第16話 アズサ、思いつく

「船はどちらに?」

「えっと、近くの船着場に停めてあります」


 ジョーイと元レインミューズ号の乗組員達と一緒に船を停めている場所に向かう。

 ジェフリーさんはカルルカン号を見て回っては棒を振るった。どうやら、船の大きさを測っているようだ。測ってはサラサラと書類に書き込んでいく。


「長さ、幅、特徴っと。ギルドに戻って標識を作りますね。標識を船体に取り付けて下さい。標識が付いたら連絡お願いします。あと、港使用料を受付で払って下さい。標識が付いたら返金されます」

「はい、わかりました」


 ふーん、結構きちんとしてるんだ。

 査定がすんでギルドに戻る途中、ジェフリーさんが話しかけて来た。


「しかし、ナシムの町の上流にこんな素晴らしい船を作れる人々がいるとは存じませんでした」

「あ、えーっと」

「ご先祖様の船なんだろ」とジョーイ。

「ええ、そうなの」

「五十年前の船だって言ってたよな」

「五十年前!!!!」


 ジェフリーさんとラーケンさんが異口同音に叫んだ。


「いや、それはないでしょ。五十年経てば朽ちてしまいますよ。無論、時間停止機能付きのアイテムボックスを持っていれば別ですが、この船が入る程大きなアイテムボックスなど聞いた事がないです」

「ん? アズサさん、アイテムボックス持ってたよな」


 あちゃあ、ジョーイこれ以上話さないで!

 どうしよう!


(アズサ様。ここは正直に、時間停止機能付きのアイテムボックスにこの船が入っていたと話した方宜しいでしょう。納得して貰えば、それ以上は詮索されないかと)

(そうね、そうしましょう)


 バトラーの忠告に従った方がいいだろう。


「あの、そうなんです、時間停止機能付きのアイテムボックスに船を入れてたんです。うちは、先祖代々アイテムボックス持ちの家系で」

「あ! なーる」とジョーイ。

「なるほど」とうなづくジェフリーさん。

「おお、そういうわけでしたか!」とラーケンさん。


 みんなに納得して貰えて良かったーーー!

 話している内に水運ギルドに着いた。


「スザンヌ、査定が終わったよ。これから標識を作ってくるよ」


 ジェフリーさんがカウンターの奥へ戻って行く。


「港の使用料、登録料のお支払いはこちらでお願いします」


 スザンヌと呼ばれた受付の女性が、声をかけてきた。

 銀貨二十五枚を支払う。港の使用料銀貨五枚も含まれていて、標識が船に付いたら返金してくれるそうだ。残り二十枚の内、五枚が船の、十五枚が船主のギルド登録料だ。水運ギルドには、冒険者ギルドのようなランクはない。船主は何隻の船を持っているか、船員は船に乗っている日数で、船は大きさで仕分けされる。


「ギルド証をどうぞ。船主としての身分証になります。また、こちらにアズサ様の持ち船を登録しています。持ち船が増えましたら、追加の登録をお願いします」


 ギルド証を受け取り、船の標識が出来上がるのを待つ。


「アズサさんは王都に行った後、どうされるんですか?」とラーケンさん。

「そうね、まだ、考えてないの。王都に行ってから考えようと思って」

「え! そうなのか?」

「どうしたのジョーイ?」

「俺、てっきり、戴冠式見たさに行くのかと思っててよ。あ、じゃあ、ナシムには帰って来ないのかい?」

「そうね、今の所帰るつもりはないわね」

「そっか、それなら、帰りの仕事、見つけねえと。見つからなかったら、荷運び船だな」

「私共はナシムの町を拠点に活動しています。申し訳ないが、帰りの船賃も出して頂けますかな?」

「もちろんです。遠慮なく言って下さい」


 ラーケンさんが急に迷ったような表情を浮かべた。


「あの、何か?」

「いや、あの船を使わせて貰えないかと思ったのですよ。あの船があれば、元通り、冒険者と組んでレッドボアを王都に運ぶ仕事が出来ますからね」

「おお。そりゃあいい! そうさせて貰えねぇか?」

「もちろん、レッドボアを売った利益のうち三分の一が、アズサさんの物になりますよ」


 いや、いきなりそんな話をされても。


(レッドボアを狩った時だけ売上があるというのは些か不安定かと思われます。ここは、船の運用、維持管理も含めて一括で彼らに任せ、代わりに船の使用料を毎月支払ってもらうようにしてはいかがでしょう)

