第3話 剣と魔法
「魔法はね、イメージなの。まず、水魔法ね。あなたの魔力だったら、大災害は起きないでしょう。火魔法はあなたの魔力でも、風に煽られて大災害になる可能性があるものね。ホホ」
あー、メリーの皮肉って刺さるーー。
「水が出てくるイメージを描きながら、ウォーターって叫ぶのよ」
とにかくイメージ、水のイメージ!
水が沸いている、いや、水道から出てる。
蛇口を捻ると水が出る。
思わず手を捻った。
「ウォーター」
はい、水が出ましたー!
ポタポタッとだけど。
「初めてにしちゃ、まあ、まあよ。今のイメージでもう一度やってみて」
水道の蛇口を捻る、捻る!
「ウォーター」
あれ、出ないな。
あ、しまった!
蛇口を閉める方に回してたわ。
蛇口を開ける方に回してっと。
「ウォーター!」
スーッと水が落ちてきた。
やった!
「あんた、才能がありそうね。もう、わかったから止めて」
「どうやって!」
「はあ、わからないの? そのままだと魔力切れを起こすわよ。ステータスウィンドウを開いて」
「ステータス!」
ほんとだ。魔力が地味に減って行ってる。
「えっと、えっと、蛇口を閉めるイメージで、ストップ!」
あー良かった、水止まったわ。
「はあ、止まったわね」
「はい、止まりましたぁ」
メリーは地面に溜まった水の匂いを嗅いでいる。
「あんたの作った水、飲めそうね。なんだか、臭いけど」
私は鑑定して見た。
(魔法によって作り出された水。飲用可。含むカルキ)
あー、私ってば水道水つくっちゃったんだ。でもこれで、MPがあれば、いつでもどこでも水が飲めるんだわ。将来、旅に出た時に役に立つ。
「さてと、基本から行きましょうか。魔法は何のために使うか?」
「生活を便利にする為?」
「違う! 敵と戦って勝つ為よ。負けたら、食われるのがこの世界よ。わかった? さ、武器としてのウォーターよ。水の玉を高速で相手にぶつけるの。出来るようになったら同じ要領で火魔法を練習するわよ」
水魔法で水玉を高速で出せるようになったので、川原へ降りて火魔法の練習をした。
まずは火を出す練習、それから、火の玉を作って相手にぶつける練習。
魔力がなくなるまで練習した。
「次はオラと剣の練習するだ」
「ちょっと、待って。休憩させて~」
「はは、いいだよ。そうだな。昼食べてからにするべ」
お昼は昨日のロズサイと柑橘系のジュースだった。
「あんた、変わった服装だけど、こっちの服装に慣れておいた方がいいんじゃない? バトラー、女性用冒険者の服を出して」
メリーの勧めで、あたしはバトラーが出した服からサイズの合う物を選んだ。全て手縫いだ。木立の中で、着替えた。着てみたら意外に着心地はいい。ズボンと長袖のシャツ、袖なしのチュニック、革ベルトをしめた。スニーカーを脱いで靴下とブーツを履く。
「なかなかいいじゃない。ちょっとした騎士見習いに見えなくもないわね」
メリーが誉めているのか、けなしているのかわからない感想を言う。
「汚れたり破れたら、バトラーに渡せばいいわ。キレイにしてくれるから」
バトラーって何者って聞きたいけど、聞ける雰囲気じゃない。
着替えの後は剣の練習だ。
「バトラー。練習用の剣」
空中に剣が現れた。
「ほら、持てるだか?」
長剣というのだろうか、大人用の竹刀よりは短い。けど、重い。
鉄? 金属でできているんだから重くて当たり前か。
振った感じが、なんか、竹刀と違う。
「久しぶりなんで、木の棒か何かないですか?」
「バトラー!」
今度は練習用の木の剣が出てきた。
振った感じはちょうどいい。
早速テト相手に練習してみた。とりあえず、突きはテトのスネにあたった。
「お、アズサは素早いんだな! これはいいぞ!」
「ホント!」
「ああ、ホントだ。ただなあ、木の剣じゃあ、魔物を一撃で倒すのは難しいだ。鉄の剣も持てるようにならなきゃな」
「一撃で倒せなくてもいいんじゃない?」
「うーん、一撃で倒せねえと、向こうが反撃してくるべ。怪我をするかもしれね。最悪、死ぬべ。治癒魔法使って治しながら戦うっていうのもありだが、一撃で倒した方がいいべ」
死ぬ! そうね、ゲームじゃないもの。教会に行って、復活なんてこの世界じゃなさそうだし。
鍛錬しよう。先輩を探しに行く前に死んでしまったら元も子もない。
鉄の剣を借りて素振りを繰り返した。
剣の練習が終わったら、汗びっしょりになった。
汗に濡れた下着が体に張り付いて気持ち悪い。
「あの、お風呂に入りたいんですけど、どうしたら?」
「まあ、お風呂ですって! あんた、やっぱり貴族じゃないの?」
「あたしの住んでいた所では、普通の人がみんな、毎日お風呂に入るんです。湿気の多い国でしたから」
「ふーん、バトラー、洞窟にお風呂を用意してあげて」
洞窟に戻るとベッドの奥の岩屋、トイレの隣に浴槽が置いてあった。お湯が張ってある。スーツケースからシャンプーや石鹸を取り出し持って入った。
湯船に浸かったら、一気に体が緩んだ。
なんだか、至れり尽くせりなんですが!
