第40話 いいこともあるもんだな

最上階までのエレベータ。

いつもは長すぎて苦痛にも思える時間だが、むしろ幸せな時間だ。


二人は、マンションをもの珍しく見ている。


本当に知らなかったみたいだな。

金目当てではないようだ

まあ、わかっていたことだが。


人と接してこなかった俺だからこそ、人の観察をよくしていた。

嘘ついているかどうかは良くわかる。


最も、早乙女姉妹については読めないことがお多いので、姉にはよく騙されてはいるが。

まあ、あれは遊びのようなものなので、嫌な気にはならないからいいか。



「あんまり来たことないの?」


「ないよ〜〜!!」

「私もない!」


「そうなのか。あ、そうだ。家には、ちょっとしたお手伝いさんがいるんだけど…あんまり気にしないでね…」


「お手伝いさん!? すごいね〜〜」


「なんで私たちの学校に編入してきたのーー??」

妹のシンプルな質問だ。


「あ、えっとね……」

困っていると、


「ま、いいじゃ〜〜ん! そんなこと!」

と姉がフォローしてくれた。

なんとなく姉は気がついているのかも知れないな。



「それもそうだねーー!!おかげで楽しいし!! 」


ありがたいよ。気を遣ってくれて。


俺は過去を言いたい気持ちもある。

自分の口からしっかりと。


ただ、それはもう少し時間が経って成長してからだ。


部屋の玄関を開けるとリサがいた。


「お帰りなさいませ。 ひかる様 お風呂の準備はできております。それといつも通り、性しょ…」

「あああああああ!! 友だち! 来たから! あといい加減、ひかる様はやめてくれ」


「あ、これは失礼致しました。初めまして」 


リサは優秀だ。

すぐに状況察知をして行動してくれるだろう。


「は、初めまして…」

「は、初めまして……」


どうしたんだろう。

緊張しているのか?


「この子は? 隠し子〜〜?」

「え。そうなのーー?」


「俺は何歳なんだ! だから、さっき言ったメイドだよ?? リサっていうんだ。 年は俺らより一つ下だ。そう見えないかもだけど」


「え〜〜〜〜」

「えーーーー」


「てっきり、大人を想像してた〜〜!!なんでこんな可愛い子なの〜〜」

「ね! かわいい!」


「あ、あ、ありがとうございます……」


リサもそんな感じに接せられることは少ないであろう。

照れているな。


「素直に喜んでいいぞ。 反射的にかわいいっていうタイプではないからな」

「あ、ありがたいです……」


「リサちゃんて呼んでいい?」

「私もそう呼びたい!」


「別に構いませんが……」


「あ、わたしたちは〜」


「早乙女様ですか?」


「え!!知ってるの〜〜??」


「ひかる様がよくお話をしてくださるのでなんとなく」


「あ、いや……その…」

うちのメイドは優秀じゃないかもしれないな。



「ふ〜ん。月城君がね。 エッチな話かな〜〜?」

「ちょ、ひなねー!」


連れてきたのまずい気がするぞ。

俺二人揃うと俺勝てないんだよな……。



「ふふっ!」

妹の方が珍しく笑っていた。


「どうした??」

「前ファミレスでさ、兄っぽいって言ったの当たっていたねーー!! リサちゃん、妹みたいじゃん!!」

「まあね」



「とりえずどうされます? お風呂で温まりますか?」

「そうだな。玄関にいるのもあれだしな。入るか?寒いだろ?」


「いいの〜〜?」

「申し訳ないよーー」


「俺は別にいいけど、俺が使っているから汚いし、あ、でも、リサの掃除は汚れひとつないピカイチだけどね?」



「汚くないって〜〜! でも、月城くんのために貯めたお湯を、わたし達が使っていいのかな〜って」

「そうそう!」


「ああ。いいってそんなもの!!風邪は怖いからね? 夏風邪は特にね」


「説得力が違うね〜。 じゃあお言葉に甘えて使わせてもらおうかな?」

「うん!! ありがとうーーー!!」


「では、わたくしは、暖かい飲み物を準備していきます」

そう言って、リサはキッチンに向かった。



「月城くんも一緒に入る〜〜〜?」

「入りません」


「じゃあ、時短でみずきちゃんと一緒に入るね〜〜!!」

「それもそうだね!!」


「のぞいちゃダメだよ〜〜〜!?」


「のぞかないって…」


「わたしは見られてもいいんだけど……でも、わたしが裸を見せたら、深月ちゃんのも見せたことになるからな〜」

「ちょっと、何言ってるの! 結構違うもん! 私たちが顔を隠して、体だけ見せても区別できるもん!!」


おいおい。

怒るところ、そこじゃねーだろ。


てか、あるんだよ。そういうのあるんだって。

大抵ああいうのは、『絶対に間違えないだろ?』って思うけどさ。


なんで妹はいつも、そういう発言をするのだ。

むっつりなのか?


