第16話 妹と仲直り
電話の相手は、妹の方か。
とりあえず知らない人ではないから話せるだろう。
でも、なんか嫌だな…嫌われているし俺。
ちょっと怒っちゃたし……
そろそろ電話が切れてしまうぞ。
仕方ない。頑張ろう。
「もしもし、陽菜ねー? どこいんの?」
「もしもし……」
「うわっ。え。誰?」
「驚かしてすいません。月城です」
「月城…くん…どうして……」
「ごめん…いきなり。詳しくはあとで説明する。ただ、早乙女さんが寝ちゃって、置いていくわけにもいかず……。
なかなか起きないから、このままだと寒くなってきたし、風邪をひいても困るし……それで、ちょうど電話が来たので勝手にとったんだけど……」
「ああ…そういうことか。一度寝ると起きないからな……。今迎えにいくよ? どこ?」
「体育祭の会場の近くの公園」
「わかった。今向かうから、もうちょい待ってて……」
「はい」
今、姉の方が起きてしまったらどうなるのだろうか。
両方から怒られるのか?
でも、いいことしたよね俺。
妹の方は連絡つかなければ心配するでしょ。
初めての電話が正しくできていたか自問自答を繰り返す。
しばらくすると妹の方が来てくれた。
一瞬だが、姉の方の寝ている体勢には少し驚いた顔をしていたが、普通に声をかけてくれた。
「あ、いた。陽菜ねーのことありがとう……」
実際に会ってみるとそこまで気まずい訳でもなかった。
と、いうか今回は、『姉のこと』という共通の話題があるからかも知れない。
「わざわざありがとう。なかなか起きなくて…」
「それもそうだね。姉がご迷惑をおかけしました……」
「いや、こちらこそ無理に色々と……」
「……その傷どうしたの?」
「ちょっと色々あって、それを勝手に自分のせいだと思って、早乙女さんが俺を介抱してくれた。全く、早乙女さんのせいじゃないのに……」
「そうなんだ……」
「これからどうするの?」
「とりあえず家に帰るしかないかな」
「もしかして、陽菜さんと打ち上げに行こうとしてた?」
「ん―。行く予定ではあった。でも、私も、陽菜ねーも別にそこまで興味ないし。ちょうどいい理由できたかなってところだと思うよ」
「そっか。で、どうやって帰る?」
「タクシーで帰るかな。そこまで遠くないし」
「なるほど」
妹の方は、アプリでタクシーを呼んだ
結構かかるようだった。
ベンチは大きかったので、もう一人座る余裕があった。
立って待たせるのもあれなので、声をかけてみることにした。
「す、座る?」
「……うん」
妹の方はゆっくりとベンチに腰掛けた。
「……」
「……」
共通の話題がないと気まずい。
当たり前だ。 妹の方とは今日は色々あったからな……
正直、もう話さないものだと思っていた。
「あのさ……家まで来てくれない? 運ぶの手伝って欲しいんだけど…」
「親とかいないの?」
「今日は二人ともいないんだよね。私一人じゃ運べないんだよね。もちろんタダでって言わないよ。何か奢るから」
「それは別にタダでやるよ。ただ、俺でいいの?」
「他に誰がいるの?」
そう言われても困るのだが、家バレとか嫌じゃないのかって意味で聞いたんだけどな……
「…いや…馬込くんとか呼べば来てくれそうゃん」
「だから! 今日のは違うって言っているじゃん!」
「いや、いじりとかそういう話じゃなくて……
別に何もしないよ? ただ、家バレるの嫌かなって思ったから。せっかくなら、仲のいい馬込くんの方がいいかなって思っただけ……」
「知らない人には、家バレは嫌だよ。でも、別に月城くんは知っているし……。私は、馬込くんのことほとんど知らないし……」
「え。いやいや、前に、3人で登校しているところに会ったじゃん」
「ああー。あの時は、たまたま。たしか、陽菜ねーに声をかけたんじゃなかったけ。 流れで3人で行動してただけ」
「じゃあ……なんで…一緒に来たんだよ…」
「それは…朝、バトンの練習してもらっていたの。陽菜ねーが連絡してくれて。私は、努力しないとダメなの…」
「なら、そういえば良かっただろ…」
「恥ずかしいじゃん…。私は、陽菜ねーみたいに才能ないから…努力してるって恥ずかしくない…?」
「は? 努力は恥ずかしくねーよ。努力している奴が一番かっこいいは! もしバカにする奴がいたら俺が全力でぶっ殺すは!」
珍しく、ムキになって、声が大きくなってしまった…
俺の育った環境では、やけに才能と努力の対立が問題視されてきたから、余計にその話題に敏感だった。
