第13話 報奨金ゲット
「あなた! ジョーイ!」
通りの向こうから綺麗な女の人が走って来た。
「エルザ、どうしてここへ?」
「近所の人からあなたが警ら隊に捕まったんじゃないかって」
「え? 俺が? ああ、大家の婆さんだな。いつも俺をならず者扱いする婆さんだろ。ちげーよ。俺がならず者を捕まえたんだ。こちらのアズサさんと一緒によ。これから報奨金貰いに役所まで行くんだぜ」
「え! そうだったの。はあ、良かったー」
エルザさんがジョーイに抱きついて泣き出した。
「心配かけてよ、すまねえ」
ジョーイが泣き続けるエルザさんの背中を優しく撫でている。
ここは二人だけにした方がいいかしら。
でも、役所がどこにあるかわからないし、二人で取りに行った方がいいだろうし。
「コホン、あのー、お取り込み中、申し訳ないんだけど」
ジョーイが我に返ったみたい。
「あ、すまねえ。エルザ、こちらはアズサさん。この人のおかげで、あいつらを捕まえられたんだ」
「アズサです。宜しく」
「エルザです。主人を助けて頂いてありがとうございました」
エルザさんが涙をふいて挨拶する。
「いえいえ、こちらこそ、ご主人がいて助かりました。良ければ、一緒に役所まで行きませんか?」
「そうだな、エルザ、一緒に行こうぜ」
「でも、マダムに黙って飛び出して来たから。すぐに戻らないと。また、お給金から引かれる」
「すまねえな。苦労させてよ」
「ううん、いいの」
「じゃあ、一緒にマダムの所に行って、あたしが事情を説明しましょうか?」
「お気遣いありがとうございます。でも、大丈夫です。役所には主人と一緒に行って下さい。それでは、私はこれで」
エルザさんは来た時よりずっと明るい笑顔で戻って行った。
「うちの嫁はよ。『ドレスブランシュ』って言う店でよ、お針子やってるんだ。貴族のご婦人方のドレスをたくさん縫ってるんだぜ」
ジョーイが得意そうに言った。
「美人な上にお針子の技術も持ってるなんて、素敵ね」
「へへへ、俺の自慢の嫁! さ、役所はこっちだ。行こうぜ」
役所は港からの大通りをまっすぐ行った先にあるみたい。
「奥さん美人よねー。モデルかと思った」
「モデルって?」
「え? えーっと、あたしの住んでいた所では、デザイナーが服を発表するファッションショーって言うのがあって、デザイナーの服を着てお客さんに見せる人達をモデルっていうの。服を美しく見せないといけないから、モデルになる人はみんな美人なのよ」
「よくわからねえが、そんな職業があるんだな」
世間話をしている間に役所に着いた。
役所は広場に面して建っていた。広場と港は大通りで結ばれている。
役所のカウンターで用件を言うと、しばらく待たされた。
「ねえねえ、ジョーイ、あんたが乗っていた船って沈んだんでしょ。よく、生き延びられたわね」
「ああ、運が良かった」
待っている間、ジョーイが沈んだ時の様子を話してくれた。
ナシムの町の対岸はレッドボアの生息地で、冒険者達の狩場なのだそうだ。冒険者ギルドは冒険者達が狩ったレッドボアを買い上げ捌いて塩漬けにしたり、凍らせて各地へ出荷しているという。だが、冒険者達の中にはレッドボアを生捕りにして眠らせ王都へ運んで稼いでいる者達がいるのだそうだ。ジョーイの船はそんな冒険者と組んで生捕りにしたレッドボアを運ぶ船だったのだという。
「俺の乗っていた船、レインミューズ号は冒険者と組んでレッドボアを狩っては、王都に運ぶ船だったんだ。このあたりで取れるレッドボアは森の木の実を食べて育つんだが味がよくてよ、食べ頃のレッドボアを選んで皆で気絶させて、魔法使いが深眠の術をかけるんだ。で、そいつをよう、船で王都に運ぶんだ。王都で息の根を止めて捌くのさ。ところがだ、何故かレッドボアが船の中で起きちまった。もう一度、魔法使いが深眠の術をかけようとしたんだけどよ。間に合わなくてよ。暴れ出してよ、縛ってた縄は切るわ、檻を壊すわ、ブレス吐いて船に穴開けて逃げるし、おまけに、通りかかった大型船まで、沈めてしまってよ。慌てて船を捨てて岸まで泳いで逃げて助かったのさ。命は助かったが、船をなくしちまってよ。おかげで、稼ぎが無くなっちまった」
「ふーん、じゃあ、船があれば王都まで行けるんだ」
「ああ、船があればな」
「あたし、船持ってるんだけど」
「えええ、そうなのかい。だったら、俺を雇わねえか? いや、一人じゃダメだ。レインミューズ号で一緒に働いていた仲間がいるんだ。そいつらと一緒に雇ってくれねえか? そしたら、王都まで運んでやるよ」
「やったー! じゃあ、船を見てもらえる? 些か古い船だから動くかどうかわからないの」
「古いってどれくらい古いんだ?」
「五十年以上かしらね」
「えええ! 五十年! あー、悪い。ぬか喜びさせたかもしれねえ。船っていうのはよ。ちゃんと手入れしてねぇとダメなんだ。五十年手入れ無しじゃあなあ」
ジョーイが、がっかりしたように言う。
(うーん、どうしよう。ここで、時間停止機能付きアイテムボックスの話をしていいものか。いや、やっぱりダメ)
(アズサ様、ジョーイと奴隷契約を結んではいかがでしょう?)
