第15話 水運ギルド
(え? どういう事?)
(船は全て整備して保管しております。船だけでなく、全ての持ち物はすぐに使える状態で保管してございます。よほどひどく壊れた場合は別でございますが)
(なるほど! さすがね!)
バトラーがそういうなら、明日の朝、ジョーイに見せる前に水路の人目のつかない場所で船を出せばいいかしらね。
あたしは人目の少なそうな場所に目星をつけて、宿に戻った。
翌朝、鉄のイカリ亭に来たジョーイと一緒に水路へ向かった。
「昨日は無事に借金返済出来た?」
「おう、バッチリだったぜ。ホンビタの野郎、むっとした顔してたがな」
「よかったわね。えっと、船なんだけどね。あ、あれ、あれ何? あれ、ほら」
「え? え?」
「ほら、あそこ見て、見て!」
水路と反対方向を指す。
ジョーイが港の方を向いてキョロキョロする。
その隙に、バトラーが水路に船を出した。
「あ、ごめーん、見間違えたみたい。船はこっちよ」
水路に浮かべた船を見せる。船には櫂と帆がついていた。
「おお! これはいい! いいぞ!」
ジョーイが船に飛び乗った。あたしも続く。
「こいつは、いい! 帆も船体もしっかりしてるしよ、キャビンもある。実用的だ」
「へえ、そうなんだ。使えそうで良かった。あたし、船には全くの素人で、この船を動かすのに何人くらい必要なの?」
「えーっと、櫂を漕ぐ水夫がいる。この船は左右三人づつ、六人の漕ぎ手がいる。俺が漕ぐから、あと五人かな。それと、航路を知ってて舵を操れる船長だろ。うーんと、出来たら風魔法使い、今回は王都へ川を下って行く旅だからな。いなくてもいいが、早く行きたいなら絶対いた方がいい」
「なるほど、じゃあさ、あなたの知り合いに会わせて貰える?」
「ああ、いいぜ。実はよ。水運ギルドに集まって貰ってるんだ。あんた、水運ギルドに登録してねえだろ。だからよ、水運ギルドで待ち合わせたらいいかなって」
「え? 船ってギルドに登録するの?」
「船じゃなく、船主は全員登録するんだ。船もある程度の大きさになると登録しなきゃなんねえ。この船も登録が必要だ」
「へえ、そうなんだ。教えてくれてありがとね。じゃあ、水運ギルドへ行こうか」
後ろからカンカンと大きな鐘の音が聞こえて来た。
「おい、そこの、邪魔だぞ! 早く進んでくれ! 誰だ? こんな所に船止めたのは?」
あれ? 水路の幅はあると思うけど。あちゃあ、反対側から船が来てるのか。
ジョーイの目の前でアイテムボックスに入れるわけにいかないし。
「すみません。今、動かします。ジョーイ、お願い、船動かして!」
「え! 一人じゃ無理だぜ」
「え、そうなのって、そうよね。どうしよう?」
「じゃあ、ちょっと待っててくれ!」
ジョーイは甲板から後ろの船に向かって叫んだ。
「おーい、動かしたいけどよ。手が足りねえんだ。手伝ってくれねぇか?」
「おう」
後ろの船からバラバラと男達が岸に上がるや、岸伝いにさっと船に飛び移って来た。
水夫の席に座り、あっという間に漕ぎ出す。大河に入り手近な船着場に船を停め、男達は後ろから付いて来ていた彼らの船にさっさと戻って行った。
「ありがとうございましたぁ!」
「いいってことよ!」
手伝ってくれた男達が乗った船は大河へ漕ぎ出して行く。
「水運ギルドはすぐそこだ。さ、行こうぜ」
チケット売り場の二軒先、水運ギルドへ向かう。
水運ギルドの玄関の上にイルカの絵が書いてあった。
こっちにもイルカがいるかって、つまらないダジャレが浮かぶ。
ジョーイが先にギルドへ入って行った。
「おーい、みんな」
数人の男達がこちらを振り返った。「よう」と声が飛ぶ。
「こちらがアズサさんだ」
「アズサです。宜しく」
皆、一斉に挨拶をした。その中から、いかついけど真面目そうな壮年の男が一歩前に出て、胸の前に腕を上げ一礼した。
「ラーケンと申します。レインミューズ号で船長をしていました。船員をお探しと聞いていますが?」
「はい、王都まで行きたいんです。船は先程ジョーイに見てもらいました。これから、ギルドへ登録する所です」
「で、何人程必要でしょうか?」
「その辺はジョーイに聞いて下さい」
「しかし、ご予算がお有りでしょうから」
そっと、声を顰めて
「ざる勘定をしますと、足元を見られて高くふっかけられますよ」
と教えてくれた。
「ありがとう。でも、ジョーイを信用してますから」
テレパシーを使えば、騙そうとしているかどうか、すぐにわかる。
だけど、ここにいる人達からは人を騙そうとする悪意が感じられない。
皆、元の仕事に戻りたいのだ。
「それでも、予算はお有りでしょう?」
ああ、なるほど、この人はあたしがどれくらいお金を持っているか心配なんだ。
「実は昨日、ジョーイと詐欺グループを捕まえて、報奨金や懸賞金を貰ったんです」
「おお、そうでした。ジョーイから聞いていました。それでは、ギルドに元レインミューズ号乗員指名で依頼をかけて頂けますか?」
「わかりました」
水運ギルドの受付カウンターに行って用件を言った。
「船主と船の登録、元レインミューズ号乗員指名の水夫募集ですね」
チケット売り場の職員と同じ制服を着た落ち着いた雰囲気の女性が手続をしてくれた。
船主の住所を書く時、どうしようかと思ったけど、宿の名前でいいと言われた。
日本語で名前を書いたら、異世界の文字になった。
言語習得スキルって素敵!
英語で苦労したのが、嘘みたいだわ。
このスキル、元の世界に戻っても無くならないで欲しいなあ。
船の登録で、船名を聞かれた。
「えーっと」
(バトラー、あの船、なんて名前だったっけ)
(カルルカン号でございます)
(そうそう、下噛みそうな名前だったのよね)
「カルルカン号です」
「カルルカンですね。それでは、専門の職員に船をチェックさせて頂きますね。ジェフリー、新規登録船の査定をお願い」
奥から書類を片手に若い男が出て来た。
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