もしかして、あたしを油断させて、食べるつもりとか?
あー、それなら、ここに着いた時に食べられているわよね!
このままでは心苦しいな。何かお返しがしたい。
翌日、朝食の後、テトが畑に収穫に行くというので、手伝わせて貰おうと思った。働いてないのに衣食住を与えられるのは何とも心苦しい。
「あの、畑仕事、手伝わせて下さい。とても良くして貰って……。何だか、その、このまま甘えさせて貰うのは心苦しくて。その、何か手伝わせて下さい。というか、働かせて! このままじゃあ、申し訳ないです」
メリーとテトが顔を見合わせ笑い出した。
「くっくっく、あんたって、本当に律儀ねえ。気にしなくていいのに」
「んだんだ」
「でも、まあ、そういうことなら、バトラー、アズサ用のマジックボックスを出してあげて」
ひゅっと音がして、手の中に肩掛けカバンが出て来た。
「それはね、マジックボックス(小)と言って、中は異空間になってるの。その大きさだとロズサイが二十個は入るわ。時間停止機能がついてて、中に入れさえすれば腐らないし入れた時のままなのよ。便利でしょ」
「ええ、さすが異世界」
「ふふ、ここではそれが普通だけどね。あんたの住んでた所は違うの?」
「時間停止機能はないの。凄く冷たくして腐敗を遅らせる機械が各家庭にあって、冷蔵庫って言うんだけど、みんなそれで食料品を長持ちさせるの」
「へえ、冷たくするって言うのは、それはそれで魅力的かも」
メリーがふわふわの尻尾をピッピッと左右に振った。
「そんじゃ、まあ、ボチボチ行くべ」
「「はーい!」」
昨日の畑に着いた。テトが上の方に成っているロズサイを収穫、私が下の方の実を鎌で刈り取った。
鎌の使い方に最初戸惑ったけど、なんとかなった。マジックボックスが一杯になるまで続けた。
「マジックボックスが一杯になったら、バトラーに渡して。それから、魔法の練習よ」
マジックボックスをバトラーに渡そうと肩から下ろした時、テトの声が聞こえた。
「こーら、お前達! 畑に入っちゃ何ねえど。ロズサイを食うと破裂するだよ」
テトが誰に言っているのだろうと思ったらスライムに話しかけていた。
「スライムにとってはロズサイは、毒だからね。ああやって言い聞かせてるの」
「へえー。スライムってテトの言う事がわかるの?」
「わかるみたいよ。しばらくは入って来ないの。でも、スライムは世代交代が激しくて。新しい世代になると、すぐ入って来るのよ。テトが気がつかないうちにロズサイを食べてしまって、破裂したスライムの死骸が点々と落ちてるの。ほら、これがそうよ」
メリーがスライムの死骸を教えてくれた。
「そうだ、ついでと言ってはなんだけど、スライムの倒し方を教えてあげるわ」
メリーが前足でスライムの死骸を指す。
「ほら、ここに赤い塊があるでしょ。これがね、スライムの核よ。スライムは半透明だから、すぐわかるわ。これを壊せばいいの。ほら、あそこ、生きたスライムがいるでしょ」
メリーの言う方を見ると、樹海と畑の境あたりをポンポンとスライムが跳ねている。
「きゃあ、可愛い!」
思わず走り寄った。
「あ、ダメ!」
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