俺は、ずっと努力できるやつを心から尊敬していた。
世の中のほとんどは、才能が好きらしいが。
「……ありがとう。すごく嬉しい」
「……ごめん。ムキになって大声出して…」
「いや…ムキになってくれて嬉しかった」
妹の顔がやたら赤い。
それはそうか。
『ぶっ殺す!』とか中学生でも言わない言葉を傷だらけの男が言ったのがバカらしく恥ずかしかったのか。
まあ、いいか。反射的に出てきた言葉だし。
一つ確認したいことがあった。
「ねえ……もしかして、リレーの時、馬込くんとやりたかったのって……」
「うん。 ごめん……。言葉足らずだった。ミスしたくなくて」
「いや。俺こそ、何も知らないのに、でしゃばってごめん」
「私こそ、バトンパスミスの時、コケてごめん」
「いや。俺に急に変更されて、タイミングとか変わってやりにくかったよな…せっかくの努力を無駄にしてごめん」
「い、いや、タイミングは良かったの…ただ…」
「……ん? ただ?」
「だって、だって、……」
妹の方はポロポロと涙を流し始めた。
「怖かったんだもん! 嫌われているって思って。そ、そしたら急に足が…すくんで、もつれちゃった…」
「別に嫌ってないよ?」
「だって、だって、私はさ…あんまり男子とは話さないタイプだからどの程度かわからないけど…
結構仲良くなったと思っていたのに……薄い関係って……言ったから…」
「いや、あれはさ……。俺だって薄い関係だって思ってないよ…」
「……ほんと?」
恥ずかしくていいたくない気持ちもあるが、涙を見てると真実を話したくなってしまう。
「俺はさ…バカにされていると思ったんだ…。
早乙女さんのことをあんまり人と関わらないタイプだと思ってた。
それなのに、馬込くんと体育祭きてさ、きっと2人で俺の筆談とか見て笑っているのかなって……。だから、ちょっと見栄というか……」
「ほんとに!?」
「……うん」
まあ、流石にキモいと思われたか。
ただ、妹の方は泣くのをやめた。
「そんなこと絶対しない! 紙だって誰にも見せてないもん! 家にあるし!」
「そ、そっか。なら良かったよ…」
捨てていないのか。捨てられていると思ってた。
「じゃあ、パスミスした時『そんなに嫌だった?』て聞いたのは…馬込くんと付き合っていると思ってたから?」
「まあ…うん。付き合っているというか、今後付き合うのかなって。だからバトンパス的な行事したかったのかなって……思いっきり飛ばされたから嫌われているのかと…」
そういうとさっきまで泣いていたくせに、クスクスと笑い始め、しまいには、堪え切れず爆笑し始めた
「何それ! だめだ……笑いすぎてお腹痛い! 拒絶の仕方独特すぎない? まあ、朝練のこと言わなかった私も悪いか。もし嫌なことあったら、その時はちゃんというから安心して!」
「そうしてくれるとありがたい」
「まあ、ないと思うけどね。そんな時は」
「そう祈るよ」
「てかそもそもなんで、リレー走ろうとしたの? 足首痛かったんじゃないの? 無理やり言われてたから?」
「足首痛いは口実だった。ただ、仕返しというか……」
「仕返し…?」
「あれ?、鬼頭って知ってる?」
「キトウ?」
いや下ネタを言ったわけじゃないからな!?
もしかして姉の方は、妹に鬼頭のこと教えてないのかな?
変に言うのは良くないかもしれないな。
「とにかく、カッコをつけたかった年頃だと思ってくれ……」
「そうか。そう言うお年頃ね。面白いね!」
「あまり、惨めに思わないでくれ」
「思わないよ! 超速かったし! カッコよかったと思うよ!」
「小学生ならモテたかな?」
「小学生じゃなくても、す、好きになる人は…いるんじゃない?」
「流石にいないだろ」
「……。 でも、すごく堂々としてたね! いつもは少しおどどしてるのに。 本番に強いタイプ?」
「全然」
「うっそだー!!」
なぜ妹に緊張のことを話さなかったのかは自分でもよくわからない。
姉に話したんだからと思う自分もいれば、病気じゃない人には理解されないと思っていたのか。
姉の方とだけの秘密としておきたかったのか。
それとも、単なる見栄なのか。
「てかさ、図書室……もう来ないの…?」
「い、いや……そっちが嫌じゃなきゃ…行くよ……」
「そっか。そっか。じゃあ、待っているよ!」
「いつも俺の方が早いけどな?」
予約したと思われるタクシーがやってきた。
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