第17話 レッドスター号
数時間後、あたし達は水運ギルドのドックでギルドマスター、あの激しい口論していた人と相対していた。
水運ギルドのギルドマスター、エリッサさんは黒髪の、黒い服を着たいかにも魔女然とした、オニキスを連想させるような雰囲気を持った女性だ。
「つまり、あなた方はレッドスター号を引き揚げたから報奨金が欲しいというのね」
「そうです。我々のチームで引き揚げました」
ラーケンさんが胸を張って答えた。
「ラーケン、あなたね、自分の船を無くしたからって気がふれたの。そんな事できるわけがないでしょう」
「それが出来たんです。これから、レッドスター号を出して見せましょう」
ラーケンさんがあたしに目配せをした。
あたしは、ドックにゆっくりとレッドスター号を出した。
エリッサさんの目が驚きのあまり大きく見開かれた。
静々と架台の上に滑り出して行くレッドスター号。
大河に沈んでいる時も大きいと思ったけど、ドックに出したらもっと大きく感じた。
数時間前、カルルカン号に標識をつけた後、あたしはラーケンさんにある提案をした。
「ラーケンさん、あたしとチームを組まない?」
「は? チーム?」
「そ、つまりね。あたし達でレッドスター号を引き揚げて報酬をゲットしようって話。あたしのアイテムボックス、半端なく容量がおっきいの。だから、恐らくレッドスター号に近づきさえすれば、きっと、アイテムボックスに収納出来ると思う」
「いや、しかし、レッドスター号はもの凄く大きいのですよ。そこに建っている家くらいは優に超えるのです。如何にあなたのアイテムボックスが大きかろうと、絶対に無理ですよ」
「そんなの、やってみないとわからないじゃない、今からこの船でレッドスター号に行ってアイテムボックスに入るかどうか、やってみるっていうのはどう?」
「いや、しかし……」
「あのね、あたし、自信があるの、レッドスター号を収納する。だから、冒険者ギルドでレッドスター号の引揚げ依頼を見た時、あたし一人でやろうと思ったの。だけど、あたし、冒険者に登録してなくて、登録したら、最低ランクのGランクになる。そしたら、引揚依頼はDランク以上の依頼だから受けられない。それで、水運ギルドと直接交渉しようかと思ったの。でも、そしたら、あたしがおっきなアイテムボックスを持ってるって説明しないといけない。初対面の人間がそんな話、簡単に信じると思う?」
ラーケンが考え込むように俯いた。うーんと考えている。
私が水運ギルドのギルドマスターに説明している所を想像しているようだ。
「確かに、信じられないでしょうね」と、息を吐き出す。
「でしょ。あなた達は、古くからここで仕事をしていて水運ギルドの人達とは長い付き合いでしょ。あなた達の話なら、水運ギルドのギルドマスターも聞いてくれると思うの。それに、あたしは、船を動かせない。だけど、あなた達は船を動かせる。あなた達はレッドスター号を引き揚げられないけど、あたしは引き揚げられる。だから、あたしとあなた達でチームを作ってみんなで引き揚げて、報酬をゲットして、みんなで均等に分けたらいいと思うの。どう? やってみない」
「ええ! みんなで均等って、いい話じゃねえか、受けようぜ」
ジョーイや水夫が色めき立つ。ラーケンが皆を制した。
「いえ、それはいけません。仮に受けるとしても、我々とアズサさんで一対一にすべきです。ジョーイ、みんなも、お前達は水夫だ。船長の私と同じ金額を受け取るつもりか? 航路を読み、船を安全に航行出来るのは誰のおかげだ? うん?」
「ラーケン船長のおかげです」
皆が異口同音に答えていた。
「アズサさん、取り分を我々とアズサさんで一対一にするなら、ぜひ、この仕事お受けしたい」
「一対一。それでいいわ。あたしが金貨百枚、あなた方が百枚ね。そして、あたしを王都に運んでくれたら、あなた方に金貨二十五枚を払うわ。そしたら、金貨が百二十五枚になるでしょ。そのお金でこの船を買ってもらうっていうのは、どうかしら?」
