第27話 俺は嫌われたくなかったんだ

今日は、珍しく、妹の方が先に来ていた。


こういう場合は、俺から手を振るものなのか?


悩んでいると、妹の方から振ってくれたのでよかった。

一応振り返しておいた。


ただ、なんか今日は元気なさそうだ。

お弁当でも忘れたのかな?

早くいるし。


「おひさー! テストどうだったーー?」

「あまり聞かないでくれ……」


あんたの姉のせいで、こっちは計画が崩れたんだぞ?

どちらかといえば、みんな俺が数学やらかしたと思って、バカ扱いだぞ。

陰キャのバカって最悪だぞ?


「あまりよろしくない出来だったと……」

「まあ、そんな感じだ……」

「GWにちゃんと勉強しないからだよ……」

「それは違うと思いたい。で、そっちはどうだったの?」

「私は……2位だった」


これは本当のショックか? 

自慢の方か?


「おお。てか、なんでわかったの? まだ順位、渡されてなくない?」

「先生が教えてくれた。すごくショック。今までずっと1位だったのに……」


ショックの方か。

ちょっと、困ったな。

いや、結構困ったな。


こういう場合は、『1位は俺だ!!』って言った方がいいのかな。


そもそも、姉の方が言う可能性もあるし……

え。

でも、なんか一回隠しちゃったから、今更言いにくいしな。

どうしよう……


姉の方のせいで、妹の方を傷つけた場合はどうすればいいのですか……

ネットの、おじいちゃんの玉袋……じゃない。おばあちゃんの知恵袋的なサイトに聞いた方がいいのか……


「……何点だったの?」

「505点」

「てことは、基本は全部満点近いってこと?」

「うん。基本は満点だよ。いつもそう。ただ、独自問題が分からなくて、あまり部分点がもらえなかった」

「でも……いい方だろ」

「まあ、そうなんだけどさ、数学の先生が言っていたことが気になるの。誰かは教えてくれなかったけど、独自問題で満点が出たって。私だって、色々考えたのに、部分点しかもらえなかったんだよ? 自意識過剰じゃないけど私、全学年の全国模試とか上位の方で名前乗っているのに……」

「たまたま正解したやつがいたんだよ……。てか、全国模試とかで名前乗っていたのか」

「最近やったやつだと4位! 順位は少しづつ上がっているんだ!」

「頑張っているもんな」


「最近ずっと1位の、一条 実って人すごい。あのテストでどうしてこんなに取れるのって感じ。1問くらいしか間違えてなんじゃないかな? しかも、記述で減点されたくらいだと思うんだよね。あれでも、結構昔、似たような名前の人がもう一人いたような……。なんでもない!」

「会ったことあるの?」

「ん? ないよ?」


「いや、なんとなく気になっただけ。てかさ、早乙女さんって独学?」

「うん!」

「普通にすごいな。上位なんてみんな特別の学校で、特別の教育を受けている。それにもかかわらず、独りで、それと張り合えるなんて積み重ねてきたものが違うな。心から尊敬するよ」


バレた時に、嫌味になってしまうとか考えなかった。

ただ、思ったことを口にしてしまった。


「ありがとう!!でも、だからこそ気になる。その人。おかしくない? 今回の独自問題はさ、数学オリンピックの超難問を、もっと難しくアレンジしたのにさ、そこで論理破綻していることを指摘するって。アレンジ前でも解くのに1時間くらいかかるらしいのに、どうやってあの時間で解いたんだろう。きっと、一条って人でも無理だと思う。上の人はできるのかな?」


「き、きっと、数学好きな人がいたんだよ。それでたまたま、知ってて解けたんじゃないか?」

「でも、1位の人、他の科目もできてない?」

「456点くらいでさ+特別問題で50点で1点差とかで勝ったんじゃね? 総合点は知らないだろ?」


「まあ、その可能性もあるか……。でも、なんで今まで私が数学1位だったんだろ。いきなり努力で伸ばしたのかな。それとも、今まで手抜いていたのかな」

「だから、たまたま何かで知ってたんだよ……」


普通は編入の俺が真っ先に怪しくなるのだが、俺の点数がよくないと思い込んでいるから、その考えに至ってないんだろう。


「まあ、結果は結果かーー。でも、スッキリした!!やっぱ、もっと、努力するよ!」

「体には気をつけてくれ。この時間……俺がいない方が集中できる?」

「えーー。それは嫌だ。この時間過ごしてから効率上がったし」

「そうなのか」

「それに、ちょっとショックだったから、慰めてもらえると思って、今日は早く来たんだよ?」

「俺にそんなすごいことはできないぞ?」

「そういう時は、女の子の頭撫でるんだよ?」

「なんだそれ」

「じゃあ、食べ物あげるとか?」

「ペットの扱い方か?」

「面白いね!! 私、首輪つけないと! ご主人様!! ワン!!」

「お、おう……」


え。

これは唐突の下ネタ?


いや、違うんだよな。


妹は姉と異なり、無意識に爆弾発言するんだよな。

まあ、これは下ネタかは微妙なところだけども。


ご主人様は、ダメだろう……。

本人は犬の気持ちなんだろーけど。


でも、妹が首輪つけていたら……

想像するのはやめよう。


とりあえず、家に帰ったら、コスプレ系の動画でも見ておこう。


「でも、実際に会ったら元気出た!」

「それはよかったよ。 俺、何もしてないけどな」

「えーー。月城くんは努力している人のことバカにしないから!」

「それで良いならいつでもするよ」

「じゃあ、毎日ね??」

「なんだそれ」


俺らはいつも通りにの時間に戻った。


途中で勉強してる妹の方のお腹が鳴った。


『ぐう〜〜〜〜』という音が、二人しかいない静かな空間に響いた。


妹の方は顔を赤くしていた。


「ねえ……、聞こえた?」

「ん? 何が?」

「いや! なんでもないよ!!気にしないでね!!」

「なんなんだよ。お腹鳴った音なんて聞こえてないよ?」

「あーー!!ひっど」


ぷっくっと顔を膨らまし、脛を軽く蹴ってきた。

頼むからやめていただけませんかね。興奮してしまうので。


「やめてただけませんかね……。てか、弁当食ってないの?」

「うん。一人前しか食べてない……」

「それは……食べてないのか?」

「全然足りない!」

「明日からはちゃんと食べてからきなよ」

「そうする!!」


やはりこの時間は楽しかった。


本を読みながら俺は考えていた。


なぜ、妹に真実を言わなかったのか。


なぜか、俺は言いたくなかった。


別に、早乙女姉妹なら、『成績がいいからキモい』みたいなのはなさそうだ。


姉の方がそうだっように、妹の方もそうであろう。



妹の方に言った、『努力していることを心から尊敬していること』に、嘘偽りはない。



ただ、妹は努力をしていた。

それを俺は目の前で見てきた。


実際、普通、独りでは到達することが困難なレベルまで到達している。

並大抵の努力ではなかったはずだ。


一方、俺は遊んでいた。

まあ、俺は特殊な育ちだからな。



でも、遊んでいた奴に負けたら、誰だって憎く思うであろう。

向かい合って、本読んでるやつが、余裕をぶっこいている姿にしか見えない。


昼休みのこの時間もなくなるかもしれない。


それが嫌だったのかもしれない。


過去の経験が色々考えさせられる。


優しい嘘もあるだろう。


もちろんいつかは、俺は全てを言いたいが、今ではない。



この嘘は間違っていない。


そう信じたい。

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