第18話 水運ギルドからの依頼

「おお、それはいい考えですね」とラーケンさん。

「ぜひ、今回もチームカルルカンとして、請け負わさせて下さい」

「ラーケンさん、申し訳ないけど、王都までの契約は既に結んでしまってます。それに、荷運びの話は、今聞いたので、お話を検討してみたいんです」

「慎重なのはいい事よ。でもね。今、ナシムの町には荷が溢れているの。人もよ。短気を起こした人達が、陸路で冒険者を多数雇って王都に向かったけれど、盗賊に襲われてね、殺されたり逃げて戻って来た人がたくさんいるの。あなたが、溜まっている船荷を運んでくれたら、他の船は人を運ぶのに使えるの。ね、引き受けてくれないかしら」

「あの、溜まっている船荷はどれくらいの量なんですか?」

「そうね、あなたが引き揚げたレッドスター号の積荷十台分くらいかしらね」


(バトラー、レッドスター号十台分の積荷、収納出来そう?)

(はい、出来ます)

(うーん、でもここは、出来ないといった方が……、えーっと、まだ船を持ってたわよね)

(は? はい、中型船、小型船、魚釣り用ボートなどがございます)


「あの、実は、あたし、まだ船を持ってるんです」

「ええええ、まだ、船を持ってるのか!」


 ジョーイが驚いて言った。


「そうなの。それを出したら、或いは、半分くらいは詰め込めるかもしれません。ですが、船を出してこちらで保管して頂いたら、それを取りに戻って来ないといけないんです。で、あたしの船を使って荷を運んで貰って、一緒に王都まで行くというのはどうでしょう?」

「それはいい考えね。船団を組むのね」

「アズサさん、お願いだ。王都までの契約を一旦反故にさせてくれ。こんないい話ないんだ。頼むよ」

「俺からも頼む」


 ジョーイとラーケンさん、水夫のみんなが必死になって言う。


「ああ、もう、わかった。わかったから、落ち着いて」


 あたしは二人を宥めてから、水運ギルドマスターに向き直った。


「まず、船を出させて下さい。その上で、どれくらいの荷が入るのか、確かめて下さい。で、運べる荷の量が決まったら、金額が決まると思うので、契約をするという段取りではいかがでしょう?」

「まあ、あなた、見かけに寄らずしっかりしてるのね。船は隣の中型船用ドックが空いてるから、そちらに出して頂戴。今、案内するわ」


 エリッサさんと一緒に大型船用のドックを出て、隣の中型船ドックに向かう。


「ギルドマスター! レッドスター号が! レッドスター号が消えたという報告が!」


 ジェフリーさんが大声で呼ばわりながら走って来た。


「ゼェゼェ、レ、レッド、レッドスター号が」

「ジェフリー、落ち着きなさい。レッドスター号はラーケンのチームが引き揚げたわ。ドックにあるの。あなた、ちょうどいい所に来たわ。レッドスター号の被害状況をチェックして報告書にまとめて頂戴」

「え!? え!? はい、わかりました!」


 ジェフリーさんが目を白黒させて、ドックに入って行った。


「おおおお、レッドスター号だ! レッドスター号だ!」


 ジェフリーさんの驚きの声が響き渡る。


「じゃあ、私達は中型船用のドックに行きましょうか」


 エリッサさんが、落ち着いた声で皆を促した。

 さすが、ギルドマスター、冷静だわ。

 中型船用のドックには五台の架台があった。

 端から船を出すことにする。


「じゃあ、出して行きますね。危ないですから、下がってて下さい」

(バトラー、ゆっくり出して行って!)

(承知しました)


 端に立って一台目を出した。荷運び用中型船だ。

 次に、同じく荷運び用だが、一台目より少し大きい船を出す。

 三台目は人と荷物を運べる客室付き中型船。

 こうしてみると壮観だな。

 さて、次はと思った所で、異様な雰囲気を感じて振り返った。

 エリッサさんとラーケンさん、ジョーイに水夫のみんなが唖然とした顔で見ている。

 この辺でやめておいた方がいいかも。


「い、以上です」


(アズサ様、レッドスター号と同じ大きさの船もございますが)

(うーん、それは引っ込めておいた方がいいと思うわ)


 バトラーが肩をすくめたような気がした。


「すごいわねぇ。これ全部入ってたなんて。じゃあ、倉庫に溜まった荷を見に行きましょうか?」


 エリッサさんの案内で港近くの倉庫街へ行った。


「一番動かしたいのは小麦なの。とにかく、王都に人が集まって来ていてパン用の小麦がどんどんなくなって行ってるの。足りなくなる前に送ってくれと矢のような催促でね」


 あたしは、倉庫の中に山と積まれた小麦の袋を見上げた。


「いくつあるんですか?」

「五百袋よ」


(バトラー、どう、入る?)

