第26話 ジャイアントサラマンダーサーペントを買い取って貰う
買取カウンターには、むきむき筋肉マンのおじさんがいた。
この人が買取の担当者かな?
スタッドさんが声をかけた。
「ジャイアントサラマンダーサーペントを仕留めたんだが」
「そいつは、凄いな。見せてくれ。時々、只の大蛇をジャイアントサラマンダーサーペントの死骸だという奴がいるからな」とニタニタ笑いながら言った。
「あんた、新人か。人を見て物を言え。俺はB級冒険者のスタッドだ。間違えるわけなかろうが」
「からかっただけさ。さ、出してくれ」
「いや、ここでは無理だ。なんといっても二匹分だからな。広い場所がいる」
「二匹分だと! うーん、裏の訓練場に行くか。今なら、誰も使って無い筈だ」
おじさんに案内されて訓練場に行った。
「さ、ここなら、大丈夫だろう」
「ああ、ここなら、ジャイアントサラマンダーサーペントの死骸で床が抜けることもなかろうからな」
とスタッドさんが応酬している。振り返ってあたしに「さ、出してくれ。二匹ともな」という。
あたしも筋肉ムキムキおじさんの「どうせ大したことないんだろう」と言わんばかりの態度が気に入らなかった。
(バトラー、ぽんと出して。ぽんとね)
(おまかせを)
広い訓練場が一瞬でジャイアントサラマンダーサーペント二匹分の死骸で埋められる。
筋肉ムキムキおじさんの顔が驚きの表情に変わった。口をあんぐりと開け目の玉が飛び出しそうなほど大きく見開かれている。
ふふん、どんなもんよ。
「こ、こんなもん、一体どうやって解体場に運ぶんだ!?」
えー、そこかい。他にいうことないんかい。
「それは、あんた達の仕事だ。さ、買い取ってくれ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。上と相談してくる」
筋肉ムキムキおじさんが、慌てて建物に入っていく。すぐに、
「ギルドマスターのジラックだ。おめでとう、素晴らしい獲物だな」
「ああ、運が良かった」
「どこで仕留めたんだ」
「大河ラングを航行中に襲われてな。ハルメラとギニスの間に小さな船泊りがあるだろう。あの辺りだ」
「両方共、頭がないな」
「ああ、頭に雷撃をお見舞いしたからな」
ギルマスが死骸に近づいて状態を検分している。
「もしかして時間停止機能付きのアイテムボックッスに入れていたのか?」
「ああ、そうだ」
「だろうな、肉が新鮮だ。皮と骨、あと、かなり大きな魔石がとれるだろう。そうだな、うちの職員、総出でかかっても三日はかかる。悪いが、三日後に来てくれるか。それまでに解体しておく」
「わかった。三日後だな」
「あ、大体の金額、わかりませんか? 船を漕いだ水夫達は明後日の便でナシムの街に戻るんです。その前に取り分を払ってやりたいんです」
「アズサさん、心配して頂いてありがとうございます。しかし、それは、私の仕事です。ナシムの街の水運ギルドで受け取れるよう手配しますから」とラーケンさん。
「あ、そうなんですね。失礼しました」
「あなたは?」とギルドマスター。
「この人はアズサといって、かなり大きなアイテムボックスをもっている。ジャイアントサラマンダーサーペントの死骸を運んで貰ってな。で、こっちはラーケン船長。討伐の時、船を出して貰った。それぞれ取り分を支払わないといけない」
「なるほど、事情はわかった。とにかく解体に三日はかかる。三日後にきてくれ」
「わかった」
あたし達は冒険者ギルドの受付カウンターに戻った。
「あんた、婚約者を探す依頼をかけるんだろう?」
「ええ、そのつもりだけれど」
「じゃあ、ここで依頼をかけたらいい」
スタッドさんが、カウンター越しに受付嬢に言った。
「人探しを頼みたい。依頼をかけれるか?」
「ええ、大丈夫ですよ。少し、お時間を頂きますが」
「えーっと、どれくらい?」
「人探しの場合、いついつまでとお約束は出来ないんです。その方の特徴や情報が細かくわかると早く見つかる場合があります。こちらに特徴を書いていただけますか? それと、似顔絵はありますか?」
どうしよう、先輩の写真、出した方がいいかな。うーん、会社のパンフレットだと小さいし。
あたしが、迷っていると
「似顔絵を書いてくれる画家がいますよ。ただ、今日はもう遅いので今から行っても描いてくれないでしょう」
と教えてくれた。
画家のアトリエの場所をきいて、申し込み用紙を貰ってギルドを出た。
「画家のアトリエにはいつ行くんだ?」
「明日行こうかと」
「では、明日、一緒に行きましょう」と、ラーケンさん。
「えっ? あの、でもいいんですか?」
「あなたは大事な船主ですからね。しかも、王都は初めてなんでしょ。一緒に行って上げますよ」
「ありがとうございます」
「俺も一緒に行くからな。というか、あんたにはまだ、金貨一枚分剣術を教えてないしな。ついでに、宿はあんたと一緒の宿に泊まる。明日の朝はちゃんと練習に来るんだぞ」
はあ、何それ。勝手に決めないでよ。
と言いたいけど、スタッドさんはさっさと馬車を呼びに行ってしまった。
「もう、勝手なんだから」
「スタッドは、B級冒険者です。ついてきてくれるというのなら、これほど心強い相手はいませんよ」
「でも、あの口の悪さ、なんとかならないんですか?」
「口は悪いですが、誠実ですよ。それとも、アズサさんは、調子のいい事ばかりいう、不誠実な冒険者がいいですか?」
「そりゃあ、誠実な方がいいですけど」
「アズサさん、スタッドを護衛に雇いませんか?」
「え? どうしてですか?」
「こういっては失礼ですが、アズサさんはどこか浮世離れしている所があります。心配なんですよ。それに、先程、水運ギルドで待っている時、あなたの事を噂している数人の男達がいましてね。あなたが金持ちで独身の若い女性だと」
「え!」
「スタッドの言ったとおり、ナシムの街であなたが金持ちだと聞いた人間がいるのだと思いますよ。ですから、スタッドを護衛に雇って下さい。あと、出来たら凄腕の女性冒険者も雇った方がいいでしょう。男だとついていけない場所がありますからね」
「心配してくれてありがとうございます。そうですね……」
(アズサ様、私もその意見に賛成です。お早い方が宜しいかと)
(わかったわ。バトラー、ありがとう)
あの口の悪い女性蔑視の守銭奴のエルフとこれからも付き合うのか!