「うーん、さすがに、船は買えません。船を皆で持つというのは、やったことがないのです。我々は船主から船を借りて、レッドボアを狩りに行く冒険者と組むという仕事をずっとやってきました。自分達で船を持つなど考えたことがないのです。ですが、とりあえず、レッドスター号の引き揚げとあなたを王都まで運ぶ仕事はお受けしたいと思います。契約書を交わしてもらえますか?」
(バトラー、紙とペン)
(羊皮紙の方が宜しいでしょう。文言は私めのいう通りお書き下さい)
バトラーに出して貰った羊皮紙に、近くにあった木箱を台にして契約書を二通書いた。
一通目
レッドスター号を引き揚げ報酬金金貨二百枚をあたしと元レインミューズ号一同(代表:ラーケン船長)とで均等に分ける。
あたしが超巨大アイテムボックス持ちなのは秘密とする。
二通目
一、カルルカン号を使って王都へ送る代金として金貨二十五枚を元レインミューズ号一同に払う。
二、金貨二十五枚には、ナシムまでの帰りの船賃を含む。
三、王都への道中の食事はあたし持ち
という内容を、バトラーの指示に従って書いた。
ラーケンさんがそれを確認、皆を代表してサインする。
「これで契約成立ね」
「宜しくお願いしますね」
あたし達はしっかり握手をした。
ジョーイや水夫のみんなが拍手をする。
これで一つ、仕事の山を超えたって感じかな。
「じゃあよ、早速、レッドスター号によ、行ってみねえか?」とジョーイ。
「うん、もちろんよ!」
それから、カルルカン号でレッドスター号が沈没している所まで行った。
ナシムの町から小型船で三十分程の所だ。レッドスター号は横倒しに倒れていて、帆桁の一部がかろうじて水面から出ていた。
(どう? バトラー、収納できる?)
(出来ましたら、あの帆桁に触って貰えないでしょうか? そうしていただけますと、水を除いた船のみ収納できます。この辺りの水も一緒に収納しますと、ここだけ川の水がなくなりますので、カルルカン号が川底に落ち上から滝のような水が落ちてくるという悲惨な状態になりますかと)
(ええええ! そうなの?! それはやばい! わかったわ。帆桁に接近するわ)
「ラーケンさん、帆桁に接近してくれる? 直接触らないと、川の水まで収納しそうなの」
「触ると船だけ収納出来るのですか?」
「ええ、そうなの」
ラーケンさんとみんなが帆桁に寄せてくれる。
手を伸ばして、帆桁に触った。
(バトラー、収納して。ゆっくりね、ゆっくり)
(承知致しました)
船が持ち上がりゆっくりと収納されて行く。
が、やはり、船があった場所に川の水が流れ込んだ。
水が坂巻く。
ググッとカルルカン号が傾く!
やばい、やばい、やばい!
川に巨大な渦が!
「うおおおお!!」
ジョーイ達が必死に漕いで渦から脱出、事なきを得た。
しかし、危なかった!
予想していたとはいえ、流れがこんなに早くなるとは思わなかった。
流れが収まってから、ナシムの町に戻った。
ナシムの町に戻ってから、あたし達はラーケンさんに水運ギルドのギルドマスターを呼んで来て貰った。
というわけで、今、エリッサさんにレッドスター号をみて貰っている所だ。
「素晴らしいわ。ラーケン、あなた達、やったわね。まさか、この船を収納できるアイテムボックスを持つ人が現れるなんてね。あなた、名前は?」
「アズサです」
「そう、アズサさんね」
「あの、あたしが超巨大アイテムボックス持ちってことは他言無用にお願いします」
「もちろんよ。あなた、王都まで船荷を運ぶ仕事を請け負わない? 邪魔な沈没船がなくなったから航路は開いたけれど、大型船をすぐに調達できないの。中型船が使えるようになったから、それで間に合わせるしかないけれど、もし、あなたが王都まで荷を運んでくれるなら、問題が一気に解決するの。ね、お願い出来ないかしら?」
え? え? なんか、考えてたのと違う方向に話が転がって行くー!
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