第5話 ゴブリンの襲撃

 樹海に道はない。テトが歩いた場所が道になる。最初はテトの後ろからついて行くつもりだったのだが、テトの足の速さについていけず、結局、背負子に入ってテトに背負って貰った。

 テトは、ホーイホーイと掛け声を上げながら、樹林をかき分けて歩いていく。テトのエメラルド色した緑の体が樹海に溶け込んで行く。

 五日ほど樹海を移動したら樹々がまばらになってきた。

 山の麓に近づいた時、それは現れた。




「キェー!」


 ゴブリンの群れだった。

 メリーがテトの背中を駆け上がっていく。


「樹海の中だからと思って油断してたわね。今更索敵しても遅いけど。テト、二十匹ほどいるわよ」

「大丈夫だ。大したことねえだ。アズサ、ここに隠れててくれ」


 背負子ごと大木の枝の上に置かれた。

 背負子から出て、枝の合間から戦闘を見る。

 あいつらテトの目を狙っている。

 テトの目に向けて何本も矢が飛んで行く。

 メリーが得意の雷魔法を放った。矢が粉々に。テトに群がっていたゴブリン達が怯む。

 テトが斧でぶった斬った。

 あっという間に五人ほど倒れた。

 残った連中これで降参かな?

 あれ? 仲間が倒れても構わず襲ってくる。

 実力差もわからないの?

 こいつら、アホちゃうか!

 もう、ファイヤーボール、お見舞いしちゃる。


「ファイヤーボール!」


 枝の間から放った。ゴブリン一匹を火だるまに出来た。

 だけど、ゴブリン達があたしに矢を放ち始めた。

 きゃあ、当たる!


 うん?

 当たらない?

 矢が砕けた?

 きっとメリーね。

 えーい、これでも食らえ!

 ファイヤーボール、連発!

 しまった、登ってる樹が燃え出した!


「ウ、ウォーターボール!」


 ウォーターボールが、火に当たった。けど、火の勢いが強い。


「ウォーターボール! ウォーターボール!」


 ふー、火は消したけど、せっかく火責め中のゴブリンの火まで消しちゃった。

 あ、でも、テトが倒してくれた。

 良かったぁ。

 ゴブリン討伐終了!


「アズサ、手伝ってくれてありがとな!」

「ううん、あんまり役に立たなかったけど」

「危うく森林火災起こすところだったけどね。森で火魔法使ったらダメでしょ。どんだけ、被害が広がると思ってるのよ」


 と言うわけで、メリーから叱られた。


「ゴブリンの奴ら、近くに集落作ってねえだか?」

「探してみるわ」


 メリーが目を閉じた。


「うーん、あたりにはこれ以上、ゴブリンはいないわね」


 メリーがふうっと息を吐きながら言った。


「それにしても、こいつらテトの縄張りって、わからなかったのかしら」

「境界が曖昧な場所だからな。仕方ねえべ」


 メリーがゴブリンの死体を調べている。


「何か気になるの?」


 メリーの尻尾が右、左に揺れる。と、たたっとゴブリンが現れた方角へ走った。ゴブリンが投げ出した荷物を調べる。臭いのか、顔を顰めている。


「ねえ、こいつら、もしかしたら、巣別れしたんじゃない?」

「巣別れ?」

「ゴブリンは、増えすぎると仲間を殺したり、追い出したりするの。で追い出されたゴブリン達が、別の土地で新しく集落を作るわけ。それを巣別れって言うの」

「かもしれねえな。そんなら、こんな所に二十匹ぽっちいる理由もわかるだ」

「このあたりはテトのおかげで強い魔物はいないし、餌になる弱い魔物は多いしね。あら、こいつら、スライムを捕まえてる。苗床にするつもりだったのね」


 メリーはカゴの蓋を開けて閉じ込められていたスライムを解放した。


「お前ら、もう大丈夫だぞ。さ、樹海に帰るだ。ゴブリンには気をつけるだよ」


 スライムが嬉しそうに飛び跳ねながら、樹海に帰って行った。


「ゴブリンはね。スライムを使って仲間を増やせるのよ。ほんと、悍(おぞ)ましい生物よね」

「え? スライムでどうやって?」

「生きたスライムに傷をつけてそこに仲間の死骸から取り出した核を入れるの。その傷をポーションで治して、スライムに取り込ませるわけ。やがて、ゴブリンの核がスライムの核に取って代わってゴブリンに成長するってわけ。スライムは不定形生物だからね、核次第で変身出来るのよ」

「へえ~~」


 スライムにそんな特技?っていうか、性質があったなんてね。


「早めに退治出来て良かっただよ。増えると厄介だからな。さてと、バトラー、後始末を頼むだよ」


 テトがゴブリンの死体を持ち上げるや、あっという間に空中に消えた。次々に死体が消えていく。ゴブリンの小汚い荷物も消えて行った。

 バトラーはテトに憑いている霊なのだそうだ。

 アイテムボックス持ちの霊で、元々、どこかの貴族の執事だったそうだ。戦争で主人と共に殺された時、主人の館への執着が凄まじく、館そのものをアイテムボックスに取り込み霊となったのだという。

 自分を殺した相手に取り憑き、復讐する機会を狙っていたが、その男がやはり殺され、殺した相手に取り憑くという事を繰り返している内に、テトに取り憑いたのだという。


「オラに勝負挑んできた騎士と戦って倒したら、バトラーが取り憑いただ」


 テトは空間収納魔法を使えなかったので、バトラーが憑いてくれて助かったと言っていた。

 霊に憑かれて大丈夫なのかと思ったけど、特にHPが減ることはないのだそう。

 バトラーは回収したゴブリンの死体から魔石を取り出し保管するそうだ。死体やゴミがどうなるのだろうと思ったが、質問するのは憚られた。

 なんだか、こちらの考えが及ばない物凄く恐ろしいやり方で始末してそう。

 ステータスを調べてみたら、レベルが上がっていた。

 レベル13。

 どうやら、テトとパーティを組んだ事になっていて、テトが倒した分経験値も加算されたみたい。

 テト、ありがとう。

 そして、ステータスに予想だにしなかった能力が増えていた。

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