第35話 プールの授業

遠足も終わり数日が経った。


ここ数日は、随分暑くなってきた。

暑いのは好きではない。


ただ、いいこともあった。

夏服になったのだ。

暑いブレザーを脱ぎ、半袖シャツになる!!


そう。

不可抗力で、あくまで不可抗力ではあるが、脇をガン見してしまうこともあるかもしれない。


隣にいる姉の方の脇ちらが気になって最近授業に集中できない。


図書室でも、妹の方が勉強の合間、伸びをする時に、脇が見えないかと見てしまうのは、男として不可抗力であろう。


同じ体だから、片方だけ見れば満足だと思うだろ?

甘いな。

一卵性は奥が深いんだ。


そして、今日は須子が楽しみにしていた日。

そう。プールの時間!!


須子が死ぬほど楽しみにしていたから、男女混合で騎馬戦とかやるのかと思っていたが、残念なことに授業は男女別だった。


しかし、授業時間は同じ!

しかもプールは1つしかない!!!!! 


室内の50メートルプールなのだ。

一応、私立だからか設備はしっかりしているみたいだ。


とにかく水着は拝めるのである。


1、2時間目の授業をそそくさと終えて、3、4時間目のプールの時間に向かった。


俺達男子は、ウキウキ気分で着替えた。


若頭風の高安に刺青がないことを確認していると、須子に『お前…とうとう……そんなに欲求不満か?』と勘違いされたがほっておこう。


プールの方に言ってみると、奥の方に女子たちが集まっているぞ!!


前の高校では、男女別だったし新鮮だ。


期待はしていたが、学校指定の普通のスク水。あまりエロくはない。


もしこの世界がラブコメの世界で、作者がスク水だけで終わらせる気なら、俺は作者を抹殺していることだ。


正直、モブの人の水着姿を見てもあまり興奮しなかった。


俺は、自然と二人を待っていた。



『おいおい!! やっぱり早乙女姉妹はいい体だな!』 

『こんなのタダで見ていいのか!?』

『今日はこれに決まりだな!!』


と男子どもの会話が聞こえる。


早乙女姉妹が女子更衣室から出てきたのである。



今日に限っては、陽キャ男子に同意してやろう。


学校指定の普通のつまらない水着でも、早乙女姉妹が着ると、引き締まった体に、出るとこはしっかり出ていて、エロく見えてしまうのだ。


早く中身が見たくて仕方ない気持ちになる。


俺はモブどもの男子を水に沈めそうな気持ちを必死に抑える。


最近どうしたんだろうな。俺。

なんか変な気持ちになるな。



まあ、とりあえず授業に集中するか。


始めは、みんなで流れ作業みたいに泳ぐだけだった。


それなのに地獄が始まった。


計測のお時間だった。


しかも、俺はなぜか、陽キャで運動神経のいい奴らのところと一緒にされた。


別に、泳げないわけではないが、注目を浴びるのは本当に苦手なのである。


もちろん、早乙女姉妹の横に立てる人物になるために、病気を克服するしかない。

最近は少しづつ克服してきているではないか。


ただ、女子達もプールサイドで男子の計測を見ている。

女子の体育教師が『男子の競争でも見てみよう!!』とバカな発言しなければ見られなかったのに。



段々と俺の番が近づいてくるぞ。


最悪なことに前のそこまで人気ではない奴が、ウケ狙いで溺れるふりをしやがった。


こういうのはやめて欲しいものだ。

俺が溺れた時にウケ狙いだと思われるのが嫌なんだ。

まあ、溺れたことはないから大丈夫であろう。



スタート位置に着くと、女子や男子の視線を感じる。


ただ、ありがたいことに、陽キャの男子に注目している女子がほとんどだった。

陰キャでよかった。


目線があったのは、いつもの1軍女子と早乙女姉妹くらいかな?

