第33話 快適だ
「もう、壊れてしまいました… 面白くありませんね。俺は反応を見るのが好きなのに… 。気絶してしまったらもう見れません。刺激を与えたら戻るかもしれませんね」
月城は、鬼頭の右足の脛に踵落としをして、右足に軽くひびを入れた。
「起きませんか。ああ〜どうしようかな〜。さっき折った場所を修復できないような骨の折り方にしようかな〜。 ん〜。悩むな〜。おや。そこにもう一人おりましたか」
月城は、もう一人が撮影していることに気がついた。
子供のような無邪気な笑顔でその取り巻きに近づいた。
まるで子供が新しいおもちゃを見つけた時のように。
取り巻きの一人は、月城は取り巻き二人の顔面を潰した時から、腰を抜かしてその場を動けなかった。
その間ずっと、手にスマホを持ったままで、一部始終を撮影はしていた。
「君。その携帯くれる? ちゃんと撮影しているよね? もらうね?」
不良としてのプライドか。取り巻きは最後の足掻きをした。
「こ、これは、鬼頭さんので、勝手に取ったら、せ、窃盗罪になるぞ! それに…もし暴力を振るったら、暴行罪で…う、う、訴えてやるからな!」
ビビりながらも反撃する姿を見て月城はかわいく思えた。
そのため、暴力ではなく言葉で遊んであげようと考えた。
「本当にお馬鹿さんですね。俺のやったことは、どう見ても、暴行罪ではなくて傷害罪でしょうね。
もっとも、正当防衛かな? 厳密には過剰防衛かな?? 俺の罪は、減刑または免除ですよ? 任意ですけどね。まあ、あいにくここにはカメラがありませんし、ここまで来る時、俺一人でいますからね。かなりの確率で免除でしょう。起訴すらされないですよ。
それに、窃盗と言われても……。あなたがビビっているせいで、事後的奪取意思が認められて、強盗になるかもしれませんね!アハハハハハハ!」
「な、なにいってんだよ!!!ほ、法律なんてわからねーよ!!」
「一方のあなたちはどうでしょう?建造物侵入、監禁、器物損壊、傷害等。これは大変ですね〜〜??」
「……」
「では、よこしてください」
取り巻きの一人は、震える手を一生懸命に抑えながら、月城にスマホを渡した。
「今度関わってきたら、暴力を振るったシーンを公開してさしあげますよ? 退学決定ですね。あと、知り合いに検察がいるので地獄行きですよ? 鬼頭くんに伝えておいてくださいね」
「え、お、おれが……」
「他に誰がいるのですか?」
「……はい」
「では、病院で手当を受けた方がいいですよ? 死なない程度に遊んであげましたから。本当は人が死ぬところを見たくて仕方がないのですが。さっきからずっと我慢しているのですからね? あと、俺がやったとは言わないでくださいね? もし、言った場合は、家族だろうがなんだろうが全員……」
「わ、わかってます!!命に誓って、誰にも言いませんから!!!!」
そんな時、月城の携帯が鳴った。
そこには、【早乙女陽菜】と書いてある。
月城は陽菜の顔を思い出し、完全ではないが少し冷静さを取り戻した。
会うことで何かが満たされる気がした。
月城は壊れた缶バッチを持って、トイレを後にした。
最後に残された取り巻きは、偶然にトイレを訪れたホテルの従業員に見つかり、仲間内で喧嘩したと伝え、すぐに学校に伝えられ、教師らによって病院に連れて行かれて手当を受けた。
ホテルへの清掃代は学校が代理で支払った。
鬼頭も病院で目が覚め、喧嘩について聞かれたが、自然と、月城の名前を出さなかった。
鬼頭らは、1週間の停学処分となった。
陽菜が電話をかけたのは、集合時刻の時間を過ぎているにも関わらず、月城が現れなかったからである。
「ね〜ね〜! そろそろやばいよ……。月城くんの他のメンバーは揃っているんだけど、『来ない!!』って怒ってる感じだよ〜?? 今どこいるの?」
「一条ホテル」
「え? どうするの! そっからは結構かかるじゃん。走っても、15分はかかるじゃん!」
「あと、5分あれば着く。トイレに行っていたことにして。嘘ではないし!」
「わかったよ〜。なんか……あった?」
「ないよ?」
「声というか、声質がちょっと違うから」
「こんなもんだって!!」
月城は全力で走った。
普段はランニングはする時は人の視線を感じにくい、早朝か深夜に行う。
昼間に走ることなんてなかった。
ただ、今の月城は、太陽の下、人の目線を感じながら走るのが気持ちよかった。
宣言通り、5分で集合場所に到着した。
集合場所にはメンバーはいなかった。
「おい!! 月城! 遅いではないか!!」
「すみません! トイレ行っていました!!!!」
「嘘をつくな!! 班のメンバーがお前だけ勝手に遊びに行って、帰ってこなかったといっていたぞ? だからあいつらは先に解散したさせたがな。まあ、バラバラになっている奴もいるのはわかる高校生だからな。それでも、一人だけが自由行動して、集合もせず、遅刻はダメだろ!!」
「ち、違うんです。ぼ、僕はそんなことしてません……」
教師にとっては、オドオドしている姿はそこまで違和感はなかった。
しかし、今の月城はわざと弱々しい演技をしていた。
「こ、これを聞いてください……」
月城は録音していた内容を先生に聞かせた。
