第35.5話 俺は全力でサポートする

午後の時間は、運悪く、姉の方と話す機会が取れなかった。


授業中は暇なので、俺はずっと考えていた。


もちろん、妹のパンツのことでも、姉の胸の感触のことでもない。

それは夜に考えることだ。


俺が考えていたのは、姉の方のことだ。


俺を助けてくれた。


これは俺の勘違いかもしれない。


ただ、病気のことを伝えてから、ふざけながらも、本気で治そうと協力してくれている気がする。


ボーリングの時も、俺は姉の方のおかげで、人前で楽しく遊べた。

それに、おかしくなった時も、何も言わずに理解してくれた。


今回だって、唯一気がついたのは、姉だけで、わざわざ助けてくれたのだから。


最も、妹の方に病気のことを教えていたら、妹の方も助けてくれてた気はするが。


俺は決めた。


周りに馬鹿にされても、昔みたいに惨めになっても、少しでも役に立つなら、俺は俺の全力を出す。


全力で姉の方の病気をサポートをする。


俺からキモい提案することにした。


夜にお礼のもう一度ラインをした後、珍しく俺から話題を振ることにした。



「今日はありがとう」

「大丈夫だよ〜〜!!わたししかわからないからね」

「でも、よくわかったね」

「なんか真ん中あたりで来ないなーって思ってて、ふざけた?あり得ないな。これ、危ないじゃん!!って思いっきり飛び込んだから!!」


妹と思考は同じか。


「あのさ、学校とかで寝れれば、少しは体は楽になる?」

「それはそうだね。でも、最近さノート提出の授業多くない? それで休めないんだよね」

「そこでなんだけど、俺に、ノート取らせてくれない?」

「え? ありがたいけどさ……筆跡とかあるよ?」

「嫌だったら正直に言って欲しい。自分でもキモいこと言っているのはわかるんだけど、その分休めるかなって……。筆跡は多分心配ないよ」

「私は嬉しいけど、そっちの負担が大きいじゃん」

「別に、そこまでだから大丈夫。もし良ければ、明日試してみない? それで、うまくいったらやるのはどう?」

「珍しいね。自ら言ってくるなんて」

「無理強いはしない!」


強引なのはわかっている。

キモいのもわかっている。


ただ、俺も少しは役に立ちたいんだ。


ちょうど、次の日の朝の2限にノート提出しなければならない授業だった。


授業中に、『何してる!!』と当てられるのは困るが、主人公席だし、中間の成績も問題ない。 


少しくらい内職しても許されるだろう。

たまに、こそっと、ガチャ回したりとか色々しているし。


それよりはマシだろう。


「無理しないでね??」

「大丈夫。とりあえずノート貸して?」

「は〜い」


昔の俺なら、『早乙女さんのノートだ!!』とか考えていたのかな。

そういえば、ペンを借りた時にそんなこと言っていたような。


懐かしいな。ペンも借りられなかったのか。

随分成長したな。


そんなことを思いながら、俺は、姉の方の筆跡を確認する。


面白いことに、妹の方と似ている。

最近は筆談はしてないが、懐かしいな。


俺は姉の方の筆跡を頭にいれる。


「じゃあ、続きに書くね」

「嫌になったら辞めていいからね??」

「まあ、今日はお試しだからね」


眠そうだった姉の方は、机の上に突っ伏した。

これで少しでも、楽になってくれればいい。


ということで俺は全力で板書する。


実は、俺は両利きなのである。


右手で自分のノートを書きながら、左手で姉の方の字を真似て書く。


初めは少しやりにくかったが、すぐに慣れた。


これならば疲れないな。

ただ、初めてなので結構集中力を使うが。


無事に授業は終わった。 

問題なく時間内に写すことができた。


一応、周りにバレないように、こそっと、姉の方にノートを返した。


「はい」

「……あ、ありがとう……」


あれ、あまり嬉しくなさそうだぞ?

てか、めちゃくちゃ困った顔しているぞ??

嫌だったの!?


あああああああ。

それもそうだよな。


こんな陰キャにノート触られるのが嫌に決まってるだろ!!


気を遣ってって言えなかったのか……


ちょっと距離近いとか勘違いしてた。


何ちょっとカッコつけて、『書いてあげる!!』だよ。

勘違い男じゃん。終わった。


こんなことで終わるのかよ。


『成長したな』とかカッコつけてたあの頃が恥ずかしいぞ。


あれ……でも、結構それ以上のことしてね??


今までの日々って何だったのーーーー???


あーーーー。女子ってわからねー。



姉の方は、パラパラと今日のノートの部分を見て、「え…嘘…。ありえないんだけど…」とボソッと呟いた。。


えーー。

書いちゃいけなかったの??

それならノート渡さないでよ……。

『ノートは貸すけど、暗黙の了解で書かないでね?』的な?



「すいませんでした……」

「……ん? いや、筆跡も…完璧じゃん…」

姉の方はじっくりとノートを見ている。


あ。

ストーカーとか思われた??

今までの生活って、長いハニートラップだったの??


一条家から金をぼったくろうとしてたとか??

まあ、あげるよ??

レンタル彼女よりいい思いしたし。


「まあ、バレない程度にはなったかなと……」


「いや…ごめん…」ぼそっと呟いた。


やっぱり、キモすぎたな。

嫌だったならいってくれよ。


「俺こそごめんなさい。調子乗って。もうしないので……」


「ん? いや、わたしがごめん。 信じてなかった……」

「え? いや、流石に嘘はつかないよ?」


「わたしも、そう思ってたよ!? でもさ、いきなり左手で書くし、自分のノートは書いているし。筆跡バレないようにって、左手で汚く書くことなのかなって……。でも一生懸命にやっているからなんとも言えなくて…」


「起きてたのか……。そんなことするなら、自分からやりたいって言わないは!!」

「普通の人はそんなことできないから!! まして筆跡まで完璧にするなんて……」

「実は両利きだったんだ」

「それでも筆跡は真似られないよ! 何者なのよほんと。早く病気治るといいね」

「お互いにね。で、俺はクビでしょうか……?」

「全然だよ〜!! これならわたしが後で書き写すのより綺麗だし! ただ、大変じゃないの?」

「やってみたら、頭の体操みたいで面白いよ? やってみる?」

「できないよ!!」

「じゃあ、今度からやるよ?」

「お願いします」

「無理せず、休んでください」

「ありがとう」


それから、俺は姉の方のノートを取ってあげることにした。

パシリだと思っていても良い。


俺は、命を助けてもらった。

それに、俺は俺の病気の理解者には全力だ。


もし今後学校で、姉に何かあっても全力で守るだろう。



たとえ、落ちこぼれの力でもな。全力で。

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