第34話 カミングアウトは突然に
月城にとっては初めての遊園地。
陽菜にとっても、男子と初めての遊園地。
月城はただ、満足していた。
ずっと憧れていた、アトラクションの数々が目の前にあるからだ。
人生初のジェットコースターを乗ってみたかった。
そして、隣には、本能が求めている2人のうちの1人がいる。
これほど嬉しいことはなかった。
「じゃあ、あのジェットコースター乗る?」
「え……」
「あ、もしかして、苦手?」
「……うん。深月ちゃんは好きだけど、わたしは……」
「そうなんだ!!なんか意外だな!」
「え〜なんで〜??」
「イメージ的に逆だろ?」
「どんなイメージよ!!」
「まあ、じゃあ、やめよう!!」
今の月城は本能に従う状態。
やりたいことはやる状態。
最も、陽菜の嫌がることは、決してしなかった。
「やだ!乗りたい!!」
「なんで? 無理に乗るのは進めないぞ? まあ、俺も、乗ったことないから知らないんだけどね?」
「二人とも初めてを卒業するのはいいかなって〜」
「お互い初めてのほうがいいもんな?」
「なんか反応が違〜う!!」
「こんなもんだろ!!」
陽菜も、この状況に慣れては来ていた。
いじり甲斐がないのは、S気質の陽菜にとっては、少しだけ物足りなかったが。
「でも、怖いのはある……。一緒に乗ってくれる?」
「この状況で別だったら面白いぞ?」
二人は一緒にジェットコースターに乗ることにした。
実際に、席についてみると、陽菜は、少し珍しく怖がっていた。
それを察した月城はそっと、黙って陽菜の近くに手を置いた。
陽菜も何も言わず、月城の手をゆっくりと握った。
月城は、風を全力で浴びて、気持ちよさそうにしていた。
その横顔を見た陽菜はジェットコースターよりもその顔に夢中で怖さを忘れていた。
「これがジェットコースターか!! 俺は楽しかったけど、楽しかった?」
「うん!! 怖くなかったよ〜〜」
「ならよかった」
そして、一旦、陽菜がトイレに行き、トイレからから出ると、月城が別の女子高生2人にナンパされていた。
もちろん月城の容姿が大きく変わったわけではない。
ただ、オーラが違かった。
まるで、輝いていた一条 実のように。
「行くよ〜〜!!」
「おう」
陽菜は、月城の腕を彼女のように組んで引っ張っていった。
「何だー彼女持ちかーー」
「なんかかっこいいよねあの人」
そんな声を聞いた陽菜は少し顔が赤くなっていた。
少し、離れたところで、陽菜が腕を離した。
「……ごめんね?」
「何が?」
「腕…」
「全然?ご褒美ですけど??」
「なにそれ〜」
その後、二人は何個かアトラクションを楽しんだ。
そして、最後に乗ったのは、観覧車であった。
月城の脳のストッパーが外れてからかなりの時間が経った。
そして、観覧車の中は、密室ということもあり、いつもの早乙女姉妹の落ち着く匂いが充満していた。
月城の脳は、再び以前の状態に戻りかけていた。
陽菜も、表情や態度で、月城がなんとなく戻りつつあることを理解していた。
*
高い景色、夕日が眩しい。
あれ。なんで俺こんなところにいるんだ?
目の前にいるの、姉の方だよな……
ああ。なんとなく思い出してきたぞ?
鬼頭に怒って、すげー楽しくボコしたような。
快適だったな。
それで、なんか走ってたな。
快適だったな。
それで、姉の方に声かけて、超絶に楽しく遊んだ気がする……
この感じ、小学生の頃一回あったくらいだぞ?
なんか闇にのまれていく感じだ。
あれから高校生になって、嫌な方に成長したというか……
「あ、あのさ……」
「あ〜〜! 戻ってきたね!」
「うん……。わ、わかるの?」
「だって雰囲気が違うもん!!」
「そんなにか……。よくわからないな」
「えーーーー! 私になんて言ったか覚えてる?」
「正直、あまり覚えてない。 ただ、なんだろ。すごく快適だったのは覚えてる。論理的に考えればそんなことはしないのに、止められない感じだった」
「でも、どうして急に? 一人で寂しかったの〜?」
「ちょっと、怒ることがあって怒りすぎたというか。そしたら、ちょっと違くなったというか……。自分でもこの原理を良くわかっていないんだ……」
早乙女さんが男子ならよかったのに。
動画を探していたら、気がついたら2時間経っていて、なんかすげー気持ちよくて、突然『この子可愛くなくね?』って感じになる感じだ。
ちょっと違うな。
全然違うか?
