第7話 進化していた!
「アズサ、起きて。テトの様子がおかしいの」
テトが、ウンウン唸っている。
右に左に転げるほど、苦しんでいる。
一体、何があったんだろう?
「あんた、鑑定が使えるでしょ。テトを鑑定して」
メリーに言われ、慌てて鑑定する。
テトに状態異常が!
(ブルースティールスコルピオンの毒による状態異常。瀕死の状態。一時間以内に解毒しなければ死亡)と出た。
HPがどんどん減って行ってる。
「なぜ? テトは毒針に刺されなかった筈よ」
「わからないわ。バトラー、解毒剤を出して!」
空中に茶色の小瓶が現れる。
「テト、これを飲んで!」
テトが目を開けない。解毒剤を口から無理やり流し込む。だけど、ゴボゴボと薬を吐き出してしまう。テトが苦しそうだ。熱が凄い。熱気が伝わってくるほどだ。
「一体、ブルースティールスコルピオンのどこに毒があったのかしら? それとも知らないうちに刺されていた?」
「ブルースティールスコルピオンの毒針の毒は神経毒なの。刺されたら、すぐに動けなくなるわ。でも、この様子だと、神経毒じゃないわね。もしかしたら。あのブルースティールスコルピオンは新種に進化していて、ハサミか、足のどれかにも毒があったのかもしれない。バトラー、ブルースティールスコルピオンの死骸、出して」
ブルースティールスコルピオンの死骸が空いた地面に出る。メリーが死骸の匂いを嗅いで回った。
「やっぱり、足だわ。足のトゲの部分からも毒が出るようになっていたんだわ。毒は遅効性ね。トゲの傷は治癒魔法で治した。あの時、毒を吸い出してから傷口を治せば、全身に毒が回ることもなかったのよ。けど、治癒魔法で傷を治したから、毒は体内に取り込まれてしまったんだわ」
「だったら、傷口をもう一度開いて毒を吸い出したら」
「あんたって、ものすごいこと言うわね」
「だって、解毒剤が飲めないのよ。荒療治かもしれないけど、傷口は治癒魔法で治るでしょ。確か背中だった」
「そうね、背中だった。だけど、どうやって、テトをひっくり返すのよ。私達じゃあ無理よ」
「えーっと、テト、お願い、うつ伏せになって背中を見せて!」
私達はテトの耳元で大声で叫んだ。
だけど、テトには届かない。
どうしよう。
一か八か、サイコキネシスを使ってテトをうつ伏せにできるか、やってみよう。
うーん、テトをひっくり返すイメージを頭に思い浮かべる。
お願い、うまくいって! お願い!
あ、動いた。
ゆっくり、ゆっくり右肩が持ち上がる。
と思ったら、ズンという音と共に元に戻った。
「あー、もう何やってるのよ。がんばんなさいよ!」
メリーの叱咤激励が飛んでくる。
うー、がんばれ、あたし。もう一度、テトに意識を集中して、テトの体を持ち上げるイメージを強く持って。
テトの体がゆっくりゆっくり、もう一度右肩が持ち上がって、ぐるん。
テトがうつ伏せになった。
「あんた、意外にやるじゃない! さ、傷跡を調べるわよ」
傷はきれいになっていたけれど、強い灯で照らしたら、わずかに緑色の肌の色が薄い。この傷に沿って剣でテトを切り裂かなければいけない。
「テト、ごめん!」
テトの背中に剣を突きたてる。テトの皮膚は厚い。ぐっと力を入れて切り裂いた。テトの血が滲み出てくる。
傷口から血を吸い出してみたけれど、既に全身に毒が回っているのだろうか目立った効果はない。
鑑定しても
(ブルースティールスコルピオンの毒による状態異常。瀕死の状態。十分以内に解毒しなければ死)
と、出るだけだ。
こうしている間にもHPが物凄い勢いで減っていく。
「どうするの? このままではテトが死んでしまう」
「待って。もしかしたら。バトラー、解毒剤」
「え、解毒剤は飲めないじゃない」
「飲ませるんじゃないわ、傷口に振りかけるの」
私とメリーは、切り開いた傷口に解毒剤をふりかけた。
「ぎゃああああ」
テトが苦しんでる。お願い、うまくいって!
ステータスに解毒中の表示が出た。
「やった、これで解毒できる!」
傷口から大量に泡が出ている。物凄い臭気だ。血と解毒剤が混じり合った体液が背中から染み出して行く。
「お願い、間に合って!」
解毒されるのが先か、HPが0になるのが先か!
悲鳴を上げ続けるテト。のたうちまわっている。
が、その悲鳴が途絶えた。
HPが0に!
「嘘、テト! テト!」
「テト、目を覚まして!」
AEDがあれば。テトが巨人じゃなかったら心臓マッサージをするのに。
あ! そうだ。
「メリー、テトの胸、心臓に雷撃を落として」
「えええ!!」
「早く! うまくやれば、もう一度心臓が動き出すわ」
「うまくやればって、あんたね!」
「いいから、緩い奴を落として!」
メリーが戸惑いながらもテトの胸に雷撃を落とす。
テトの体はピクリとも動かない。
「もうちょっと、強い奴」
「っとにもう! 雷撃落とす私の身にもなってよね。エイ!」
テトの体が、ぐんとのけぞる。が、呼吸が戻らない。
「もっと、強いの!」
メリーがヤケクソになってバリバリバリッと強めの一発を落とした。
「カアーッゲフ、ウー、ゴホゴホゴホ」
テトが目を覚ました。状態異常がなくなっって、HPが1になってる。
「はあ、良かったー」
「解毒剤と雷撃が効いたのね。さあ、治癒魔法をかけるわよ」
メリーが治癒魔法で背中の傷を治す。
テトの顔色はまだまだ悪いけど、ポーションは飲めるようになった。
良かった~。これで一安心だわ。
テトは疲れたのだろう。ポーションでHPが回復したものの、フルにはなっていない。
眠れば回復するだろう。呼吸も先ほどとは打って変わって楽そうだ。
「さ、見張りを替って頂戴。誰かさんに散々こき使われたから、疲れたわ。夜が明けるまで寝るわ」
メリーは言うだけ言うと、さっさと寝床がわりにしている背負子の中に入って眠ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます