第36話 2回目の早乙女家

1学期も後半。


期末テストも近づいてきた。


俺の目標は決まっている。

今度こそ、学年10位を目指す!!


前回の失敗以降、クラス順位や授業内での発言から、生徒のレベルをそれなりに把握していた。


そして、テスト期間になり、姉の方から電話が来るのは、もはや恒例行事になっていた。


「テスト、次はどうするの〜〜?」

「10位くらいに調整をしようかなと」

「うわ〜。何よ何よ。調整とか〜」

「いい感じに収める」

「言い方を言ってるんじゃないのよ!! 調子乗っちゃて〜〜」


大体、あなた達姉妹に、変な噂が立たないように、少し頭良いという加点事由のために頑張っているのに。

一条 光てバレたら、それこそ金目当てあろう。


「別に乗ってないぞ。てか、そっちだって中間3位だったじゃんか。 俺が消えて2位になれるからいいだろ」


そう。姉の方は3位だったのだ。


飲み込みが早いというか、ポテンシャルが高いというか。

ちゃんと勉強すればかなりのものだと思う。


最も、2位の妹との点数には100点近く差があったのだが。


妹のレベルが異常だ。

独学の努力であそこまではすごい。


「これでも、頑張っているんだよ〜? 深月ちゃんより努力は少ないから絶対勝てないけど!」


「そうかもしれないけど、教えることなんてなさそうだけどな」


「え〜〜。中間の時みたいに教えてよ〜〜」

「別にいいけどさ」


「てか、一緒に勉強しない?」

「え。どこで?」


まあ、教えるとなったら電話よりは、直接の方がやりやすいか。


「学校って言ってもあれだよね。目線気になるよね」


それはそうだよな。俺と勉強していたら……

あれ? 

それなりに学校でも話てね?

嫌なのか。


「じゃあ、まあ、早乙女さんの目線が気にならないところで」

「ん? 周りのみんないるところで勉強できるの?」

「あー。俺の方か。 無理無理。 静かなところ希望」

「だよね!!じゃあ、家来る?」

「え?」

「いや、その方がさ教材とかもいっぱいあるし! 今回期末だし科目も範囲広いし! 一度来てるでしょ〜〜?」


そういえば、期末だから範囲広いのか。


あれ。そういえば保健体育の範囲なんだっけ。

ああ。残念だ。誠に残念だ。

普通に【栄養】とかつまらないものだったな。

もう性の分野は終わったのかな?



ふと、思ったが、妹は保健体育も満点なのか??


妹の方はかなりの努力家だ。


「ここは〇〇という!!」とか家で音読してそうだな。


ふざけて想像したが、意外とあり得そうだぞ?


