第15話 姉を遠隔操作するのはやめてください!
「え。打ち上げ行ってないの?」
姉を見つけた俺は自然と心の声が漏れてしまった。
「いや、その……って、ちょっと! どうしたのその傷!」
「転んだだけだよ」
「どうせ、鬼頭にやられたんでしょ? 声かけられてたから心配で待ってたんだよ。本当にやるとは思わなかったけど……」
「なんでわざわざ……打ち上げ行かなきゃダメでしょ」
「そんなこと私のせいだからに決まっているでしょ」
「いや。それは違う! 今回は、リレーで調子乗ったからボコされただけだよ?」
人生初、ボコされた理由を説明した気がする。
「とにかく、近くに公園あるから、休もう?」
「大丈夫だよ……」
「いいから、行くよ!」
俺は手を引っ張られ公園まで案内された。
これは手を繋ぐというのか?
違うな。駄々を捏ねている幼稚園児を引っ張っていく感じで引っ張られているし……
ただ、なんだ?この手の感触。
俺の手より一回り小さく、指も細い。
ただ、とても安心する。
俺たちは、公園内の、ベンチに座った。
「本当に傷は大丈夫なの? 病院行く?」
「大丈夫だって…」
姉の方はカバン中から絆創膏を取り出した。
「これくらいはさせて」
俺の顔に絆創膏を貼ろうとした。。
動かないほうがいいのかな。
俺の顔をまじまじと見て、気持ち悪くなってないか心配である。
「あ、ありがとう。そ、そっちこそ、リレーの怪我は大丈夫なの?」
「平気だよ! 仕事の方は、加工で治るけど、もしかしたら深月ちゃんにやってもらうかも……」
足は、今は処置が施されているが、結構な擦り傷であったのは覚えている。
「そっか……」
俺は慰める言葉を知らなかった。
「今後さ……話すのやめた方がいい?」
「え。俺……なんかした?」
「いや。また目つけられたらさ……」
「ああ。まあ、6組とは授業とかでは接点ないし、大丈夫でしょう。
中学生じゃないんだから、教室でボコボコにされることはないと思うよ。あ、でも、俺と無理に話せってことではないからね?」
「私はもっと話したいっていうか……」
「俺みたいな陰キャと話してくださることが夢のようだよ」
「なんでよ〜全然楽しいよ! じゃあ、これからも話すよ?」
「嫌じゃなきゃ、話してくれると嬉しいです…」
「てかさ…なんで走ったの? 走るのはあまり緊張しないの?」
そうだよな。
結果的に、せっかく緊張のことを信じてくれた人を裏切ったことになってしまった。
「ごめん。裏切ったみたいになって。緊張は本当にするんだ。ただ……」
「ねえ、ちゃんとした理由あるんでしょ? 教えてよ〜!!」
嘘をつくことは簡単だ。
ただ、せっかく信じてくれた人に嘘はつきたくない。
「いや…キモい理由だからやめない?」
「別に思わないって! ね〜いいじゃん! 教えてよ〜」
「あれだよ……早乙女さんが佐藤にやられるところを見ててさ……」
「じゃあ、仇とってくれたの?」
「そこまでたいそうなものじゃないよ……。ただ、ちょっと邪魔してやろうかなって。勝手に変なことしてキモくてごめん」
「いや、すっごく嬉しい。誰も気がついてくれてなかったから。でも、じゃあ、緊張とか大丈夫だったの? 無理に走ったんじゃないの?」
「いや、唯一緊張が治る時は、怒っているときで、その時は周りの目線とか怖くなくなるんだ。終わったあとには恥ずかしさが10倍くらでやってくるけど……」
「そうなんだ! 怒ってくれてありがとう!」
「ほんとごめん…」
「なんで普通に嬉しいよ? かっこよかったよ? 超速かったし」
「そういうのいらないって」
「てか、リレーの時、私のことずっと見てたの〜? それで怒ってくれたんだよね〜?」
「い、いや、そ、それはさ? 相手が鬼頭の女っていうからさ。何もないといいなって心配してただけで……」
「そんな理由? 私は棒倒しの時見てたよ? 筋肉多くてかっこいいな〜って」
「いじるのは良くないですよ。鬼頭がいたから見ていたんでしょうよ」
「えーー? どうかな〜〜??」
これって、いい雰囲気というやつなのか?