でも、あれを一卵性でやったら難しいかもな?


いつかやってみたいかも。



「おじゃましま〜す」

「お邪魔しまーす」

2人は噛まなかった。


そこは『お邪魔しまぢゅ』だろ??


とりあえず、玄関から風呂場に移動した。


「わ〜〜!! 結構広い!!」

「二人でも狭くないね!!」


「あ、あと服はどうする?洗って乾かす? 乾燥機あるし」


「いいの〜〜?」


「でも、その間……」


「ああ、そっか。その間、わたしたちは裸でいろと……。仕方がないな〜〜」


「違うは! 服貸すよ! もちろん。ただ、リサの服だと大きさが多分入らないと思うんだ」


「全くどこを見て判断しているんだか〜〜〜」

「プールの時しっかり見られた気がするし」


妹までこういう時にくるな!!1


「身長の話だよ!! だから、俺のになっちゃうけどそれでもいい? 新品ないから、使用頻度少ないやつ探すけど」


「なんでもいいって! 気にしすぎ!」

「なんでもいいよーーー!!」


「じゃあ、勝手に洗濯機回しといてくれ。俺のは後でいいからさ」


「じゃあ、使わせてもらうね〜〜!!」

「ありがとーー!!」



俺は部屋に向かった。

夏なので、半袖シャツと半ズボンをそれぞれ2着ずつ用意した。



そして、脱衣所に向かった。


まずは、脱衣所を死ぬほどノックをして、返事がないことを確認。

そして、水の音も聞こえる。


これなら安心だ。

脱衣所でばったりというお決まり展開を避けることができる。


俺は脱衣所に入った。

なんだこの緊張感は。


それもそうか。

ほんの少し奥には全裸の双子姉妹がいるのだからな。


とりあえず、すりガラスでよかったよ。本当に。

ただ、ガン見をすれば見えそうだ。


とりあえず、下を向いておこう。


床にも下着は散乱していることはなかった。

ちゃんと隠しておいてくれたのか。


正直、宝探しゲームみたいに探したいところではあるが、すりガラスだからな。

バレるか。やめておこう。


洗濯機もうまく回っている。


「服!! 洗濯機の上に置いとくよーーー」

少し大きめの声で声をかけた。


「はーーい」

「は〜〜い」


「ねえ、のぞかないの〜〜??」

「のぞきません!! ごゆっくり!!」


俺が脱衣所を出ようとしたところで、


「あれ、深月ちゃん こんなにおっぱい大きかったけ〜〜」

姉の方が結構大きめな声で叫び出したぞ。


絶対、まだ俺が近くにいるのを見て、俺に聞こえる声で言ったな??

全く、本当に最低な奴だ。 


仕方がない。 

俺は脱衣所を出て、ドアを閉め、耳をくっつけた。

微かに頑張れば聞こえるぞ。


「陽菜ねーと変わらないよーー?」

「おお〜〜柔らか〜〜い」

「ちょっとーー、自分の触ってよーー。くすぐったいし!!」

「え〜〜久々だし、触りたいんだよ〜〜??」


ああ。二人は『きゃっ』とか言ってて楽しそうだ。

俺は死にそうだ。


「てか、久々に見たけど、陽菜ねーってそんなピンク色だったんだねーーーー!!私もピンク!!」


もうやめてくれ。

妹よ

もうやめてくれ。

一体どこの話だ

唇か?

くちびるの話だよな…??


唇は日常生活で見れる場所だが、そういうことにしておこう。


「ちょ、深月ちゃん!!な、何言ってんの〜〜!!」


やはり、無意識妹は姉より強いな!

あの姉がちょっと押されてるぞ?