(えええ! 駄目よ、奴隷なんて! そんな非人道的な事は出来ないわ)
(ヒジンドウテキというのが、どのような物か存じ上げませんが、奴隷契約を結びますと、奴隷の間、知り得た主人の情報は生涯、人に喋る事は出来なくなります。奴隷契約が解消された後もです。きちんと給料を払う良い主人に当たれば、奴隷と言っても決して悪いものではありませんよ。アズサ様なら、良い主人に成れるかと思いますが)
(なるほど、奴隷ってそういう物なのね。でも、ちょっと考えるわ)
「ジョーイ、あのさ、とにかく、船を見てもらえない? それから判断してほしいんだけど」
「オーケイ、わかった。で、船はどこに繋留してるんだ?」
「明日、案内するわ。あたし、鉄のイカリ亭に泊まってるの、明日の朝、来てくれない?」
「ああ。わかった」
その時、あたし達を呼ぶ声がした。
「アズサさん、ジョーイさん、ご用意ができましたよ」
カウンターの女性が報奨金金二十枚ともう一つ袋を出した。
「こちらは、奴隷になった人々の親族の方が懸けていた懸賞金です。彼らを捕まえて、人々が騙されて奴隷になったと証明した人に支払われるお金です。あなた方にはその資格があると判断されましたので、こちらもどうぞ」
と言って係の人が懸賞金金貨三十枚を出した。
合わせて金貨五十枚だ。
カウンターの女性から出された報奨金と懸賞金の受け取り証にサインをする。あたしとジョーイは金貨五十枚を仲良く半分に分けて受け取った。
「あの、あのアズサさん。今日はありがとな。これで、借金を返す目処がついたよ」
「さっきの連中に借金してたのよね。あいつらが捕まったら、返さなくていいんじゃないの?」
「いや、あいつらは金貸しに雇われているだけなんだ。金貸しはホンビタって言うんだけどよ。船が沈んで働けなくなって、金貨三枚借りただけなのによ。利息入れると三十枚だって言ってきてよ。で、俺があいつらの手先になったら借金チャラにしてやるって言われて、手先にならないなら女房売れって言われてよ、仕方なく手先したら一人目があんただったんだ。借用書があるし、借りちまってるしよ」
「そう、とにかく、目処がついて良かったわ」
役所の出口に向かったら、警ら隊長が声をかけてきた。
「おお、報奨金を受け取りに来たのかね。ちょうど、話を聞きたいと思っていた所だった」
「えーっと、どういった事でしょうか?」
「捕まえたあやつらが言うには、お嬢さん、あんたが妙な術を使ったと言うのだがね。なんでも、鉄貨が空から降ってきたというのだが」
「あ、はい、あたしです。彼らが金貨五十枚でチケットを売るというのですが、チケットを見せようとしなかったんです。その上、金がなければ貸してやると言うのですよ。胡散臭いなあと思って、鉄貨を金貨五十枚分、あいつらの上に落として動けなくしてから、チケットを取り上げて確認したら、偽物のチケットだったんです。それで、ジョーイに縛り上げるように言って捕まえたわけです」
「お嬢さん、もしかしてアイテムボックス持ちかね?」
「はい、そうです」
「なるほど、それで合点がいったよ。ところで、ジョーイは最初から、彼らがあんたを騙そうとしているのを知っていたのだね」
「ええ、確かにジョーイは知ってましたが、あたしが説得して辞めさせたんです。水夫に戻って仕事がしたいなら悪い奴らとは付き合ってはいけないって」
「俺、借金があって、仕方なかったんです。彼らの命令を聞かないと女房を売り飛ばすって脅かされて」
「ジョーイは家族を守ろうと必死だったんです」
警ら隊長は黙ってあたし達の話を聞いていたが、最後にはジョーイの肩を叩いて言った。
「事情はわかった。最初から、ジョーイにはお咎めなしだったしな。あんた、旅人と言っていたが、冒険者にはならないのかね?」
「うーん、ちょっと迷っているんです」
「ぜひ、冒険者になってほしい。あんたの戦い方はユニークだからな。悪人を鉄貨で埋めて動けなくするなどと、普通は考えんよ。あんたの知恵があれば、すぐに上位冒険者になれるんじゃないかな?」
「いえいえ、それは買い被りと言うものです」
「冒険者ギルドには色々な依頼が飛び込んでくるんだが、魔獣や魔物を倒す方法では解決できない依頼もあってな、ぜひ冒険者ギルドの依頼表を見てほしい。ギルドは広場の向こう側だ。宜しくな」
警ら隊長は言うことだけ言って行ってしまった。
冒険者か……。
最初は冒険者になってお金を稼ぎながら先輩の行方を探すつもりだったけど、バトラーのおかげでお金は有り余る程あるわけで、無理に冒険者になる必要はないしなあ。
でも、先輩を助け出す時の事を考えて戦闘能力は高い方がいいし、それに冒険者ギルドには色々な情報が集まるだろうし、先輩を探す手掛かりが見つかるかもしれない。
「じゃあアズサさん、俺、ホンビタさんの所に金返しに行くよ。明日の朝、鉄のイカリ亭に行くからよ、宜しくな」
と言ってジョーイも行ってしまおうとした。
「待って。あたし、冒険者ギルドに行ったことがないの。広場の向こうってどの辺?」
「おう、すぐそこさ。ちょうどホンビタさんの店に行く途中だし、一緒に行ってやるよ」
ジョーイに連れられて冒険者ギルドに行った。
冒険者ギルドはこれぞ冒険者ギルドって感じの二階建の建物だった。扉が開いていて中が見渡せる。
「右奥のカウンターに受付があるからよ、聞くといい。じゃあ、明日、宜しくな」
「うん、じゃあね」
あたし達は手を振って別れた。
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