第11話


 廉也と真夜は制服に着替えた後、書斎へ移動した。制服姿の美少女がいるのも、クラスメイトが自分の家にいると実感させられて、変な気分だ。


 巨大な本棚に雑多な本が並ぶ。


「わあっ、まるで図書館みたい……!」


 真夜が身をかがめて、本を見ているせいでスカートからショーツが見えないか、心配になる。


「ただ本が多いだけだよ」


「これ、全部、二条くんが読むんですか?」


「乱読派だから。決して萌え系の本ばかり読んでいるわけじゃないからね……?」


 廉也がメイドの本を持っていたのはたまたま。そう、たまたまである……!


 真夜がくすりと笑った。


「恥ずかしがらなくてもいいのに。わたしも読んでみたいと思っていたんですよ?」


「ああいうの、神城さんは興味なさそうだと思ってたけど」


「そんなことないですよ。わたしも本、よく読みますから。ミステリとかSFとか」


(へえ、意外だな……)


「だから、いつも本を読んでいる二条くんが気になっていたんです。二条くんも面白そうな本があったら貸してください。あのメイドの本はお仕事の参考にもしようと思ったんですけどね」


「ラノベを参考にするの!? もっと教科書(?)とかあるような……」


「ねえ、あの本、二条くんにとっては面白かったですか?」


「まあ、その……メイドが可愛かったよ」


「なら。大丈夫です。わたしは二条くんの理想のメイドになりたいんです。二条くんの好みのメイドさんが出てくる本なら、理想の教科書です!」


「そう言われれば、そう……かな?」


 廉也は真夜にメイドの本をおそるおそる渡す。真夜は微笑み「ありがとうございます」と言って、本を抱きしめる。


「あっ、そろそろ学校行かなきゃですね!」

 

 そう言って弾む足取りで真夜は書斎を出ようとし、椅子に脚をひっかけてよろめく。

 そのまま本棚に激突し、床に倒れこむ。その上にばさばさと本が降ってきて、真夜が大量の本に埋もれる。


 一瞬にして大惨事だ。


「か、神城さん!? 大丈夫……じゃないか」


 真夜はくるくると目を回しながら「二条くーん、助けて~」と言っていた。

 こうしてみると、本当に抜けているところがあるなあ、と廉也は思う。けれど、そういう一面も少しかわいく思えた。


 廉也は苦笑しながら、本をかきわけて真夜を救出する。

 いま、ここにいるのは廉也だけなのだから。


 学校・教室にて。休み時間でみんな思い思いの過ごし方をしている。雑談に華を咲かせたり、あるいは本を読んだり……。

 廉也はといえば、教室の机に座り、ぐったりしながら……。


(昨日は激動の一日だった……! 美少女と同居は心臓に悪い……。学校でなら、一息つけるはず……)


「二条くん?」


 ひょいっと真夜が上から廉也を覗き込む。


「わあっ!?」


 廉也はぎょっとしてのけぞった。


「幽霊を見たみたいな反応をしないでください。傷つきますから……」


「ごめん」


(どうしたんだろう……? 神城さんは人気者だから、周りの目が気になるな……)


 真夜が廉也の耳元に唇を近づけ、廉也はどきりとする。


「一緒の家に住んでいるのは内緒ですよ?」


「神城さんが困るだろうからね」


「えっと、学校にバレたら、その……不純異性交遊だって言われるかもしれませんし」


(たしかに……!)


「わたしと二条くんだけの秘密ですね」


 真夜は何故か嬉しそうにふふっと笑う。


(秘密か……。昔もそんな約束したことがあったような?)


 小柄な少女のシルエットが脳裏に浮かぶ。秋帆、幼馴染だ。

 何の約束かは思い出せない。いずれにせよ、彼女とはもう疎遠になった。約束が果たされることはないだろう。



 そこに男子生徒が現れる。イケメンのサッカー部員、塩原だ。

 興味がなさすぎて、それ以上の情報が廉也にはない。背が高いなあ、とは思う。


「よっ、なにやってんの? 神城ちゃんって、二条と仲良かったっけ?」


「あ、塩原くん……。い、いえ、別に二条くんは……ただの顔見知りです」


 真夜が慌てた様子で言う。


(友達って言ってくれるかと思ったんだけど、ちょっと傷つくなあ……)


 もっとも同居しているとバレないように、そう言ったのかもしれないけれど。


「へえ……。ね、神城ちゃんさ、今度、サッカー部の奴らでバーベキューするから来ない?」


「わ、わたし、えっと……」


「いいからいいから」


 真夜はしつこく絡まれて、困った様子だった。廉也が助けに入ろうかと思ったが、その必要はなかった。


「……痛っ」


 塩原の頭を後ろから女子が小突く。

 秋帆だ。


「神城さんが困っているでしょ?」


「火倉。おまえ……」


「ナンパ野郎はあっちへ行ってよね」

 

 しっしっと秋帆がジェスチャーで追い払う。


「そうだ、火倉。バーベキューに……」


「行くわけないでしょ」


 気の強い秋帆に、塩原はしつこくする気はなかったらしい。塩原、不服そうにしながらも「火倉もきついところがいいんだよな……」とぶつぶつつぶやきながら去る。


「ありがとうございます……火倉さん」


「神城さんもはっきり嫌って言わないと。ああいう奴、苦手なんでしょ?」


「はい。ちょっとぐいぐい来すぎで……」


「その点、こっちの男はそういう心配はないのかもだけどね」


 秋帆は廉也を見下ろしていた。





<あとがき>


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