だー、絶対イヤ! いやーーーーー!
でもでも、二人共雇った方がいいって言うしぃ。
確かにあたしはこの世界に不慣れだしぃ。
あーもう、仕方が無い。
いつか、最強とまではいかなくても、剣も魔法も強くなって護衛なんかなくても自分の身を守れるようになるんだ!
「あの、ラーケンさん。確かに、あたし、王都は初めてですし、取りあえず、スタッドさんを雇おうと思います」
「そうして頂けると、私も安心出来ます」
ラーケンさんと話しているうちに、スタッドさんが馬車をつれて戻ってきた。
「あの、スタッドさん」
「なんだ?」
「あの、あの、えーっと」
「なんだ、はっきり言え」
「言いにくいのよ! 護衛として雇いたいとか!」
スタッドさんがちょっと驚いた顔をした。
「ラーケン、あんたが言ったのか?」
「ええ、そうですよ。私が護衛を雇うよう勧めました。私としては船主に何かあったら困りますからね。あなたなら、アズサさんが大きなアイテムボックスを持っているのも、どんな事情で王都に来たのかも知っているわけですから」
「ふむ、わかった。護衛をやってもいいぜ。いくら出す」
「相場通りでお願い。あたしだって、お金を湯水のように使うわけに行かないんだから」
「ああ、そうだな。期限は婚約者が見つかって結婚するまで、月一先払いで給料を払ってくれ」
「どうして、結婚するまでなの?」
「結婚したらあんたの財産は総て相手の物になるじゃないか。つまり船主じゃあなくなるだろ」
「はあ? それどういう意味?」
その時、通りがかった荷馬車から、馬車をどけてくれと声がかかった。
「乗ってから話そう。おい、御者、水運ギルド直営の宿、ドルフィン亭にやってくれ」
「あ、待って。埠頭にお願いします」
「カルルカン号か?」
「そうよ」
「御者、埠頭に行ってくれ!」
「承知しました」
馬車の中でスタッドさんに問い質す。
「ね、何故結婚したら、あたしが船主じゃなくなるの?」
「女に財産は認められてないじゃないか。結婚したら、あんたの持っている三隻の船も、カルルカン号も亭主の物になるだろ。だから、あんたは船主じゃなくなる。金持ちじゃなくなるから、護衛の必要はないし、ラーケンにしても船主が交代するんだ。あんたの心配をする必要はなくなるじゃないか」
ここ、異世界だったんだ!
魔物が出ようが、魔法が飛び交おうが、奴隷商人がいようが、エルフがいようが、どこか、アニメやゲームで見知った世界って感じが強かったけど、女性の権利が認められてないって言われて初めて、ここ異世界って実感した!
女性の財産権が認められてない世界なんだ!
「そんなの、ひどい!」
「なにが?」
「女性に財産が認められてないことよ!」
「結婚した女に財産はいらんだろ。亭主に養って貰えばいいんだから。第一自分で管理出来るのか?」
「出来るわよ。実際、今、船の管理、やってるじゃない」
「そうじゃなくて、子供を育てなきゃならないだろ。どうするんだ?」
「そんなの、数年のことじゃない。むしろ、財産があれば子供がいても現金収入があるんだから、よほど安心出来るじゃない」
「その現金は父親が管理してくれるんだから。楽じゃないか」
「何言ってるのよ。経済的に独立してこそ、精神的にも肉体的にも自由でいられるんじゃない」
「自由? 自由ってなんだ」
「好きな時に好きな所にいけて、なりたい者になる権利よ」
「はっはっは、じゃあ王様になりたかったらなれるのか? あんたの話はわけわからんな」
「もういい! あんたみたいな既に自由人になってる人間、じゃないエルフに何言っても無駄よね」
「まあ、確かに俺は好きな時に好きな所に行こうと思えばいけるな。明日の飯の心配をしなければな。自由ってのは、金持ちの道楽じゃないのか? さ、着いたぞ」
ああ、もう。この人達に言っても無駄なんだわ。実際、西欧で女性の権利が認められるのは、産業革命以降だったし、中世では無理よね。
ラーケンさんがカルルカン号が泊っている桟橋に案内してくれた。
桟橋にはたくさんの小型船が泊まっていた。
「おや、おかしいですね。見張りがいない」
あたしはテレパシーを薄く伸ばした。
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