第21話 ホクロの数
体育祭の翌日。
普通は振替休日だろと思いながらも、明後日からゴールデンウィークのため、今日だけは学校があるらしい。
そういえば、今日から俺の弁当はリサが作ってくれた。
バレるとあれなので、見た目はコンビニの容器だが、味が格段に向上した。
リサとの付き合いは長いので、量も的確である。
帰りにコンビニでリサの好きなものでも買ってってやろう。
午前中の授業はいつも通りに終わった。
今日の授業は、実験とかで、姉の方と話す機会はなかったな。
ただ、気のせいかもしれないが、姉の方からの視線を多く感じる。
え。
もしかして、『寝てる間に痴漢された!』とか思ってる??
俺、我慢したんですけど……
まあ、気のせいか。
昼休みの図書室。
昼飯を大量に食ったであろう妹が遅れて入ってきた。
いつも通り手を振ってきた。
俺は約束を覚えているぞ。
一応……振り返しておくか。
俺は小さめに振りかえした。
「え。なんで? 手振ってるの?」
珍しく筆談ではなく話しかけてきた。
あ。死にたい。
え?
約束、嘘だったの?
もしかして、俺って早乙女家に行ってない??
「い、いや……なんでもない……」
「うっそーー! ちゃんと振かえしてくれたじゃん! 覚えててくれたのね!」
これはやっちゃいけないやつだよな?
「もうしないぞ」
「ねえ、ごめんってーー」
「もう怒ったから」
「なんでもするから許して……??」
な、なんでもだと!?
おっぱいでも見せてくれるのか!?
「別に何もしなくていいよ。怒ってないから」
俺はチキるタイプでした……
やっぱり今が言う最大のチャンスだったか?
「よかったーー! ねえ、GWの予定は?」
またしても、話しかけてきた。
筆談は司法試験並みに手疲れるし、それにこの空間には俺らしかいないし問題ないってことか。
昨日、結構話しているから、筆談でなくとも普通に話せるようになっていた。
「何もないぞ?」
「そっか」
「そっちは?」
少し悩んだあと、「勉強する……」と呟いた。
「今から中間の対策?」
「うん……」
「偉いな!」
「本当に表情とかで馬鹿にしないんだね」
「表情見て何かわかる?」
「馬鹿にする人は、『今から!?』って顔するんだよ?」
「なんだそれ。早乙女さんは見てて努力できる人だなって思う。 俺は努力は苦手だ。一応やってみるが、結局挫折して病むの繰り返し」
「努力ってそんなもんじゃない?」
「その当たり前が難しいんだよ」
「あ! そういえば! 陽菜ねーの変わりに、モデル撮影するんだよ!」
「結局そうなったのか」
「傷はまだ治らなさそうだし。残る傷ではないんだけどね……」
「そういう撮影は得意なの?」
「んーー。私はそこまで。」
「そうなのか。とにかく頑張ってくれ」
「ありがと! 陽菜ねーのsns、フォロワーいっぱいるんだよ!! 見る?」
正直、俺はsnsを見るのを避けてきた。
何回か検索して見ようとしたが、後少しのところでいつもページを消してしまう。
隣の席の子が違う世界の人だと思うと、せっかく普通に接してきたのに、話せなくなってしまう気もしてきたからだ。
ただ、ここで断るのも違うし、この勢いじゃないと一生見ない気がする。
「じゃあ……見るよ」
「ほら!」
最近撮ったであろう写真を一枚を見せてくれた。
写真の写し方もあるだろうが、俺の住む世界とは違うなと改めて思った。
キラキラしている。
俺も病気を少しでも治して、この姉妹に近づける男になりたいと心から思った。
「本当にすごいな」
それしか言えなかった。
よくわからない嫉妬心もあった。
「他にもいっぱいあるんだよーー? どの写真が好き?」
スマホを貸してくれて、そこには姉の方のアカウントページが開かれている。
100枚近くの写真があった。
特に好きなものはなく、ただただ、普通に綺麗だし、かっこいいし、別人のようだし、モデルだなーとしか思わなかった。
ただ、妹の方がこの質問をしてくるし、この話の流れだ。
絶対この中に、妹が入れ替わって撮った写真があるはずだ。
妹の方は間違い探しが好きなのか?