うーん。うまく説明できない。
「それより、俺……無駄に連れ回した感じだよね……? 疲れてたりしない? あと、なんとなく強引というか……」
「大丈夫!! 不思議な状態でもちゃんと優しかったよ〜〜?」
「あ、あのさ…すごくひどいことをしたのはわかっている。多分、心のどこかで、早乙女さんなら、許してくれると本能的に思ってたんだと思う。すごく言いにくいんだけど……」
「な〜に?」
「図々しいのは承知なんだけども……嫌わないでいてくれると嬉しいです……」
「びっくりした〜!!告白でもしてくるのかと思った!」
「いや、そんな無謀なことはしないよ……」
「無謀じゃないよ〜〜?? わたしは、こんなことで嫌いになったりしないから大丈夫!! それに、すっごくかっこよかったんだよ〜?」
「あんまりやめてくれ…。なんとなく、うっすらだが思い出して、死にそうだから。今日のことは忘れて欲しい…あとみんなに言わないでほしい」
「言えるわけないじゃん……。わたしの貞操奪っておいて……」
「流石にそこまではした記憶がないんだけど……」
「え?本当に覚えてないの??」」
「え……」
俺は土下座をしようとした。
一応、あの状態でもうっすらと記憶はある。
そこまではしてないはずだ。
ただ、欲に負けて、したのかもしれない。
「うっそ〜〜!! あ〜、やっぱりいじるの楽しい!! こうじゃないとね??」
「流石に死ぬから、やめてください……」
「とりあえず、観覧車の景色楽しも??」
「うん」
妹の方とは異なり、静かな空間ではない。
景色を見ながら『見て!! あそこ綺麗!』とか楽しむタイプなのである。
別に、それが嫌なわけではない。
好きな時間だ。
姉の方も体が疲れているようだったので、観覧車を降りたら、帰ることにした。
別に文句も言わずに、何事もなかったように接してくれた。
本当にありがたい。
家に帰ると、
「おかえりなさいませ」と、リサがいつも通り出迎えてくれた。
「だからいいって!」
「いえいえ。わたくしの仕事ですから」
「無理すんなよ」
「では、ご飯を食べながら性処理をいたしますか。それともお風呂で致しますか?」
「それは仕事ではないでしょう」
「……」
「ただ、今日は一つだけお願いしたいことがあるんだけどさ……」
「何なりと」
「この携帯で連絡している奴を突き詰めて欲しい。本当に裏社会なのかを。あと、携帯の動画も、保存して、保存し終わったら携帯のは消しておいて。俺がやってもいいんだけど、多分早いかなって……」
「お任せください。わたくしなら、実家の従者と連絡すれば、すぐに調べられますからね」
「あ、いつでもいいからね?」
「いえいえ。すぐにでも」
「じゃあ、ちょっと、ベランダで夜景見てくる。ごめんね。仕事させて、自分だけ休んで」
「全く。くつろいでください」
10分くらいしたら、リサがベランダにきた。
「裏社会と言っても、俗にいう、半グレでした。特に問題ないかと」
「やっぱ、そうか。ありがとうね。流石にマジもんだったら、実家の力を使って、動かないとなと思ったけど、心配なさそうだな」
「最大勢力の暴力団は、小物は相手しませんからね。でも、珍しいですね。ひかる様の足元にも及ばない人物にあそこまで、力を出されるなんて」
「狙ってああなったわけではないよ? 怒ると止められないんだよな。それに今日、遠足を通して思ったのは、それくらい、2人が俺にとって大切な存在になっていたんだ」
「そうですか」
「リサにもそのうちできると思う。来年うちの学校編入すればいいと思うよ。俺のマンションにいなくてもいいんだぞ?」
「馴染めるか……」
「こんな俺でも、友達と呼べる存在が出てきた。龍上高校と違って、みんな優しかった。まだ、できるかわからないけど、いつかは友達を家に呼んで紹介するよ。多分可愛がられるぞ? あ、でも、須子ってやつには気をつけろよ?」
「本当にお変わりになられましたね」
「明日からは、急にみんなから無視されたりしして……馬込くんのせいで……」
「その時は、性処理のお時間です」
「その時は、まあ、頼むかな?」
リサは突然、『ひかる様のことを無視しろ、無視しろ』と念じ始めた。
「おいおい。聞こえてるぞ?」
「し、失礼いたしました」
「あとは、友達を失わないために、病気を治すことだな」
「早く治ることを心から祈っております」
「そういえば、今日、弟に会ったよ」
「え!? 話されたのですか!?」
「あ、正確にいうと、『見た』だった!」
「そうですか」
「今の学校でも、何度も『一条』、『一条』とうるさかったな。まさか、あいつも、鬼頭と戦ったことがあったとはな。それに、俺が消えて、今は模試が1位だからな。有名か」
「それに、財閥としても一条家は有名ですからね。やはりお母様の旧姓の『月城』で入学をされたのは正解でしたね」
「校長が知り合いで良かったよ。でも、校長の長話のせいで、編入の時、俺だけ自己紹介させられたんだぞ……」
「それは…大変でしたね」
「あいつは、俺が足元にも及ばない紛れもない天才だ。本当にすごい。心からそう思うよ。テストだけはギリギリ勝てたけどな。まあ、落ちこぼれの兄は、こっちで楽しく生きるよ」
「落ちこぼれなんかでは……。いえ、それを否定することも……」
「ごめん。ごめん 変に気使わなくていいよ! 全部知っているからな」
「わたくしは、なんとも言えないが正解ですかね」
「やっぱり、二卵性だから似なかったのかな? 近い時間に生まれただけの兄弟だしな。でも、一卵性でも結構違うんだなって最近思ったは」
「わたくしからすれば、結構似てましたよ。言動とか」
「そうか? あいつは、背も高くてイケメンで、コミュ力高くて、色々な人に囲まれて輝いていたぞ? まあ、どうでもいいか。とりあえず、ゲームでもすっか?」
「では、参加させていただきますね」
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