第29話 姉妹はお前には渡さない

肉まん作りが始まった!


1組が初めの時間で、なぜかその次は3組、5組と奇数組になり、そっから妹のいる2組、4、6と進んでいく。


『肉まん作り!!』と言っても、格別に楽しいわけではない。


言われたことを言われた通りにやるだけだった。


出席番号で座ったため、席は須子と姉の方と近かった。


「な〜〜!これ、おっぱいとどっちが柔らかいと思う?」


須子は自分で作った肉まんをモミモミ揉んでいた。


揉みすぎて中身が出てしまい、床に落として、『あーーーーーーー』と叫んで、先生に怒られていた。

相変わらずなやつだ。


姉の方が「ねえ、わたしのは、肉まんよりもっと柔らかいよ?」と耳元でぼそっと呟いた。


「嘘はいいって……」

「え〜本当だよ〜? 試す?」

「あー信じる信じる」


内心めちゃくちゃ試したかった。


ちょっと遠足は楽しかったかもしれない。


ただ、エロイベントに興奮しただけだが……


これから地獄が待っているから、これくらいの楽しさでは足りないな。



肉まん作りも終わり、試食する時間だが、そんなに食べないから、須子にあげた。


そしてすぐに、自由行動の時間がやってきた。


自由と言っても、最後の時間には、集合場所にグループ全員で集まらないといけないのである。


「ウチらは別行動取ること決めたんだけど、月城もいいよな?」


モブAにしてはいい提案をできたと誉めてやる。

俺はスマホを起動して、録音を開始した。


「じゃあ、班行動ではなく、最後のチェックポイントの集合の時に入ればいい感じにすれば良いのですか?」

「ちっ。それ以外ないだろ!」

「あ、そうですよね…」


男子のモブどもも、

「じゃあ、こっからは別行動でいいよね! やったぜ! アイツらといたら…な?」

「同族に思われると困るよな!」


と、わざわざ、聞こえる声で言って、消えてくれた。


しっかり録音できて安心だ。


名誉毀損とかするつもりはない。


ああいうタイプは先生に見つかると、『月城が言うこと聞かずに逃げました!!』とか言いそうだからな。

こういうのは経験が教えてくれる。




さて、初めての遠足行事なのでゆっくり観光しますか。


久しぶりに一人だな。


みんなは、対照的に、楽しそうにグループで盛り上がっている。


なんだか昔のことを思い出す。


今では、昔では想像できない経験をしてきたな。



ちょっと、須子や高安の女子たちとの進展をのぞいてみたいが、邪魔するのもあれだし、他のクラスメイトもいるのでやめておこう。


グループラインでは、みんな楽しく予定を話してくれたので、できるだけみんなと被らないルートを選び観光しよう。


俺は、赤レンガ倉庫とか、船とか見て、なんとなくイベントを楽しんだ。


不参加よりは成長したな。


ちょっと物足りない気もするが。



そして、偶然にも妹の方を発見した。


そうか。

2組は、今は自由行動の時間だったか。



女子3人で歩いている。

名前は知らないが、2組の陽キャ女子2人と一緒だった。


男子の姿がないぞ??