勘違いしてしまいそうだ。
まあ、姉の方は、誰にでもこんな感じだろうと容易に想像できるから勘違いはしないのだが。
もし、キスしたのが姉の方だったなら、この雰囲気だから、『あの時なんでキスしてきたの?』、とかノリで言えるのに。
残念だ。
「安心したら眠くなってきちゃった……。正直、結構、体辛いんだけど寝ていい?」
「え。うん。もちろん。大丈夫? 心配かけてごめん…」
「お互い色々抱えているね…」
「早乙女さんは、俺なんかよりよっぽど頑張っているよ」
「そんなことないよ〜!」
そのまま寝るのかと思ったら、『よいしょっ』と言いながら、体を横にして俺の膝の上に頭を乗っけた。
女子ってこんなことするのか。
男と思われていないのか。
そんなに気にしないものなのか?
相場感がわからない……
それにしても、俺の股間の方を見るのはやめてくれ。
せめて、遊具の方を向いて寝てくれ……
綺麗な横顔だ。 鼻筋が綺麗だ。
触れてみたい。
「頭、重くない?」
「お、重くはないけど、この体勢でいいの?」
「え? やっぱり、やだ?」
「いや、そっちが嫌かなって…」
「え〜なんでよ〜? 逆にいいの?って感じ! おやすみ〜」
そういうと、目を瞑って、あっという間に、かわいい鼻息を立てて寝てしまった。
俺には、『おやすみ』という勇気はなかった。
『おやすみ』ってカップルが言うセリフじゃない?
考えすぎか。
15分くらい経った。
起こさないように体を動かさないようにじっとしているのは辛い。
てか、ノリで『うん』とか言っちゃたけどこれいつまで続くのかな。
少し寒くなってきたな…
少し揺らしてみたが起きない。
風邪引かせても困るし。どうしようかな。
悩んでいると、『ブーブー』とバイブ音が鳴った。
俺の携帯かと思ったが違う。
特に連絡する人もいないから当たり前である。
よく聞くと姉の方の股の方から聞こえてくるぞ……?
え。これ知っている。まさか!?
俺は近くにリモコンを持った男を探した。
『んっっっ!』
眠りながらも、姉の方は、振動により、吐息を混じりながら声を出した。
あああああああああああああああああああ
近くにいる人。頼むから遠隔操作はやめてください!!
これ以上この声を聞いたら、僕の僕が大変なことになってしまいます。
そして、膝枕をしているため顔が近くにあるんです。
僕の僕が成長して、姉の方の口に当たってしまいます!!
危険ですからおやめ下さい!!!と心の中で叫んだところ、
よくよく見ると股のほうに四角い何かがある。
ああそういうことか。
ポケットに入れてたスマホが、横になったことで
よからぬとこに当たっていただけか。
これはチャンスでは?
電話の相手が知り合いだったら、迎えに来てもらったりして、助けてもらえるかもしれないぞ!
でもな…早乙女さんに電話かけてくる女子は陽キャすぎて会話できなさそうだし、彼氏とかだったなら、理由を説明するのはダルいし、精神的に辛いし……
もし、妹の方だと話せるが…気まずいよな…
色々あったし…
でもこのまま過ごすのもキツイぞ?
仕方ない…
俺は姉の方のポケットに手を突っ込み、スマホを取り出した。
全国の男性に褒めてもらいたい。
ポケットの中に手を突っ込んだにも関わらず、俺はスマホしか触れていないんだ。
相手が寝ているのに!だぞ!
偉い! 俺!
一旦、自分褒めて精神を落ち着かせた。
名前を見ると【深月ちゃん】と書いてある。
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