第31話 大切な思い出

妹と別れ、俺は満足したため、テキトーに散歩することにした。


歩きながらガチャを引いたのだが、爆死したので超絶にイライラしている。

風キャラなんていらないんだよ。


そう怒りながらも、妹の方と過ごした1時間のおかげで、怒りはすぐに収まった。


まあ、あとは、少ししたら来るチェックポイントの時間に集まればいいだけだ。


しばらく歩いていると、「よ! 遊ぼうぜ?」と声をかけられた。


懐かしい声だった。ぶっとい声で、別に聞きたい声ではなかったけどな。


目の前に巨人がいる。

鬼頭が再登場したぞ??


そしていつも通り、数人の男どもにも囲まれた。

今回は取り巻きは4人だった。


俺は、男と遊ぶ趣味はないんだがな。

鬼頭は男好きなのか?


「ども」

「調子よさそうだな??」


やっぱりか。

妹の方と歩っているのをどこかで見つけて、姉の方と勘違いしたな。

まだ、未練があるのかコイツ。


姉妹の区別もできない奴が何を言っているんだ。


今回は、俺はやり返すと決めていた。


この間は満足をさせてやったつもりだ。

それにも関わらず、早乙女姉妹と行動しただけで、毎回絡まれるのは本当にダルい。


それに、怒れば、ある程度、俺の体が動くだろうという計算もしていた。


というかもう怒っている。


せっかく、妹と過ごして良い思い出ができたのに、汚い顔を見せるな。



「ここじゃ、あれだろ。場所変えろよ」

「おお〜!!いっちょ前に反撃を覚えましたか!」

「で、どこがいい?」


鬼頭が提示したのは、今いる場所からすぐ行ける一条ホテルの地下駐車場にある、人がほとんど来ないトイレであった。


俺も色々考慮した結果、鬼頭が悩んだ場合は、そこを提示するつもりであったから満足だ。


最近は防犯カメラが至る所に設置されている。


トイレなら、変態以外は設置していないだろう。



俺らは目的地に向かった。

同じ制服の奴らが、ゾロゾロとトイレに向かうのもシュールで個人的には面白かったが。


場所に着くまでは、誰一人、言葉を発さなかった。


トイレに着いた。

一条ホテルの駐車場にあるだけあって綺麗だが、ホテルに比べて多少汚いので、他の人はホテルの方を利用するから人が来る心配はないであろう。


まず初めに沈黙を破ったのは、鬼頭だった。


「おめえ、随分調子に乗っているな? 」

「そう?」

「言ったよな!? 次はエスカレートするって! 前みたいにボコして、その映像とってばら撒こうぜ! こんなにビビリなんですよって! 陽菜はどう思うかな?」


鬼頭は取り巻きの一人にスマホを渡し、そいつは撮影を始めた。


体がおかしい。

手と足が震える。

体の筋肉も痙攣し始める。


なぜだ? 

