第14話 冒険者ギルド
ジョーイと別れた後もしばらくの間、入り口に佇んで中を見渡していた。
うーん、屈強そうな男や女が数人たむろしている。この中に入って行くのか!
絶対絡まれる。
「お嬢さん、ちょっと通してくれるかな?」
低い声が聞こえた。
振り返ると、めっちゃ綺麗な若者が立っていた。
耳がとんがって長い。
エルフだ。
めっちゃ美形のエルフだ。
映画「指輪物語」のエルフを演じた俳優さんみたいだ。
「あ、すいません」
ギルドの戸口から脇へ避ける。
「謝らなくていいよ。君、初心者?」
「はい、あの、初めてで」
「じゃあ、一緒に行こうか? 大丈夫怖くないよ」
若者の爽やかな物言いに思わず一緒に付いて行った。
たむろしている人達の噂話が聞こえてきた。
「げっ、あれは魔法剣士のスタッドじゃないか?」
「ああ、確かなんかの討伐に行ってなかったか?」
「こないだの沈没事件だろ」
「そうそうレッドスター号ね。あれを襲った魔物の討伐だろ?」
「ああ、聖なる河を泳いだんだ、こっち側に渡ってくるかもしれないからな」
「聖なる河を泳いで逃げるとか、信じられねえ」
「落ちた時に狂っちまったのさ」
ふーん、この人魔法剣士なんだ。凄いなあ。
「君、初心者は向うのカウンターだ。受付をしてくれる」
「ありがとうございます。あの、あたし、アズサって言います。宜しく」
「俺はスタッドだ。宜しくな、さ、行って」
「あ、はい」
スタッドさんに促されてカウンターに向かって歩いて行くと、掲示板が目に入った。どういう依頼が来ているか、先に見ておこう。冒険者になるかならないかは取り敢えずおいておいて。
初心者専用掲示板には主に薬草採取が載っていた。後は、冒険者グループが荷物持ち兼雑用係を募集していた。
Fランク以上の掲示板を見た。いろんな依頼が来ている。
その中にあの沈んだ船レッドスター号の引き上げの依頼があった。破壊する事なく引き揚げるのが条件で、依頼主は水運ギルドだ。
あたしのサイコキネシスの能力を使えば、もしかしたら出来るかもしれないけど、今のレベルでは無理だろうしなあ。
(アズサ様、船に接近出来ればアイテムボックスに入れられますが)
「そっか! その手があったか!」
思わず大声を出していた。
周りにいた冒険者達が一斉にこっちを見た。
あわわ
「す、すいません。大声出して。ノープロブレムです」
冒険者達がまた、雑談を始めた。
「あの、冒険者登録はこちらですよ」
登録カウンターの女性がこちらを見ている。
「あ、あの、えーっと」
(船の引揚は冒険者のランクD以上の依頼。アズサ様が冒険者ギルドに登録しますと初心者のGランク冒険者になりますので引き受けられなくなりますが、いかが致します?)
(そうか、初心者だと引き受けられないのね。だったら、先に水運ギルドに話してみよう)
「ちょっと考えます、アハハ」
あたしは、笑って誤魔化しながらギルドを出た。その足で水運ギルドに向かった。
そもそも、あたしがここで足止めされているのって、あの大型船が航路に沈んだからだし、港に荷物が溜まっているのも、宿を紹介してくれたトマスのおじさんが順番待ちで外壁の外で並ばなきゃならなくなったのも、元凶はレッドスター号の沈没にあるわけで。
これは義よ。義を見てせざるは勇なきなりって言うじゃない。人様の役に立つ能力と機会があるんだもの、ここは一肌脱ぐべきよね。
大通りを港に向かって歩いていたら、いい匂いがしてきた。そういえば、お昼をまだ食べてない。
数台の屋台が出ていた。何か焼いている。美味しそうだ。
「姉ちゃん、一本、どうだ? レッドボアの肉だぜ」
「へえ、一本いくら?」
「串三本で小銅貨一枚だ。どうだ?」
「串三本は多いわね」
「何言ってる。めちゃくちゃ美味いんだぜ。三本くらいすぐ食べれるぜ」
「うーん、じゃあ、三本」
お金を払って串を受け取る。屋台の前においてあった木箱に腰かけ、一口食べてみた。
うまい!
