夜はなぜか、むうっと頬を膨らませて二人を見ていた。


 廉也は真夜を気にしつつも、秋帆と仲直りする絶好のチャンスだと思った。


「火倉さんさえよければ、また誕生日プレゼントを贈るよ」


「ほんと!?」


「嘘なんてつかないさ」


「な、ならさ、放課後、買い物に付き合ってくれない? 二条に選んでほしい服が――」

 

 秋帆の突然の申し出に廉也は驚く。でも、断る理由なんてない。


 そこに真夜が割って入った。


「に、二条くんはわたしと一緒にお出かけするんです!」


「えっ」


 そんな予定はなかった。


「ふうん。二条と神城さんが、二人でデートってわけ?」


「デートじゃなくて……その、えっと……」


「違うの? なら、二条を譲ってくれない?」


 真夜と秋帆が無言でバチバチと視線で花火を散らす。

 真夜は意を決したように深呼吸し、そして大きな声で言う。


「……っ! デートです!」


 周りがなにごとかとこちらを振り向く。廉也はヒヤヒヤしたが、秋帆も廉也と真夜しか目に入っていないらしい。


 秋帆は廉也をちらっと見た後、むすっとした表情で言う。


「あっそ。二条の……廉也のバカッ!」


 露骨に不機嫌そうなまま、秋帆は立ち去っていってしまった。


(な、仲直りできそうだったのに……)


 廉也はため息を付いた。


「なんでデートするなんて嘘をついたの?」


 真夜は切なそうに廉也を見あげる。


「ごめんなさい。でも、嘘じゃないです。男女二人がお出かけすれば、それはすべてデートですし、お出かけしたいと思っていたのも本当です!」


「そ、そうなんだ……」


「ダメ……ですか?」


「ダメなわけないよ。メイドの望みを叶えるのも……主人の務めだと思うし、たぶん」


「あ、ありがとうございます!」


 真夜がなんでこんなに喜ぶのか、秋帆はなんであんなふうに廉也と一緒に出かけようと誘ったのか。


(もしかして……)


 廉也はそこで思考を止め、深く考えるのをやめることにした。


 とりあえずのところ、放課後の真夜とのデート?に集中することにしよう。




<あとがき>



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