気のせいかもしれないが。


心の奥底に、かっこいいところを見せたいう気持ちが生まれた。

俺は全力で頑張る。


『スタート!!』という合図とともに俺は飛び込んだ。


始めは何とか堪えられた。


が、飛び込んだ時に、普通ではしないような飛び込み方をしたためふくらはぎの筋肉が攣りかけているぞ。


やばい。


それを庇っているため、他の体全体の筋肉が硬直してきたぞ。


それに、緊張で心臓の鼓動が早く呼吸がうまくいかない。


『息をしなきゃ』という指令が緊張のせいで、遅れてきてやってきたのか、水面あたりで息を吸ってしまった。


思いっきりに鼻に水が入る。


痛い。


変なところに力が入る。

とうとう足が攣ってしまった。


あれ。体が浮かないぞ?


俺、溺れたことないんだけど。どう対処すんのこれ。


やべ、誰か助けてくれ……


水中で声ははっきり聞こえないけど、みんなはなんか盛り上がっているぞ。

ああ。陽キャに夢中なのか。俺だけ取り残されているしな。


陰キャではダメだったな。


意識が……薄くな……ってきた

ああ……今日で死ぬな……


だんだんと脳の奥の方が変になってきた。

不思議と、怒った時と似たような感覚に……



いきなり、急に背中の方から、スッと持ち上げられた。


だんだんと地上が近づいてくる


空気だ!!


「ゲホッゲホっ!」


俺は思いっきり息を吸った。


俺なんかしたのか?


聞こえてきた声は「大丈夫??」という姉の方の真剣な声だった。


どうやら、姉の方が、プールサイドから飛び込んできて、俺を助けてくれたのである。


「ゲホッゲホっ! 危なかった……。マジで……ありがとう……」


まじで、危ないところだった。

後一歩で、死んでいたかもしれない。


すぐに先生も飛び込んできた。

「本当にすまない。月城は運動神経いいと思っていたから……それにさっきまでは普通に泳いでいたからな……。計測に夢中で……教師失格だ……」


「いえいえ。自分こそすみません。ちょっと飛び込んだ時に筋肉やってしまって、動きにくくて…その上鼻に水が入って」


「本当にすまない。無事でよかった。それにしても、早乙女!!!!!よく気がついたな!」

「いえいえ。たまたま見えたので」


「おいおい。早乙女さん……。月城のタマタマ見えたらしいぞ??」

とプールサイドで高安に言っている須子に突っ込む元気は俺になかった。


微妙な空気にになりながらも、なんとか授業は終わった。


ああ。

醜態を晒した。


これ、初めてか?

この学校で思いっきりやらかしたのは。


情けないな。

早乙女姉妹の前でカッコをつけたいと思ったらこれかよ。

いつになったら、病気は治るんだよ。


どんよりと、着替えていると、須子が「まずは、大丈夫か?」と心配してくれた。


「なんとかな」


「そうか、よかった。それでは聞くが、おっぱいはどんな感触だった?」


着替えている男子知らないふりをしながらも、俺らの会話に注目しているのがわかる。

男子のエロに関しての団結力は桁違いだ。


「え?」

「おいおい。とぼけるなよ? 僕は見たぞ。お前を掲げる時、あのおっぱいが密着していただろ??」


「さすがに気がつく余裕はなかった。酸欠だったし」


そうは言ったものの、しっかり覚えている。

人前でなければ、俺の俺が大変なことになっていただろう。


「あ〜そうか! くそう!! そうだよな〜。 酸欠じゃなきゃ、昼休み、柔らかさ再現で何か作ってもらおうとしたのに」

「するか」


「どーせ、お前らもほしいんだろう!?」

会話を盗み聞きしていた男子達をいじりだす。


陽キャ集団は笑って交わす余裕があった。


ただ意外にも、『気をつけろよーー』、『運悪かったな』とこの学校では馬鹿にする人はいなかった。


すぐに昼休みになり、直接お礼を言う時間はなかったが、ラインで『本当にありがとう』とだけ打っておいた。


『いいてことよ』と久々の謎スタンプをまた送ってきたが。



俺は命を助けられたのか。


森さんや、数井さんも、グループラインでも心配してくれた。

今まで心配してくれる人がいなかったから、今までの学校生活は無駄ではなかったのかな。



正直、今日は図書室には行きたくなかった。


溺れるという醜態を晒した。


『大丈夫??』とか言われてもちょっと、男のプライドが。

俺にだってプライドはあるんだよ!