(問題ございません)


「早速入れてみていいですか?」


 あたしは小麦の袋の山に触った。


「ええ、いいわ。入れてみて頂戴」とエリッサさん。


(バトラー、収納して、ゆっくりね)


 倉庫に積まれた小麦袋が端からゆっくりと消えて行く。

 エリッサさんやラーケンさん、ジョーイがおおっと感嘆の声を上げる。

 十分程で倉庫の中が空になった。


「入りましたね」


 とあたしが言うと、エリッサさんがこくこくとうなづいた。


「悪いけど、そのまま、持っててくれる。ここが空いたら、次の小麦を入れられるわ」

「いえいえいえ、それはちょっと。とりあえず、今入れたのを出しますね」


(バトラー、元通り出して頂戴)

(はい、お任せを)


 小麦の袋が倉庫に出現、ゆっくりと元に戻って行く。


「残念ねえ。せっかく、倉庫が空いたのに」


 いや、それはないでしょ。

 そりゃあね、重たくないし、エリッサさんにとっては都合がいいかもしれんけどさ。


「あの、隣の倉庫、見ていいですか?」

「え? まだ入るの?」


 隣の倉庫と同じように山と積まれた小麦を見上げた。


「恐らく入ると思います」

「まあ、凄い! 凄いわ!」


 エリッサさんが喜色満面の笑みを浮かべて叫ぶ。


「ですが、これが精一杯かと」

「いいのよ、いいのよ。倉庫二つ分空くとわかったのだから。それに中型船三台分もあるでしょ。あの中型船なら、三つ目の倉庫もいけると思うわ。さ、運べる量がわかったから、早速契約書を作らないとね」


 小躍りして喜ぶエリッサさん。


「それより、レッドスター号を引き揚げた報酬を頂けますか?」

「もちろんよ」


 良かった。レッドター号引き揚げた報奨金、忘れられてるかと思った。

 あたし達は興奮気味のエリッサさんと一緒に水運ギルドに戻った。

 受付カウンターで報酬を受け取って皆で分けた。

 ジョーイも嬉しそうにしている。


「俺、アズサさんに会えて運が向いてきたみたいだ」

「いやいや、たまたまだから」

「だってよ。昨日から借金は返せるしよ。臨時収入はあるしよ。航路を塞いでた船はなくなるしよ。新しい仕事は貰えるし、いい事づくめだ」


 なんか、照れるなあ。


「中型船三台の登録をお願いします」


 とカウンターの受付嬢から声がかかった。

 追加で出した船の申請を新たにする。

 ジェフリーさんがレッドスター号の調査報告書の作成に忙しいので、追加の船の標識は明日になると言われた。

 荷運びの契約も明日以降なるのだそうだ。

 そりゃそうよね、だってもう夕方だもの。

 その日は解散して翌朝水運ギルドに、もう一度集まった。

 会議室に通されたら、既に書類が用意されていた。

 書類の内容を確認していると、エリッサさんが言った。

 

「ああ、それとね、冒険者ギルドから腕ききのパーティを護衛に付けるわ。無論、水運ギルド持ちでね。だから、安心して旅を楽しんで頂戴」

「護衛は何人くらいでしょうか?」

「ギルドに打診してみないとわからないけど、船団で五~六人かしらね。何か問題でも?」

「えっと、あたしの方で食事を用意しようかと」

「ああ、そうなのね」

「三食用意しますから、人数がわからないと用意出来ないので」

「三食? ラーケン、説明してないの?」

「は? 何をですか?」

「カルルカン号は小型船よね。だったら、毎晩、どこかに上陸して、宿泊しながら王都を目指すでしょ。せいぜい、お昼のランチを用意するだけだと思うけど」

「え? それは聞いてないです! だとすると、王都まで何日かかるんですか?」

「十日から二週間くらいかしらね」

「五日じゃないんですか?」

「それは大型客船の場合。カルルカン号は小型船でしょ。十日から二週間くらいかかるわ。しかも船団で行くんでしょ。荷物を積んだ船はほぼほぼ川の流れに任せて航行するから遅いわよ」


 えええええ、そうなんだ!!!

 あたし、五日で行けるって思い込んでた。

 一体どこで勘違いしたんだろう?


「あたし、早く行きたいんです。なんとかなりませんか?」

「それなら、風魔法を使うと早く着きますよ。風魔法を使える魔法使いを雇わなければなりませんが」


 ラーケンさんが教えてくれた。


「ただ、かなり揺れますけどね。船酔いは強い方ですか?」

「うーん、大丈夫だと思いますけど、大型船はレッドスター号、一隻しかないんですか?」

「王都に連絡して、回してもらうように頼んでいるけど、上りは下りより時間がかかるのよ。最低でも七日、往復で十二日、結局小型船で明日出発しても王都に着くのはほぼ同じになるわよ」


(我々の大型船で行かれたら良いのでは?)

(でもでも、それじゃあ、超巨大アイテムボックスの存在がみんなに知れ渡っちゃう)

(既に非常識な大きさと皆わかっているのですから、大型船を出しても納得していただけるかと。出してみてはいかがです?)


 うーん、しかし、それは、最後の手段!


 

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