姉の方は俺が会話を聞いてると思って焦ったな。

まあ、実際に聞いてるんですけどね。


正直、このまま会話を聞いてはいたいが、脳が急に酸欠ぽいので休憩だ。


リサのところに戻ろう。


「ごめんな。急に呼んで。それに仕事増やしちゃって」

「いえいえ。わたくしの仕事ですから」

「俺も何か手伝うよ」

「いえいえ。ただ、失礼なことを申し上げてもよろしいですか?」

「え? やっぱり、あの二人金目当て?」

「いえ。わ、わたくしも少し仲良くしてもよろしいでしょうか?」

「当たり前だろう。 珍しいな。 人見知りなのに」

「褒められて浮かれているのかも知れません。ただ、ひかる様が心を許したように、わたくしも仲良くしてみたい気持ちになったのです。彼女たちは、わたくしたちが住んできた世界とは異なり綺麗な気がします」


「ぜひ、個人として仲良くなってくれ。そして、俺の悪口で盛り上がってくれて構わない。前に、友達を紹介するって言ったろ? 今回はそれも兼ねているんだ」


「本当にありがとうございます」

「今度はクラスの面白いやつも連れてくるよ!!」

「編入されてよかったですね」

「ああ! 本当にそうだよな」


俺はリサを手伝った。


しばらくすると、二人とも出てきた。


二人が俺の服を着ているのは、なんかエロいな。


「ありがと〜!! いいお湯でした」

「ありがとう……」


なんだか妹の方は落ち着かない様子だぞ?

もじもじしているし。


ま、まさか、姉の方に手ほどきをされたか!!??


これは姉の方に聞くしかないな。


「妹の…じゃなくて、深月さんなんかあった? 実は服が嫌いだったとか」

「おお! 名前で呼べたね! 違う違う!! 安心して! わたし達、下着つけてないだけだから!!」

「なんだそうか。それならよかったよ。 ……!?!?」


いやいや。全然安心できないんですけど。

ノーブラ、ノーパンでいるのはダメだろう。


あれ。そういえば昔そんなこと言ってたような……


俺、宝くじ当たったようなものじゃん!!

風邪ひいたり、色々嫌なことがあったが許そう。


まあ、そう簡単に宝くじは当たらないんだよな。

どうせ姉の方のいつものイジリだろう。


これは姉が妹にエロいことしただけだな。


姉の方の胸の方に視線をやると、

「ちょ…結構大胆だね…。やっぱ、そんな見ないで…。結構恥ずかしいよ?…」


本能的に大きい胸を片腕で隠した。


「え??? これ……いじりじゃなくてガチ?」

「うん。思ったよりも下着濡れてて、せっかくお風呂貸してくれたのに、そのまま履くのもなんかなって」

「あ、ごめん……そこまで濡れているとは思わなかった。リサの下着でも渡すよ??」

「さっき言ったでしょ? 大きさ違うって」

「それもそうだけどさ……」


えーーーーー。

下着を隠してたわけではなかったのかーーーー。

洗濯機の中だったとは……。


てか、二人がの俺の家でノーブラ、ノーパンだと!?


正直、このまま恥ずかしがる妹を近くに置いて、何事もなかったかのように接し、いつも強気の姉の方の恥ずかしがる姿をじっくり楽しみたいところではある。


やりたいが…俺にも善の心が……

せっかく、宝くじが当たったのに…


重力が400倍になっている足を引きずりながら、部屋に行ってジャージを2枚とってきた。


妹の方に近づくと、服を少し浮かせた。

そして、内股にして落ち着かない様子だ。


このままモジモジさせたいな。


まあ、可哀想か。


「これ着るか?」

「あ、ありがとう…」


無意識下ネタ製造機の割に、結構恥ずかしがり屋なんだな。

目も合わせず、顔を赤くしている。


ジャージのせいで、上の方は見えなくなってしまったが、下半身はまだモジモジしている。

うん。満足!!


「これ着る?」

一応姉の方にも渡す。


「え〜! 何なら脱ぎたいくらいだよ〜?」


姉のいじりは俺は好きだ。

心から馬鹿にしている感じがしないからである。

たまには、俺だってイジリたい。


「じゃあ、その服脱いで欲しい…実は、すごい大切なもので…」

「え…ごめん…。違うの借りれる?」

「え。いらないんじゃないの? 別に着なくてもいいよね?」


俺の冗談と気がつき、「あ〜〜〜!! 騙したな〜〜!」と笑いながらちょっと怒っていた。


「たまにはね。 とにかく着ておきなさい」

「は〜い。ありがとね!!」



「じゃあ、俺も入ってくるね。汗かいたし」 


「二人の残り湯を楽しんできてね〜〜!!」


「行きにくいだろ……自分の家なのに…」


「ごめん!ごめん! でも、本当にわたし達は何も思っていないから〜〜」

「うん!! 気にしないでいいよーーー」


「じゃあ、何かあったら、リサに言ってくれ!」


俺は、風呂に向かった。

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