それに泳げないなら、我慢するげどさ、目線が怖くてとかなんかな……

逆に、気を使われて、何も言われないのもな……

んーーーー。


行かないと行かないで女々しいし。

とりあえず、行くか。


しばらくすると妹の方がやってきた。


「大丈夫だった?」

「うん。なんとか」

「なんか、始めはさ、前に泳いだ人みたいにふざけるのかと思った」

「そんなことしないよ??」

「私も、月城くんはそんなタイプじゃないと思ったよ? でも、運動神経いいからさ不思議だなーって。で、考えてやばくない?って思ったら、陽菜ねーが飛び込んでた」


ちょっと、よかったな。

妹の方には病気のことを教えてない。

ただ、その状況でも心配してくれたのは。


「本当に感謝だよ。飛び込んだ時に筋肉が変になっちゃって……」


バカにされるのかな。


「水着ばっか見てるからだよーー??」


予想外の返答だった。


「え? 見てないよ?」

「えーー。視線感じたよ?」


おそらく、気を遣ってくれているのか。

いや実際に見てたからなんとも言えないけどさ。


でも、これは慰めの方だろな。

ありがたい。

変にプライド出すよりはノってあげよう。


「すいません。少し、見てました」

「変態じゃーん!」

「姉の方のみ見てました……」

「え。ひどい」

「嘘です。両方見ました」

「やっぱ、変態じゃん!」

「安心して。俺は、スクール水着は興奮しない」

「何なら興奮するの?」

「それは、色々あるだろ」

「ビキニとか?」

「まあ、そうじゃね?」

「ふーん。男の子だね」

「女の子ではないな」

「何色が好きなの??」

「色?特になくね?」

「じゃあ、金色とかでもいいの?」

「それは違うだろ。強いて言えば、白かな? 見たことないからわからないよ」

「ふーん」

「え。反応薄くね?」

「変態は白が好きなんだなって思っただけーーー」

「やめてくれ……」


バカみたいな会話だが、妹の方のおかげでスッと嫌な何かは消えた。


俺らはいつもの時間に戻った。


実は今日は、俺は勉強道具を持ってきていた。

気まずくなったら、『勉強しているから』と言い訳するためだ。

あと、課題も溜まっていたからやりたいのもあった。一ミリくらい。



しばらく勉強をしていると、持ってきたペンを落としてしまった。


妹の方の足元の方まで飛んでいってしまった。


あらら。

勉強に夢中で気がついてないなこれ。


仕方ない。

机の下に潜るか。


触らなければ、別にな。


俺はなんとかペンを確保した。



その時!!!!!

妹の方は、俺が潜っていることに気がつかないまま、いつものくせで足を組み直した。


組み直すときに思いっきり足を開いた。


いやいや。

思いっきりパンツ見えているんですけど。


しかも座っているからか、形まで結構はっきりと。

何のとは言わないけどさ。


どういう慰め方ですか??


無意識にこんなことまでしてくれるのかよ。


白色だったな。


「え?? どこにいるの!?」


どうやら気がついたようだ。


本当に、無意識になんでもしてくれるタイプだな。


ただ、今回は俺は悪くないぞ??


昔よりは仲が良いとはいえ、パンツを見れるのは嫌であろう。


「下です……」

「ちょ、なんで下にいるの!!」

「ペン落としたから……勉強に集中してたし…邪魔するのもあれだから……」

「……見たでしょ?」

「何を?」

「だから、見たでしょ?」

「だから何を??」

「……パンツ」


「下で取ってたし、よく見えないよ。ただ…ピンクぽいのはチラッと見えたけど、気のせいかな??」


これで安心するだろう。

ただ単に『見てない!!』と否定しても、白々しい。


『ピンク』と言うことで、俺が一瞬見たのは、何か別の物だと思うだろう。


「なんだーー! 見えてなかったんだ! 今日は白だから違うよーー!! あ……」


ポンコツなのか!?

頭いいんだろ???


遠足の時から少し思っていたが、ポンコツなんじゃね?

てか、そもそも、体育祭の時の、下着事件の時から怪しいと思っていたけどね??


「とにかく見えてないから!!」

「……うん」


恥ずかしそうに、顔を真っ赤にしている。


妹に慰められたので元気も出ました。


色々なところが。

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