部屋から聞こえてくる、〇〇という単語に姉の方がびっくりしていたりして。


って今はどうでもよかったな。


「うーん。でも、電話でよくないか? それか、ビデオチャット的なのでも……」

「家のWi-Fiあまり強くないんだよね。深月ちゃんも使いたいだろうし。勉強の邪魔になっちゃうし」


「でも、家は家で妹の勉強の邪魔にならないか? 部屋近いし」

「リビングでやれば問題ないんじゃない?」


「お、おう。そ、そうだな」


勝手に部屋でやるって想像してたことがバレた感じがして、すごい恥ずかしいんですけど。


「一つ確認したいんだけど、妹に、こないだの俺の点数言った?」

「え。言ってないよ?」

「俺も言ってないんだけど、妹にどちらかといえば点数低いやつで認識されているから、早乙女さんに教えるの変じゃない?」

「じゃあ、私が教えるってことでくればいいじゃん!!」

「なんだそれ」

「課題とか手伝って欲しいし……」

「確かにだるいよな」

「筆跡真似して書けるよね…」

「それはいいけどさ」

「え!?いいの?」

「別にあの程度なら」


パシリになると誓ったので俺はなんとも思わないが。


「やっぱ、どっかのカフェとかの方が良くないか?」


家に行くのは少し抵抗があるな。


「周りの生徒に見つかったらどうするの?」

「まあ、そっか」


早乙女さんにも変な噂で迷惑がかかるか。


「逆に月城くんの家は?」

「俺の家は…やめといた方がいい」


リサもいるし、タワマンだしな。


「じゃあ、わたしの家決定ね!」


ということで、2回目の早乙女さん家に行くことになった。




「……と言うわけで、遊びに行くんだけど、あ、勉強しに行くんだけど、俺はお菓子とか持って行くやつ? それって小学生まで?」


一応、女のリサに聞いてみた。


「それは楽しそうですね。ただ申し訳ないのですが、わたくしは知りません。お友達の家というものを訪れたことはありませんし」

「だよなーー。コンビニで何か好きな食べ物でも買っていくか」

「把握されてるのですか?」

「妹はなんでも食うだろう。姉の方は、妹の情報が正しければ、プリンが好きらしいぞ?」

「流石です。でも、甘い物ですか」

「そうか。ダイエットとかしていたら、逆に殺されるかな……。『ダイエット中なのに好物持ってくるとか陰キャの極み』とか」

「確かに、女性ならそういう方は多いと聞きますね」


「えー。でも、妹は気をつけてないぞ? 何も持っていかないのは変だし」

「では、わたくしのお仕置きグッツはいかがでしょうか?」

「捕まるからやめてくれ。てか、そんなの持ってたの!?」


「将来のための勉強として所持しております。お土産に関しては、やはりプリンでよろしいのではなないでしょうか? いらなかったら、ひかる様も食べられますし」

「そ、そうか。じゃあ、そうしよう。あとさ、服装はどうするべき?」

「私服でいいのでは?」

「いや、家に男がさ上がり込んでいたら近所の目もねあるじゃん? やっぱ一軒家だしご近所付き合いとかあるでしょうよ」

「では、宅配の格好とかはどうでしょう??」


「俺も考えたけど、家に上がれなさそう。上がってた方が怪しくないか? それにバレてないかと、他人の目線も気になるし」

「では、女装は?」

「流石にきついって…」

「まあ、私服でいいか」

「そうですね」


リサとの会話は基本的に生産性のない会話だった。

まあ、いいか。

一応、私服選びはリサに手伝ってもらった。


今日は学校のない土曜日。午前10時。


家の前まで来た。


2回目だ。

流石に、俺も慣れたものだ。

目を瞑ってもこれそうだ。


インターホンを押すと、「おお〜!!いらっしゃい!!」と玄関を姉の方が開けてくれた。


姉の方はワンピースというシンプルな私服であったが、すごく綺麗だった。


「お邪魔しまぢゅ」

またしても噛んでしまった。


ああ。懐かしい。

早乙女家の落ち着く匂いだ。


ここでの緊張は、やはりいつもと異なる緊張だ。


「これ、たまたま買ったんだけどいらなかったら持ち帰るけど。妹と分けてね」

「ありがと〜〜! あ!プリンだ〜〜! 好物なんだよね!! ストーカーだな〜〜??」

「よく言われる」

妹の方にな。


とりあえず、1階のリビングに案内された。


ノコノコと偏差値2くらいの意識で来てしまったが、もしかして、家に俺の指紋があるから、『家で犯されました!!』とかで、冤罪で犯人に仕立てられたらどうしようと急に心配になってきた。



「妹は?」

「部屋にいると思うよ〜」

「そうなんだ」

あまり会いたくないような、会いたいような不思議な気持ちだ。


「とりあえず、始めよ〜〜!!」

「課題やる感じ?」

「終わったの?」

「うん」

「じゃあ、わたしの課題手伝って!! あと、わからない問題は聞くよ??」

「おう」


教科書とか準備したら、妹が、タイミング悪く降りて来た。


水を飲みに来たようだった。


ラフなTシャツとジャージの短パンを着ていた。

短パンのおかげで、長くて白い足がより際立っている。



「え!? 月城くん!? なんで!?」

「え。い、いや、早乙女さんに誘われて……」


「陽菜ねー言ってよ!!」

「言ったじゃん! 友達来るって〜〜!」


「男子だって思わないでしょ!! まして、月城くんなんて……」


そりゃ、家に来られたら嫌だよな。

こないだは、姉を運ぶという名目だったから仕方がないけど。


「嘘はついてないじゃん〜〜!!」


「言ってくれたら、こんな姿じゃないのに……」


「月城くんは、深月ちゃんの格好をどう思っているの〜〜?」


姉のドギツイ質問がとんできた。


「べ、別に、早乙女さんは元がいいから何着ても似合っていると思うよ」

「ありがとう!!」


「元がいいだって〜〜!!やったね〜〜!」


姉の方も喜んでいるぞ。


「てか、二人で何やっているの?」

「テスト勉強だよ〜! 月城くんと課題一緒にやっているの! それで、たまに教えたりするの〜〜」


おいおいあまり言い過ぎるとボロが出るからやめてくれ……


「私の方が順位上なのに……」

「い、忙しいだろ!? それに早乙女さんは同じクラスだし……」


「ねえ…私もここで勉強していい?」

「いいよね〜〜?」


「もちろん、俺はなんでも大丈夫です」



妹が2階に行った。

少し慌ただしくドタバタ聞こえるぞ。


途中で『ドン!』とかすごい音したぞ?

教科書かなんか落としたのかな。

まあ、ポンコツ感が面白いな。


リビングに来ると、シャツも短パンもおしゃれなものに変化していた。


「別に着替えなくていいのに……」

「この方が、勉強はかどるんだもん!!」


嘘つけ。だったらさっきから、その格好でいいだろう。


まあ、普通に部屋着を見られるのは嫌か。


そして、学年1位〜3位の合同勉強会が始まった。

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