(つまり、レンタルって事ね。いいわね。ジョーイ達も元の仕事に戻れるし)


「えっと、あたし、船の事は全くの素人なの。で、レッドボアを運ぶ仕事でどれくらいの利益があるかもわからない。だからね、この船の運用、維持管理も含めて全て任せるから、毎月、一定額を支払ってもらうっていうのはどう?」

「毎月、おいくらぐらいでしょうか?」

「それは、調べさせて欲しいの。あなただったらいくらぐらいが適当だと思う?」

「そうですね」

「その話、ギルドで仕切りましょうか?」


 と標識を両手に持って戻ってきたジェフリーさんが言った。


「水夫と船主の間を取り持って、トラブルを未然に防ぐのも我々の仕事ですのでね」

「しかし、ギルドに手数料を支払わなければならない」

「わずかな手数料でトラブルを未然に防げるのです。良い話だと思いますがね」


 この人達に船を上げるっていう手もある。バトラーは他にも船を持ってるし。

 でも、それでは慈善になってしまう。彼らは受け取らないだろう。

 何か、いい方法は……。


 バン!

 大きな音がして、奥から男が大声を上げながら出てきた。


「これ以上、出せるか! 全く、大損じゃないか!」

「落ち着いて下さい! もう少し、報酬を上乗せ出来ないか、訊いただけでしょ」

「あんた達も被害者だろう? 協力すればなんとかなると思っていたのに! とにかく、俺が出せるのは金貨百枚。それも、一週間以内にレッドスター号を引き上げられた場合だ。死ぬ気で魔法使いを探せ」

「わかりました。大至急、そちらの報酬百枚と我々水運ギルドから百枚。計二百枚の報酬で魔法使いを五十人以上を探してみましょう。不可能だと思いますがね」

「不可能でもなんでもやれよ。あんただって、あんな所に船が沈んでたんじゃあ、困るんだろう?」

「ええ、困りますよ。ですが、ギルドの年間予算は限られているんですよ。船の周りだけ川を干上がらせ、それから、船を持ち上げて陸に降ろす。どれだけの魔法使いが息を合わせて呪文を詠唱しなければならないと思ってるんです。伝説の魔法使いマーリアンでも呼んでくれば別でしょうけど」

「うーうう、とにかくだ。一週間以内だ。わかったな」


 男は大きな足音を立ててギルドを出て行った。


「本当にわからずやね。今時、レベル30以上の魔法使い五十人以上集めようだなんて! 集まるわけないわ。皆、王都の警備に駆り出されてるんだから」


 なんだか凄い口論を見てしまった。みんなもあっけに取られて見ている。

 あれは誰だろう? 女の人はギルドマスターかな? 話の内容からレッドスター号の船主と水運ギルドのギルドマスターっぽいけど。

 レッドスター号の引揚げ、冒険者ギルドにも金貨二百枚って出てたなあ。

 そうだ、いい事思いついた。


「あの、船を貸し出す話ですが」


 と言うと、ジェフリーさんとラーケンさんが我に帰ったようにあたしを見て目をパチパチとした。


「これは失礼」とラーケンさん。

「あの、貸出はしばらく考えさせて下さい。それより、標識を船に取り付けに行きましょう」

「そうですね。慎重に検討された方がいいでしょう。では、こちらが標識です。こちらの工具をお使い下さい」と言ってジェフリーさんが、標識と工具を差し出した。

「あ、俺が持ってやるよ」


 ジョーイがあたしの代わりに受け取ってくれた。結構重そうだ。ジェフリーさんは、次の仕事があるのか、奥へ戻って行った。

 あたし達も、標識と工具を持ってカルルカン号へ戻る。

 カルルカン号に着いてすぐに作業を始めたジョーイ達は、あっという間に標識を取り付けてしまった。

 慣れてるのね。


「ラーケンさん、これから試運転しませんか?」

「試運転?」

「船って、操船にくせがあるんじゃない? 初めての船は試し乗りをした方がいいと思うの」

「そうですね。しかし、契約がまだですので」


 ラーケンさんが言うのも最もだ。

 そこで、あたしはとある提案をした。

 

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