まるで、奴らを傷つけてはいけないと言われているようだ。


「そろそろ、姉を犯そうと思う! ビデオを撮りながら。いいだろう??」

「犯罪だろ?」

「そうだな! でもな、暴走族の頃のコネで、裏の人間と関わりができて、もみ消してもらえそうなんだ」

「クソだな。彼女みたいなのいるんじゃなかった?」

「おお! そうそう! 俺はあいつのこと好きだ。 でも、あいつは胸がそこまで大きくない! 姉は体がたまらなそうだろ? よくあるじゃねーか風俗嬢と同じだよ!」

「最低だな」


こいつは、思っていた以上のクズそうだ。


「妹も脅して3Pなんてもいいな! あとは、裏のやつにも献上して喜んでもらって、俺は出世するのさ!!」

「どうせバレるぞ?」

「裏と金の力を知らないガキはそう思うよな〜!」



俺は、さっきから何発も殴りたいと思っている。

ただ、体が動かない。

というかむしろ、震える。


やはり、鬼頭への恐怖ではない。

なにか別の得体の知れないものだ。

俺の脳を洗脳しているかのような感覚だ。


体と頭と心の全てがおかしい。

呼吸が荒くなる。


「なんだ。イキってた割にもうビビってんのか??」

「違うから黙ってろ」


とにかく俺はカバンを置いた。


いつでも、戦えるようにするためだ。


今回は、俺から殴ろうと思っていた。

とりあえず、このよくわからない洗脳を外すには、先手必勝だ。


殴りかかろうと構えた時、なぜか軸足である左足が震え出し、力が入らず、バランスを崩してしまった。


殴ろうとしたため、今後反抗できないように、取り巻き2人が、崩れた俺の腕を持って後ろでハンマーロックをした。


俺はひざまずいた状態になってしまった。



「ブハハハハハハ!!!おもろすぎだろ!!!なんだ!!今の!! 構えたら腰抜かして、膝から崩れ落ちたぞ!!!」


『ダメだ!!死ぬ!!! 笑いすぎて、この抑えている手を離しそうっす!』周りの取り巻き達も爆笑している。


なぜだ。体がいうこと聞かない。

もう十分に怒っているはずだ。

リレーの時みたいに、視線が怖いわけではない。

なんなんだ。


「まあ、褒めてやる。陰キャのくせに、歯向かおうとしたのは。」

「黙ってろ」


「もしかして、いい女が隣にいるから自分のことを陰キャだと思ってないのか?? ほら見ろ!相変わらず、キモいなーー。この缶バッチ。陰キャそのものじゃねーか!! 陰キャになりたくないなら、今から壊してやっから安心しろ」



「それはやめろってんだろ!!!」

そうだ。怒れ。力が出るはずだ。

なぜだ。どうして力が出ない。


どうしてずっとこうなのだ。もう病気なんて嫌だ。


あれは妹の方と交換したものだ。 

初めて、姉やクラスメイトと遊んだプリクラもある。


思い出が詰まっている。


それに、こんな奴をのさばられていては、姉の方も危険だ。


とにかく力が出てくれ……


そうすればなんとかなる。




しかし、間に合わなかった。

思いっきり踏み潰され、曲がってしまった。


「イエーい!! ヒューヒュー!」

取り巻きも含め全員で喜んでいる。



目の前に踏み潰されて思い出を見た時、自分の中で何かが大きく崩れ出した。


月城の脳の人より多いストッパーが外れた。

ストッパーにより、脳からの伝達がバラバラになり、司令通りに行動できずいた。


しかし、ストッパーはもうない。


月城の全身が一気に解放された。


つまり、体が月城の意識通りに動かせるようになったのだ。


そしてそれは、本来解放してはならないものであった。


月城は、腕を押さえている2人を、腕を軽く振り回すだけで思いっきり飛ばした。


床に思いっきり叩きつけられた取り巻き2人は、突然のことで受け身を取れず、軽い脳震盪を起こしていた。


そして、月城は、二人の顔面をなんの躊躇もなく踏み潰した。


まるで、道端にいるアリを踏み潰すかのように。


「アハハハハハハハハハ アハハハハ! ああ、なんて快適なんだあ〜〜〜。おお〜〜!!!綺麗なお顔になりましたね〜〜!!」


月城は、大声で笑い始めた。


あまりに一瞬の出来事であっため、鬼頭も何が起きたのか理解できなかった。


ただ、目の前には顔面が破壊され、鼻が折れ曲がり、血を流し、目の周りが一気に腫れ上がっている二人が横たわっている。


そして、もう一人、鬼頭の目の前には、さっきまで足を震わせていた人間とは思えない人物がそこにいた。


口調も目つきも違う。


人間の負の感情を全て出したような【悪魔】だった。


「さあ、遊びましょう〜〜〜!!!」


鬼頭は、人生で二度目の恐怖を感じた。

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