よし。やることは決めた。
「ちょっと待ってね」
「いいよーー!!」
正直難しい。
サングラスとかかけて顔があまり写っていない。
おそらく妹の髪もカツラかぶって……
あ、ウィッグっていうのか?
それで、短くしているであろうから、髪での区別はできない。
それに映し方や結び方で、髪型ではうまいこと区別できないようになっている。
厄介だな。
スタイルもほぼ同じだしな。
須子じゃないし、スタイルだけでは完璧に判別はできないかもしれない。
ただ、俺は昨日、区別する方法を発見していた。
首元に小さなホクロが2個あるのが妹、1個あるのが姉なのを体育祭で気がついた。
普通では気が付かないが、姉は、膝枕した時、妹はジャージを脱がすときに近づいて気がついた。
少しズームさせてもらって、首に小さなホクロが2個ある写真を何枚か発見した。
さて、やられたらやり返すだ。
「この写真と、これとこれかな」
俺は妹の方と思われる写真を指摘した。
「おお! この写真が好きなのーー!?」
「いや、今指摘した写真以外がいいかな。 指摘した写真は、ど素人ぽくて嫌いだな」
「……え」
「そう思わない? 『疲れてた時に撮った写真ですか?』って感じだ。後はすごくいんだけどな」
「……う、うん。 そ、そうだよね……」
妹の方は急にテンションが低くなってしまった。
ちょっとやりすぎたかな。
もうちょっとイジりたいが、可哀想なので、ネタバラシするか。
「なんでそんな落ち込んでるの?」
「……いや、な、なんでもないよ……」
「そうだよね。俺に自分の写真を指摘されて、ディスられただけだもんな」
妹の方の顔が急に明るくなった。
「あーー!! やったなーーー?」
「手を振りかえしたのに、イジるから仕返しだ」
「怒ってないって言ったじゃん?」
「仕返ししないと入っていないぞ」
「うわーーひっど。でも、すごいね。 よくわかったね私のこと。 もしかして……ストーカー?」
あれ? 俺、いきなりピンチじゃね?
「か、髪とかで区別できるだろう」
「ここの写真はウィッグかぶっているから区別できないよーー? やっぱりストーカーだ!!」
「だ、だから言っただろ? ど素人ぽいって」
「……う……。ねえ、本当にそう思う? たまに自信無くすんだ……」
涙目になった。
あれこれ完全にやらかしたやつか?
「いや冗談だって! 俺はなんとなくこの写真が妹の方かなって思っただけなんだ! 当たっているとは思わなかった」
「うん。知ってる!」
「あ。嘘泣き?」
「さーー?」
「最低ではないか」
「へへっ! 」
やはりこの時間は楽しかった。
俺らは、各々やることをした。
と言っても、妹の方は勉強をして、俺はこっそりラノベ読んでいるだけだが。
今日はやたら、勉強している妹の足が、俺の足に当たる。
事故だろうが、ちょっと興奮してしまうので心からやめてほしい。
そして、学校も終わり、GWになり、既に2日が過ぎた。
そして、特に何も起きなかった。
リサとゲームしたりアニメ見たりして遊んだだけである。
楽しかったが、昔とあまり変わらない。
昔ならこの感情を寂しいとすら思わなかっただろう。
それだけ、今の俺は恵まれたってことか。
きっと、休日に出かけている高校生は存在してないんだ。
テレビとかで見るのはきっとみんなサクラだ。
高校生なんて引きこもりだ。
だって、わざわざ編入したんだから、何かイベントあってもいいだろ!!
それでも何もないということはきっと、俺がおかしいわけではないはずだ。
流石にまだ、俺から人を誘うことはできない。
早乙女姉妹は何しているのかな?
妹の方は勉強とか言っていたけど、本当は、彼氏と遊園地でデートとかしているのかな?
そういえば、ラインで姉の方から『GWは何しているの?』とかきていたから、『ゲームで忙しいよ!!』と冗談のような、本当のようなことを書いたら『そっか……』と返って来たけど、嫌われてないよな……。
ゲームやアニメは大切なんだぞ?
あれ。なんで俺は、二人のことばっか考えているのだろう。
妹の方に言われた、『ストーカー』という言葉が気に掛かるがいいだろう。
暇すぎて、ぐずっていると、
「穴に指を突っ込んで、棒に刺激を与えて遊ぼうぜ!!」という須子からのラインが来た。
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