あっさりしている。そして、この香り。
レッドボアは木の実を食べてるって言ってたけど、確かに野趣に富んだ香りがする。
かかっている塩も美味しい。
ほのかに甘みを感じる。
三本は多いかもと思っていたけど、あっという間に食べてしまった。
(バトラー、水の入った水筒出して)
マントの下に出てきた水筒を取り出して水を飲む。
口の中に残っていた串焼きの味を胃の中に流し込んだ。
レッドボアの串焼き、すっごく美味しいけど甘辛いタレで食べたらもっと美味しそう。
お腹がくちくなったら、人の役に立とうと上がっていたテンションがググッと下がって来た。
冷静に考えてみよう。
人の役には立ちたい。
だけど、結果として、どうなるか?
あたしが超巨大アイテムボックスを持ってるって皆が知ってしまう?
船を引き揚げてすっごく目立ってしまう?
メリーが出来るだけ目立つなって忠告してくれたのに。
(あなたがこの世界最強の生物なら問題ないけど、ホホ)
メリーの言葉が蘇る。
つまり絶対目立っちゃダメって事よね。
とにかく、先輩を助けて元の世界に戻るんだ。
絶対に絶対に生きて帰る!
それには情報を集めないと。
情報を集める為に王都に行くんだ。
明日、ジョーイと待ち合わせて船を見て貰うから、船を出す場所を探しておこう。
人目につかない場所で、アイテムボックスから船を出さないといけない。
港を調べてみよう。
屋台のにいちゃんにご馳走様と言って、港へ向かった。
港の前の広場はごった返していた。
(ねえ、中型船ってどれくらいの大きさ? こっそり出せるかしら?)
(そうでございますね、大きさは、あちらの船と同じくらいでございましょうか?)
バトラーが港に泊まっている船の中から一台の船、濃い青色をした船を指した。
幅十五メートル、長さ三十五メートルといったところかしら。
結構おっきい。
確か、小型船で隣の港町へ運んでるって言ってたし、あの港に泊まっている船も荷は積んでなくない?
あれは中型船じゃないかな?
あっちの船はもっと小さいけど、せっせと荷物が運び込まれて行ってる。
中型船も通れなくなってるんじゃないかな。
(バトラー、もっと小さい船ない? 沈んだレッドスター号のおかげで、中型船も通れなくなってるっぽい)
(承知しました。そうでございますね。あちらの、今、荷を積んでいる船と同じくらいの船がございます。そちらが宜しいでしょう)
(そうね、そうしましょう)
港を見て回る。結構、人が多い。活気があって荷を積んだ馬車が右往左往している。
港の端の方に水路があるのが見えた。見に行ってみると町の奥へと続いている。
バトラーに地図を出して貰って確かめる。町の奥には大きな屋敷が立っていた。きっと貴族の屋敷だろう。貴族は水路から直接大河に漕ぎ出せるようになっているみたいだ。
貴族の屋敷が立ち並ぶ手前に小ぶりの屋敷が建っていて、水運ギルドマスターの館とあった。その手前に水運ギルド所有のドックが並んでいる。
あたしはドックを見に行った。
ドックに小型船が出せるなら、これ以上ベストな場所はない。
船を水に浮かべたら、あっというまに沈んでしまった、なんて事になったら最悪だ!
ジョーイに見せる前に確かめておくのもいいかもしれない。
(直接水に浮かべても大丈夫だと思いますが)
バトラーがあたしの心を読んだように言った。
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