2組も考えることは一緒か。

自由行動は班の中で、好きなもの同士で歩くというものであるのか。



俺は一人でも平気だと思ったいた。

昔からずっと一人だったから。


ただ、今回は物足りなさを感じていた。


もしかして、どこかで俺は、早乙女姉妹を求めていたのかもしれない。


俺は、なぜか妹を尾行することにした。


俺は、妹のストーカーではない。


そう自分に言い聞かせた。


仮に、妹の方が同じクラスで、姉の方が隣のクラスだったら、姉を尾行しているからだ。


よって、妹のストーカーではない。

うん。いい証明だ。


というわけで、俺は妹をストーカーすることにした。


俺は、目立たないので、結構ストーキング行為がうまくいく。

もちろん、人生で初めてのストーキングだが。



観察していると、妹の方の見たことない一面を見れた。


女子高生なんだな、と改めて思った。


友達と写真撮ったり、会話で笑ったり楽しそうにしている。

初めてみるな。


やっぱり、違うクラスだとわからないことは多いな。



ただ、飯を食ったりはしないんだな。

てっきり、食べ歩きするのかと思っていた。


なんか、知ったかぶりみたいでキモいな。



しばらくすると、妹の方以外の女子二人のテンションが上がった。


割とでかい声で、

「ねえねえ! 見て! 何あのイケメン! 背高い! 超かっこいいんですけど……」

「やっばー。何あのオーラ。芸能人?? 声かけてみようよ〜」

「えーー。でもめっちゃいるじゃん!」

「同じ遠足なのかな? でも、他の高校もそれなりにいるよね?」

と盛り上がっている。


妹の方は、特に興味を示してはいないようだった。


2人の視線の先には、一際、周りと違ったオーラを放った男が見えた。


その男は、自分の学校だけではなく、他校、そして男女問わずに囲まれている。



俺は、一眼見ただけでわかる。


それに、この学校に来ても、名前を何度も何度も聞いた。

『一条 実』と。


俺は、妹達にバレない位置で、かつ、会話が聞こえる位置に、スッと移動した。



結局、陽キャの2人は、あいつに声を掛けることにしたようだった。


「あのーー。同じ遠足ですか??」


あいつは、お得意のイケメンスマイルで、ニッコっと笑い、「ええ!!そうですよ!」と2人に返事をした。


そして、2人と少し離れた位置にいる妹にも手を振った。


「初めまして……」

妹はとりあえず、会釈をした。


「…… 。初めまして!! 一条実といいます!」


あいつも、妹の方の全身を見てちょっとびっくりした様子だった。

一瞬、言葉が出ていなかった。


流石に、いくら天下の龍上高校といえど、早乙女姉妹ほどの美人はいなかったからな。



「今から、貸切でうちのホテルで食事するんだけど来ませんか? 是非、3人で! 一期一会と言いますし、交流できたらと。もちろんお金は入りませんよ?」


見え見えである。

まずは外堀を埋めてから、本命を落とす。


あいつは、妹の方しか見ていない。


「え〜〜!!いいんですか? 行きます行きます!」

「あ、でも…1時間後には……うちら学校で行かなきゃいけないところがあって……休んじゃう?」


2人は本命ではないにも関わらず、行く気満々だ。



「あ、いいよいいよ! 1時間もあれば十分だし! ここにいる人たちも、今、知り合ったような感じだから!いつ帰ってもいいし! ね?」


いきなり敬語からタメ語に変化。

距離の詰め方が上手いな。



ただ、お前が手を出していいものじゃないんだよ。


お前は、この世の全てを手に入れることのできる、紛れもない天才。


そうだとしても、早乙女姉妹だけはダメだ。



わかっている。


妹は、あいつの名前を知っていた。

模試のことや勉強のことであいつに聞きたいことがあるのかもしれない。


顔やスタイルが好きなのかもしれない。


輝いているような人が好きなのかもしれない。


ただ、ダメなんだ!!!!


理由は一つだった。


俺が会わせたくなかった。


ただ、それだけだ。


止める理由は不十分だ。

止める権利もない。


でも、ダメなんだ。



女子二人が妹を説得し始めた。


妹の方が答えを出す前に、俺は行動に出た。


俺は、体育祭の帰りに交換して以降、ずっと使われていなっかった妹のラインに電話をかけた。



「……電話なっていますよ?」

最初に電話に気がついたのは、アイツであった。


「あ、ちょっとすいません」

「月城…光…?」

「え?」

「すみません!見えてしまいました」

「あ、別に大丈夫です……」

「その制服、もしかして、天明高等学校ですか?」

「ええ。……そうですけど?」

「そうですか。今日は、あなたを誘うのはやめておきますね。嫌いとかではないですよ? 用事がありそうなので」

「……え?」


妹の方は何が起こったのかわからない顔をしていた。

当たり前である。



「あ!でも、そこの二人は一緒に行かない? 交流したいなと思っていたので」


あいつは気まずくならなように2人をフォローし2人をした。


そういうとこは流石だなと思う。


女子達は3人で話し合った。

どうやら、2人は食事会に参加するようだった。



妹が『急用がある』と説明したため、3人とも納得した感じで別れたのはよかった。



ごめん。

こんなことして。


みじめになったよな。

俺のせいで、振られたみたいになったんだからな。




俺は本当のクズだったんだな。

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