「これは……本当か?」
「本当なんです……僕は、それで……ひとりでどうしていいかわからなくて……。道に迷って、早乙女さんに助けられたりもしました。それで、トイレに行っていたのも本当で……」
「…すまん……」
教師の顔がどんどん真面目になっていく。
「いいんです!! ただ、彼らには何も言わないでください!! 気まずくなるのは嫌なので……」
「わかった。この件はそう言うことと了解しておこう。何かあったら言うんだぞ??」
「はい……」
月城は下を向いて手で顔を覆った。
教師は、泣きたいのを我慢しているのものだと勘違いしていた。
月城はただ、教師のマヌケっぷりに、笑いをこらえるのが辛く、顔を隠して下を向いて笑っていただけであった。
それに、もし録音がなかったら、どうなっていたかを想像してもいた。
おそらく、モブどもを完膚なきまでに懲らしめているところだった。
男女問わず。
少し、楽しそうにも思えていた。
そのことも、想像して笑っていたのである。
今の月城は凶暴性が異常であった。
人間の本能というかの如く。
月城はチェックポイントを無事を終わらすことができた。
集合時刻を過ぎれば班行動は解散し、自由行動となる。
帰っても、残って遊んでも良いのである。
月城は、解散後の予定は特になかった。
本能では、早乙女姉妹を求めていた。
しかし、妹はまだ、クラス行事中であった。
姉の方に会えたらなと思っていたところ、出会った。
陽菜は、先に済ませ解散しており、一人で、少し離れたところで、先生と月城とのやりとりを見ていた。
そして、違和感は感じていた。
月城の中の何かが壊れてしまったような気もしていた。
とりあえず、心配しながら、いつも通り接することにした。
「あ〜もう!! わたしが電話しなきゃ大変なことになってたからね〜??」
「ああ、そうだな。マジでありがとう!!!」
「一条ホテルで何してたの〜〜?? あ〜〜!! トイレでエッチなことをしていたな〜??」
「してないよ? 早乙女さんはするの?」
「……え?」
「だから、一人でするの? 俺はしてたほうが好きだな」
月城は陽菜に近づき、陽菜をじっと見つめた。
もう少し近づけば、キスをする距離でもあった。
陽菜は嫌な思いはしなかった。
最も、陽菜も乙女ではある。
羞恥心はあるのだ。
意識下ネタで製造機ではあるが、一定のラインはある。
陽菜にとって、一人でやっていることは、重大事項であった。
恥ずかしくて、言いたくないと思っていた。
陽菜は攻めることに慣れているが、攻められることに慣れていなかった。
そのため、月城の不思議なオーラに圧倒され素直に答えてしまった。
「……夜…寝る前に…たまに……眠れない時とか……」
「いいじゃん!! やっぱり早乙女さんはそうでないとさ」
「……どうしたの。目つきも少し違うしなんか。 覇気があって 別に、これは…す、すごくいんだけど…」
「今、気持ちがいいからさ!! どっか行かない?? 解散したし!」
「……ん!?」
「別に、無理やり行かせたいわけではないよ?? 嫌いじゃないなら、テキトーにそこら辺ぶらつかない??」
「行きたいけど……いいの?」
「ああ。行こっか」
解放された今は、言うなれば、本能に忠実な状態であった。
脳を解放した状態は、今までほとんど起きなかった。
起こらないようにされていた。
月城自身、制御不可能であった。
陽菜も実際に会ってみて、なんとなくこの状況を理解していた。
月城の抑圧していたものが、溢れ出たのではないかと勝手に推測した。
陽菜は、月城の右側を陣取り、二人で観光をした。
観光といっても、特に目的もなく、二人で歩くだけであった。
道中では、二人の姿を同じクラスのクラスメイトに目撃されたりもした。
言い訳ができない状況だった。
わざわざ、自由解散した後に二人だけで歩っているからだ。
それは、カップルのすること。
陽菜の方が、珍しくオドオドしていた。
嫌な気持ちだからではない。
ただ、普通の月城ならしない行動をするので、どうしていいかわからなくなってしまったのだ。
一方の月城は、人の目線など毛ほども気にしていなかった。
ただ、ただ、何かから解放されたように、気持ちよく、快適に歩いていた。
「ちょっと、コンビニ寄っていい?」
「いいよ〜〜」
月城は、500m lの水とスティックシュガーを24本買った。
そして、全ての砂糖を水にいれ、一気に全て飲み干した。
「ふっーー!!準備万端!!行きますか!!」
「え〜〜〜!!何それ!やばくない!? 本物の砂糖??」
「そうだよ?」
「すっご。もう最近は何もかも規格外だから驚かないけどさ!!」
「ちょっと、脳が疲れててさ」
「じゃあ、準備万端なら、近くにある遊園地でも行かな〜い?」
「おお!いいな!行こうか!」
「え!?」
「あ、冗談だった??」
「いや、本気寄りの冗談というか、断るものかと……」
「なんで?」
「わたしと二人で遊園地とか断るかなって。目立つし」
「なんで断るの? 行こうよ!!」
二人は遊園地に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます